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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第38話 強化訓練2


「よお! ケイ、やってるな」

 

 セロウから体術の訓練を受けていると、上機嫌のリオンが訓練所にやって来た。

 昨日の模擬戦を行ってから、僕への態度が、もはや近所の友達レベルになっている。

 

「よっし、模擬戦やろうぜ!」


 イヤだよ!

 そんな「野球やろうぜ!」みたいに簡単に誘わないでくれる?

 ……この世界に野球があるのか知らないけど。


「えー、いいじゃんかー、やろうぜー」


 僕の背中にへばりつき、肩を掴んでがくがく揺らしてくるリオン。

 えーい、駄々っ子かお前は。


 そんな僕たち2人を、セロウは何だか少し複雑そうな表情で見つめていた。

 

「ずいぶんリオンに気に入られましたね」


「そうかな? これって気に入られてるの?」


「はい。リオンが私以外に、ここまで甘えているのを見るのは初めてです」


 甘えてる……のか?

 まあ、まがいなりにもアニムの族長だし、普段は威厳を保つようにしているのかもね。


「いえ、舐められないように見栄を張ってるだけです」


 君たち、ヤンキーの集団か何かなの?

 まあ、とにかくだ……


「僕は今、体術の練習中なの! だから魔法とか無しで、ただの組手ならいいよ」


 そう言って、背中のリオンを引っぺがす。


「お!それでもいいぜ! やろうやろう!」


 存外、乗り気なリオン。

 本当に、ただ一緒に遊びたいだけなのか……


 そこから、僕とリオンの組手が始まった。

 セロウに習った動きの効率化を最大限に活かしてリオンの相手をするが、そこはやはり地力の差があるため、あっさりと1本取られてしまう。


「なかなか良くはなってるけど、まだまだだな! スピードは申し分ないが、動きが単純だ」 

 

「そりゃあそうだよ。まだ習い始めたばっかりなんだから」


 楽しそうなリオンの相手をしていると、いつの間にか周囲で遠巻きに見守っていたアニムの村の少女たちが、おずおずと近づいてくる。


「あのーケイさんですよね? 昨日の試合すごかったです! 私とも組手をしてくれませんか?」


 ふむ。まあ僕は練習になるからいいけど。

 チラリとリオンを見ると、特に気にした様子もなく、「そうだな、実力が近い相手との方が身になるかもな」と、頷いていた。


 ならばと、その少女との試合を受けることにする。

 少女は、さすがに基本はよくできているが、リオンに比べれば動きの柔軟性に欠けていたため、何とか速度を活かして勝利することができた。


「あ、あの、次は私とも……」


「私もお願いします!」


 それを見ていたエルフ少女たちが、続々と集まってくる。

 いつの間にか順番待ちの列ができ、よくわからない百人組手みたいなのが始まってしまった。

 

 何だか最近、どこに行ってもこんな感じだなぁ……

 まあ男性としての交流を深めるという意味では、良いことなのだと考えよう。


 結局、その日は夕方まで順番待ちの列は途絶えることなく、僕は一日中、練習に明け暮れることになった。

 最初は村の女の子たちに負かされることも多かった僕だが、試合を重ねるごとに動きをブラッシュアップし、新たな動きの連携パターンを記憶していく。そして実践と修正を繰り返すことで動作を最適化し、後半はほとんど勝利をもぎ取れるようになっていた。

 

 まあ、さすがに最後までリオンには勝てなかったが。

 

 あいつ、10回に1回くらいは族長特権だとか言って試合に割り込んできて、僕の実力試しを行ってたし。

 試合を行うたび、リオンと打ち合える時間が長くなっていき、併せてリオンの機嫌も上がっていった。

 最後の1回は、結構いいとこまで行けたと思うんだけどな。

  

「アハハハ! すげえ!どんどん強くなってくな! ケイ、お前最高だよ!」 


 僕の肩を抱くようにして、バンバンと背中を叩いてくるリオン。

 痛いからやめて? 生身だったら背骨、逝ってるよ?


