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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第34話 リオンとの出会い


「リオン! お客様の前で、なんて格好してるの!」


 村の中から、もう1人金髪の少女が走ってくる。

 こちらは髪をハーフアップにして、きっちりと服を着込んでいる。

 ああ、よかった。この村の人、全員裸族だったらどうしようかと思ったよ。


「おーセロウ。ほら、ゼフィラ様たちが来て……わぷっ!?」


「だから!服を!着なさいって言ってるでしょ!」


 すごい勢いで駆け込んできたセロウと呼ばれた少女が、手に持った上着をリオンの顔面に押しつけた。

 

「ゼフィラ様、ミモザ様、大変失礼致しました。それとケイ様、はじめまして。アニムの副族長のセロウと申します」


「うん、はじめましてセロウ。そんなにかしこまらなくていいよ? もっと気楽に接して欲しいな」


「ありがとうございます。口調については、お気になさらず。それより、お見苦しいものをお見せして申し訳ありませんでした」


 いや、全然お見苦しくはないし、むしろご褒美ではあるのだけれど……ちょっと目のやり場に困るのは確かかな。

 セロウの横で、被せられた服の下でモゾモゾ動いていたリオンの頭がスポッと飛び出てきた。

 

「ぷはっ! なんだよ、このくらい別にいいだろ?」

 

 袖の無い上着に頭と腕を通し、やっと直視できる格好になったリオンが口を尖らせる。

 ちなみに下半身は太ももまでしかないショートパンツだ。


「いいわけないでしょう……少しは族長としての礼儀を学んでください」


「その辺りは、セロウに任せてるから! 役割分担ってやつだな」


「どんな分担ですか……」


 うん、なるほど。もう大体理解できたぞ。

 苦労してそうだな、セロウ……


「まったく相変わらずじゃな、リオン。まあ、別にそこまで細かく言うつもりは無いが……今後、ケイの前では注意するようにしてくれ」


「ん? ああ、そうか。あんまりよくわかってないけど、ケイは男ってやつなんだよな」


 ゼフィラの言葉に、リオンは僕を上から下までジロジロと見回した。

 そして、「ふーん?」と首をひねる。


「確かにアタシたちとは体つきが違うな。まあまあ良い体格だけど、その身体は造り物なんだろ?」


 リオン!あまり失礼なことを言わないで!と、ハラハラした様子のセロウに「大丈夫だよ」と軽く頷いてみせる。


「まあ全部が本物ってわけじゃないけど、最近は少しずつ本当の体も取り戻してきてるんだよ?」

 

「へえー、そうなのか。じゃあ、ちょっと服を脱いで見せてくれ……」


「はい、そこまで」


 いつの間にかリオンの後ろに回り込んでいたセロウが、リオンの首にスルリと腕を回す。

 あれ、完全に締まってない? 大丈夫なの?


「本当に失礼ばかり申し訳ありません。後でよく言って聞かせますので……」


 いや、うん、それは別にいいんだけど……

 

 リオンの顔が赤くなってきて、セロウの腕をパンパン叩いている。


「ひとまず、ゼフィラ様たちには族長の家にお越しいただいて、これからの予定について相談をさせていただければと思います」

 

 うん、まさにその族長の顔色が、いまヤバいことになってるけど……

 僕は心配になってゼフィラたちに視線を送るが、ゼフィラもミモザも気にした様子がなく、セロウと談笑している。

 

 え、本当にいいの?

 なんか白目を剥いて動かなくなっちゃったよ?


「さて、では参りましょう」


 やっとセロウは腕を解き、動かなくなったリオンを、ズルズルと引きずり始める。

 唖然とする僕に、「まあ、いつもこんな感じじゃから心配するな」と、ゼフィラが苦笑しながら教えてくれた。


 そっか、いつもこんな感じなんだ。

 じゃあいいか……いや、よくはないけど……まあ、そういうものなのだと納得しておこう。

 


 ――――――――――――――――


 

「で、今回の目的は魔羊狩りってことでいいんだっけ?」


 族長の家に着いて、セロウに雑に活を入れられたリオンは、一瞬自分がどこにいるのか分からなかったようで、キョロキョロ周りを見回した後、何事もなかったかのように会話を始めた。

 どういうこと? ちょっと怖いんだけど……


「うむ。それと折角じゃから、ケイに身体強化魔法の手ほどきを頼みたい。以前話した通り、ケイは魔力で自分の身体を動かしておるから、きっと身体強化は役に立つはずじゃ」


「ああ、そういやそうだったな。聞いた所によると、あの『エルフ喰い』と闘って、あと一歩まで追い詰めたんだって?」


 リオンの瞳に強い光が宿る。

 これは、値踏みされてる感じかな?


