第44話 男性教育
他のエルフ族の村を回る旅から戻ってきて、1週間ほどが経っていた。
旅の後処理をしたり、僕に起こった変化を四賢者や村人にキチンと説明したりと、結構慌ただしく過ぎていった日々も、ようやく落ち着いてきた感がある。
とは言え、僕の見た目や中身の変化によって、今でも村人のエルフ少女たちが妙に浮足立ち、ソワソワとした雰囲気であることは否めない。
僕としても、さてどうしたものかと考えていたが、相談したゼフィラは、僕の悩みを一笑に付した。
「そんなもの、気にする必要はない。そうじゃの、これからは村人たちと積極的に触れ合うことをケイの仕事としようかの。あとは、男性機能復活のための研究さえ進めてくれれば良い」
それではほとんど遊んでるようなものではないかとも思うが、それが皆の望みなのだと言われれば、反論の余地はなかった。
ゼフィラやアルメリアたち四賢者の集まりが多くなっていたり、何やら裏では色々と動いてくれているらしいことが分かるからこそ心苦しい面もあるのだが、その分、できるだけ皆との交流機会を増やしていきたい。
と言うわけで、交流の一環として僕が訪れているのは、かつて僕がティリアたちと即席のお風呂を作った川辺だった。
最近は学校での授業が終わると、ティリアたちとこの場所に訪れるのが定番となっている。
いつもの幼女4人組とアルメリアを引き連れて、小川にやって来た僕は、川辺の様子を見てため息をつく。
「何度見ても、ちょっとこれはやり過ぎじゃないかなあ」
そこは、かつての長閑な水浴び場の姿は無く、2つの大きな露天風呂と、脱衣場を兼ねた休憩施設。更にはまるで趣のある温泉宿の離れのような、お風呂付きの平屋の建物が鎮座していた。
「何を言っているんです。これでも遠慮したんですよ?
本来ならもっと巨大なお風呂施設を作ろうと思っていたのですから」
心外だという表情のアルメリア。
そんなこと言っても、知ってるんだよ。ゼフィラに怒られそうになった時、リーリを生贄に置いて逃げたこと。
「尊い犠牲でした……」
「ひどいですよ、先生」
しらばっくれるアルメリアを、恨みがましい目で睨むリーリ。
苦笑してリーリの頭を撫でてあげると、すぐにリーリの機嫌は直った。まあ、アルメリアとリーリはお風呂愛好家の同志だから、本気で怒っているわけでもないんだろうけど。
ちなみに、その離れの建物……通称『温泉宿』は、村人たちに大人気で、予約制で宿泊したりもしているらしい。
「それにしても……今日も大人気だねー」
僕の隣でティリアがちょっと困ったように眉を下げる。
小川の露天風呂は、2つともかなりの人数で埋まっている。さすがに入れ替え制の人数制限があるので、ギチギチとまでは言わないが、明らかに人数上限いっぱいまでは入っているだろう。
「他の時間はこんなに混み合ってないんだけど。まあ、仕方ないよね」
「ケイが来る可能性のある時間帯は、いつも大人気」
カレンとルティスが、諦めの表情で肩をすくめる。
そう。この混雑はたぶん僕のせいだ。
ゼフィラにも頼まれているから、僕は村中の至る所で村人の少女たちとの会話や触れ合いを楽しんでいる。
だから僕に会いたいだけなら、機会はいくらでもあるだろう。
ただこのお風呂は、その中でも数少ない、僕と『裸のお付き合い』ができる場なのだ。
かつて僕がお風呂に入る時は、あくまで人形の姿でティリアに抱かれていることがほとんどだった。だから僕が一緒にお風呂に入っていることを、周りが気にすることもなかった。
でも今は、普段から常に男性体でいることが多い。もちろんこれは、皆に男性というものをよく知ってもらうためだ。
そういった目的がある以上、お風呂に入る時だけ人形に戻るというのも、おかしな話だ。
元々は土でできていた身体のコーティングも完璧で、完全防水の人肌ボディも手に入れたのだ。
恥ずかしがってなどいられない。これはつまるところ男性の事など何も知らない無垢な少女たちへの、初めての性教育の一環なのだから。
「今日はどちらのお風呂に入りますか?」
アルメリアがいつもの調子で僕に問う。
ちなみに僕たち5人に関しては、お風呂研究会会長のアルメリア特権で、人数制限がかかっていても入浴が可能となっていた。
既にお風呂に入っている少女たちに、若干の緊張が走る。
「えっと、いつものようにまずは一ノ湯に入ろうかな。その後少し身体を冷ましてから、二ノ湯にも入るつもりだけど」
きゃあっと可愛い歓声が、それぞれのお風呂に入っている少女たちからあがる。
うん、こんなことで喜んでもらえるならお安い御用だ。多少の恥ずかしさなど、気にしたら負けだ。
僕はティリアたちと一緒に脱衣場に入ると、躊躇いを捨てるように、思い切って服を全部脱ぐ。