 そんなワチャワチャとじゃれ合う僕たちを、離れた場所からセロウが見つめていた。

 リオンの相手で手一杯だった僕は、その時のセロウの表情に、気づくことができなかった。



 ――――――――――――――――



 その夜、セロウは1人で星空を見上げていた。

 この世界には2つの月がある。

 大きく白い輝きを放つ真月(しんげつ)と、赤く輝く小さな創月(そうげつ)。


 暦によって空を渡る方向が少しずつ変化する真月と、常に一定の軌道を描く創月は、時節によって離れたり、寄り添ったりと、異なる様相を見せる。

 今夜の月は、ほぼ重なり合うように、並んで輝いていた。


 セロウの口から、小さなため息が漏れる。

 

「私はどうしてしまったのでしょう……」


 続いて漏れる言葉は、誰にも聞かれることなく、夜風に流されていった。

 昨日から……いや、正確にはリオンとケイの模擬戦の後くらいからだろうか。セロウの胸に小さな、しかし無視のできない痛みのようなものがある。


 物理的なものではない。

 気持ちに、心の中に、小さなトゲのようなものが、刺さったまま抜けない感覚。

 

 自分の中で何が起こっているのか、論理的には説明ができない。

 でも、原因は分かっている。


 ――ケイ様が来てからだ。

 

 いつも見慣れた、リオンの明るい笑顔が思い浮かぶ。

 でも、違う。

 幼い頃から常に一緒にいた、セロウにだけは分かる。

 リオンがケイに向けるあの笑顔は、今まで誰にも……私にさえ見せたことのないものだ。

 どこが違うという説明はできない。でも、何かが決定的に違うのだ。

 

 ケイとリオンが親しく話しているのを見ると、胸の痛みが強くなる。

 リオンがケイにしがみついているのを見ると、いたたまれない気持ちになる。

 

 この気持ちが何なのかは分からないが、ケイに対しては、気を付けておく必要があるだろう。

 もちろん、ケイがリオンや私に何か悪意を持った行動をするとは思えない。

 でも、ケイは今までこの世界に存在していなかった『男性』という存在らしい。もしかしたら、意図せず何かの悪影響をリオンに及ぼしてしまうという可能性は捨てきれない。

 リオンは単純だから、何かあっても気づかないかもしれない。私が注意をしておかないと。 


 セロウはもう一度ため息をつき、空を見上げた。

 

 自分の考えが、的を射ている気は全くしていない。

 でも今のセロウには、それ以上の結論を導き出すことはできなかった。


 空には相変わらず2つの月が並んで輝いている。

 一瞬それが、並び立つリオンとケイの姿とダブって見えた。

 

 セロウの胸の痛みが、少し強くなった。



 ――――――――――――――――



「さて、ケイよ。準備はいいかの?」


 セロウや村の少女たちとの訓練に明け暮れた翌日。

 今日は予定されていた「魔羊狩り」を行う日だ。


 魔羊狩りには僕とゼフィラ、ミモザ、それにアニムの村からリオンとセロウ、および毛刈り要員で数人の村人が参加する。

 

 僕は改めて、教えてもらった魔羊の特徴を思い出す。

 

 基本的に魔羊は大人しい魔獣であり、こちらから手を出さない限り襲ってくることはないし、耐久力もあまりなく、倒すとしても手間は掛からない。 

 ただし、その命を絶ってしまうと、身にまとう『毛』が一気に劣化してしまい、使い物にならなくなる。

 そのため、魔羊の羊毛を入手するためには、生け捕りにする、もしくは意識を失わせるなどの状態で捕獲し、その毛を刈る必要があるとのこと。


 ただ1点注意することとして、魔羊が身を守るための特性がある。

 魔羊の体液(唾液や血液)には、強い麻痺毒の成分が含まれており、もしそれを浴びてしまうと、身体が痺れてまともに動けなくなるという。

 そのため、魔羊に怪我を負わせること自体も、できるだけ避けなければならない。


 つまり、1番良いのは一撃で魔羊を気絶させ、捕獲してからの速やかな毛刈りだ。

 下手に捕獲に手間をかけると、麻痺毒を含んだ唾液を吹きかけてくるらしいので、全ての対応をできるだけ素早く処理することが、コツらしい。


 アニムの村の入り口に、本日のメンバーが全員揃っていた。

 それぞれ、手には毛刈りに使うバリカンのような道具や、運搬用の大きな布袋を持っている。

 魔羊の群れのナワバリは大体決まっていて、ここから1〜2時間くらいの距離の場所だ。


「よし、さっさと行って、狩りまくってこようぜ」


 今日もリオンは元気だな。

 でも逆に、少しセロウの元気がないように見えた。


「セロウ、調子でも悪い?」


 僕の言葉に、セロウはハッとしたように顔を上げる。


「いえ、大丈夫です。問題ありません」


「そう? 何かあったら言ってね?」


 気のせいだったかな?

 よし、気を取り直して、魔羊狩りに出発しよう。

 僕のせいで村中の毛糸が無くなっちゃったわけだし。頑張って毛刈りをするぞ。


 

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