僕の周りでは、幼女組が楽しそうにお喋りしながら、あっと言う間に丸裸になっていく。
その傍らでアルメリアもゆっくりと服を脱いでおり、それがまるで僕に見せつけるように艶めかしく、僕は思わず僅かに目を逸らした。
アルメリアはいつもの眠そうな目を、少しだけ嬉しそうに細めて、その滑らかで白い裸身を僕に晒すように、下着まで脱ぎ捨てる。
アルメリアめ、絶対に分かっててやってるな……
人形の時であれば、少女たちの裸を見て多少変な気持ちになったとしても、特にバレることはなかった。
でも今は、まだ完璧ではないとは言え、正常な男性としての身体を持っているのだ。ヘタに感情が動かされると、身体の一部が反応してしまう可能性が大いにある。
もちろん、僕の本体との毛糸の神経接続をその部分だけ切っておけば、反応させないようにすることは簡単だ。
でも、やはりそれでは男性として普通ではないし、皆にとっても誠実ではないと思う。
そんな僕の葛藤を知ってか知らずか……いや、十中八九知っててやってるんだろうけど、アルメリアが美しい曲線を描く臀部を僕に見せつけるように、先に立って露天風呂へと歩いていく。
ふう、落ち着け僕。あんな挑発に負けるなっ……
「ケイちゃん、早く行こっ?」
ティリアが無邪気に抱きついてきた。
小柄で平坦な体型ながらも、女の子特有の柔らかな感触が、僕をダイレクトに刺激する。
「…………」
「ケイちゃん?」
今のは……危なかった。
でも大丈夫。ギリギリ耐えきったから。
「なんでもないよ、行こうか」
僕は平静を装って露天風呂へと向かう。
脱衣場を出て洗い場へと向かう僕に、たくさんの視線が絡みつく。
ある人は恥ずかしげに、ある人は興味津々に。
視線の質に多少の違いはあれど、全員が僕の肉体に注目していることに変わりはない。
だから僕は一切何も隠さず、堂々と歩く。
これが男性の身体なのだと、しっかりと覚えてもらえるように。
そして洗い場で身体を流した後、片方の露天風呂、一ノ湯に向かう。
「ケイ、こちらへどうぞ」
先に湯船に入っていたアルメリアが、少し横につめてスペースを開けてくれた。
僕は遠慮なく、その場所にチャプンと身体を滑り込ませる。うん、今日もいいお湯だ。
さすがにティリアたちは、少し離れた場所にそれぞれ入り込んでいる。
一息ついて見回すと、僕の周りにはアルメリア以外にも村の見知ったエルフたちが身を寄せ合うようにして入浴しており、お湯で温まったためか、それとも間近で僕の裸を見ているためか、一様に頬を赤く染めている。
分かりきったことだが、エルフには若い見た目の人しか居ない。しかも種族の特性なのか、みんな細身でスタイルが良く美人揃いだ。
そんな少女や幼女たちが、なんの恥ずかしげもなく、魅惑的な肌を晒して僕を見つめているのだから、平常心を保つのも一苦労というもの。
これがつまり、世に言うハーレムというやつなのか?
そんな内心はもちろん表に出さず、僕は周りのエルフ少女たちと他愛もない会話をしながら、お風呂を楽しむ。
温かなお湯の感触を楽しめるのも、ノニの協力で生身と遜色ない肌を作ることができた恩恵だな。
しばらくお風呂に浸かり、僕の身体が充分に温まった頃を見計らって、1人の少女が立ち上がり、チャプチャプとお湯をかき分けて僕に近づいてきた。
「あ、あの……ケイさん。お、お背中流しましょうか?」
僅かに緊張した様子で僕の前に立つのは、緑がかった金髪のエルフ少女。見た目は人間換算で10代半ばくらい。
そうか、今日の当たりクジを引いたのはこの娘かと、僕は心の中でこっそりと独りごちる。
実は、僕がお風呂に入っている時には、むやみにお触り厳禁という暗黙のルールがある(ちなみに僕から触るのは、むしろ推奨されている……)
まあ、そんなこと知ったこっちゃない感じで、さっきから僕の肩に小さな頭を乗せて、のんびりと湯を楽しんでいるアルメリアみたいのもいるけど、これは例外。
で、そんな中、唯一公然と僕に触れる機会として、「湯女番」と呼ばれる役割が生まれた。
これは僕がお風呂にいる時に、その日の当番として1人だけ、僕の身体を洗う機会を得ることができるというものだ。
基本的に毎日希望者によるクジ引きで決められているらしいが、かなりの人気でプレミアチケット化していると聞いている。
元々はティリアたち幼女組が僕と一緒に身体を洗いっこしているのを見て、アルメリアたちが一緒になって僕の身体を洗い始めたのがキッカケで生まれたものだったと思う。
もちろん、そのお誘いを受けるも断るも、僕の自由意志だ。
でも、僕のためにわざわざクジ引きで勝ち残り、勇気を出して声をかけてきてくれたのに、とてもじゃないけど断れるわけがなかった。
「うん、ありがとう。お願いするね」
僕は肩に乗っかったアルメリアの頭を押し戻すと、声をかけてきた少女と一緒に風呂から上がる。
「んむぅ」とアルメリアの不服そうな声が聞こえるが、とりあえずそれはスルー。
「えっと、確かミント……だっけ? 果樹園で働いている」
「覚えててくれたんですか!? まだ1・2回しか話したことないのに……」
驚いた様子のミント。
僕は1度でも会話した娘の名前は、必ず覚えるようにしている。女の子たちを幸せにするなんて大きな事を言ってるんだ。これくらいはしないとね。
感動したように目を潤ませる彼女を引き連れ、僕は洗い場の椅子に座った。
「じゃあ、お願いね」
「はいっ! 頑張ります!」
元気に返事をして、ミントが石鹸を泡立てた綿布で僕の背中を優しく擦り始める。
「力加減はどうですか?」
「うん、気持ちいいよ」
良かったです!と、僕の背中から腕へと洗う範囲を広げていくミント。
そして僕の背中側から洗える部分には全て手を伸ばし終わると、ミントは躊躇うように暫し固まった。
周りからは小さく「そのままいけ!がんばれ!」だの、「お前ならやれる!」と言った声援がコソコソ上がっているのが聞こえるけど、僕はあえて聞こえないフリをする。
「あ、あの……っ! ま、前の方も洗っていいですかっ……?」
「うん、お願いしようかな」
「……っ!……はいっ!ありがとうございます!」
不安そうだったミントの表情が、僕の返事を聞いてパァッと明るくなる。
小さく「やった……!」と声を漏らしながら、ミントは僕の前側に回り込んだ。
座った僕の目の前にミントの白く瑞々しい裸身が現れる。思わずドキリとする僕に頬を染めて微笑みかけ、ミントはそのまま僕の前に傅くようにかがみ込んだ。
細い指先とその手の綿布が、僕の首筋から胸元、そしてお腹へと丁寧に滑っていき、ヘソのあたりで一度止まる。
ゴクリ……という唾を飲む音が、ミントからだけでなく、周り中から聞こえた。
「し、失礼します……っ」
ミントの小さな手が僕の下腹部へと延びた。
優しく、丁寧に、大事な宝物でも扱うように、その繊細な指先が僕の大事な部分を洗っていく。
うん……無理。
我慢なんてできるわけないよね。
「あっ……」
洗っている手の感触で、ミントが最初に気づく。
そしてすぐに泡の中から、綿布を持ち上げるように元気に姿を現したソレに周囲の目も釘付けになった。
一瞬、周囲が沈黙に包まれる。
そして上がる大歓声。
「やったあ!」
「さすがケイくん、今日もご立派ね!」
「よくやったぞミントー!」
うん、何だこの状況……
額の汗を拭きながら、やり遂げた顔で満面の笑みを浮かべるミントに、周りから称賛と労いの拍手が起きる。
誤解を招く前に説明しておくと、別にこの村の皆の頭がおかしくなってしまった訳では無い。
かつてゼフィラが僕の身体の事を皆に説明した際に、こんな言葉があった。
「男性の身体は、女性への好意や深い愛情により、繁殖可能な状態へと変化する。これは種の繁栄のために、最も大事なことなのじゃ」
その言葉が拡大解釈されることにより、何故か皆の頭の中で、僕のソレが元気になること = エルフの繁栄みたいな構図が出来上がってしまった。
さすがにちょっと極論過ぎる、と訂正しようとはしたのだが、皆のやる気に水を差すのも憚られ、そのまま流されてしまった結果がこれである。
……いや正直、何の羞恥プレイだとは思うが、先だって言った通り、これはエルフたちへの性教育でもあるのだ。僕が身体を張らないでどうする。
無理やり自分を納得させ、僕はミントに湯をかけてもらって泡を落とすと、ゆっくりと立ち上がる。
もちろん僕の中心で別のモノも立ち上がったままだ。
きゃあきゃあと歓声の上がる中、僕は堂々たる振る舞いで歩みを進め、二ノ湯へと向かう。
湯に浸かっている女の子たちが、僕のために開けてくれたスペースに足を沈め、ゆっくりと腰を下ろした。
僕の前、最前列特等席で肩まで湯に浸かっていた少女の目前を僕の臨戦態勢のソレが通り過ぎ、続いて引き締まった腹筋、胸板、最後に肩まで浸かった僕と目線が合ったので、ニコッと微笑んであげたら、その子は鼻血を出して湯に沈んでいった。慌てて周りの娘が腕をつかんで引っ張り上げる。
フッ……ちょっとサービスし過ぎちゃったかな!
……何をとち狂ったことを言ってるんだ僕は。
これじゃあ控えめに言っても、変態以外の何者でもないのでは? しかも、かなりガチめのヤツ。
でもエルフの少女たちは、そんな僕を見て一様に嬉しそうにしていた。
今日もケイくんの元気で凄かったね!とか、次こそは、私もいい場所取るんだー、などという声も聞こえてくる。
あー……うん。
喜んで貰えてるなら、まあいいか。
どこかで決定的にボタンを掛け違えているという感覚を拭えないながらも、僕は皆とのお風呂の時間を楽しむのだった。