「うん。でも、結局トドメは刺せなかったし、こっちの方がボロボロにされちゃったけどね」


 ふーん?と、鼻を鳴らすリオン。

 僕の言葉を謙遜と取ったか、その瞳の興味の色はまだ消えていない。


「まあ、どっちにしろ、身体強化を教えるなら、どのくらい動けるのかは知っとく必要があるよな?」


 ある程度予想していたのだろう、セロウが渋い顔をしている。

 だが、言っていること自体は間違っていない。

 セロウが「では、私が……」と言いかけた所で、リオンが不敵に笑って言い放つ。


「じゃあ、アタシと一勝負してもらおうか?」


 ……やっぱり、そうなったか。

 さて、どうしたものかな?とゼフィラを見やると、やはり難しい顔をしている。


「リオンよ。言っておくが、ケイは誰かに格闘術のようなものを習ったわけではないぞ? 確かに儂やシレネなどから多少の魔法の手解きは受けておるが、徒手格闘については完全に我流のはずじゃ」


 まったく持ってその通りである。

 僕の近接戦闘の動きについては、本当に素人そのものだ。多少の目の良さと反応速度だけで何とか切り抜けてきたに過ぎない。

 

「わかってるって。どの程度の身体強化魔法を教えればいいのか、目安が知りたいだけだからさ」 

 

 そう言いながらも、明らかにリオンの表情は僕と戦うことを楽しみにしているように見える。

 セロウが困ったような表情で僕を見た。

 ゼフィラとミモザも悩ましげな表情で、どうしたものかと僕を見ている。


 僕は、あきらめたように肩をすくめた。

 

「いいよ、わかった。じゃあ模擬戦でもやろうか」


「よし、いいね! そうこなくちゃ!」

 

 リオンが満面の笑みを浮かべる。

 

 うーん、あまり期待されても困るんだけどな。

 とりあえず、軽く胸を借りることにしますか。



 ――――――――――――――――



「どうして、こうなった……」


 僕は大勢のエルフ少女、幼女たちに取り囲まれた闘技場の中心で頭を抱えていた。

 まあ闘技場と言っても、村外れの地面を円形に平らにならし、周囲に木で組んだ上下2段組のベンチが観客席として設置されているという簡易的なものだ。


 その闘技場の中心部で向かい合うのは、楽しそうに腕組をして立つリオンと、わけもわからず呆然と立ち尽くす僕。

 周囲の観客席は満員御礼状態で、立ち見のエルフまで大量にいる始末。恐らく村中の全員が集まっていると思われる。


「申し訳ありません、ケイ様……リオンが大ごとにしてしまいまして……」


 責任を感じている様子で、ペコペコと頭を下げるセロウ。

 いやいや、セロウは何も悪くないよ。原因は全てリオンにある。


 先程の会合の後、早速腕試しという流れで族長宅を出た途端、リオンが村中に響く声で叫んだのだ。


「今から、フラウ村のケイと、アニム族長のアタシとで決闘試合を行う! 場所は闘技場だ!」


「え? ちょっ……リオン!?」


 ウオオオー!!!

  

 湧き起こる歓声。

 集まる村人。

 どこからか出てくる出店。


 あっと言う間に、村外れの闘技場は、お祭り会場と化した。

 この村のエルフたち、ちょっとノリが良すぎない?


「すみません……みんな娯楽に飢えてるんです……」


 もはや土下座する勢いで頭を下げるセロウ。

 ああ、うん、大丈夫だから頭を上げて?


 まあ、ここまで来たら、もはや後には引けない。

 どうせ、最近どこに行っても見世物状態になる僕だ。

 アニムのみんなへの挨拶代わりに、ちょっと頑張るしかないか……


「ケイくーん、頑張ってくださーい」


 声の方を見やると、出店で買ったらしい串焼きを手に、最前列でにこやかに手を振るミモザ。

 その横には若干心配そうな顔をしたゼフィラもいる。


 僕は「心配しないで」という気持ちを込めて、笑顔で手を振った。


 観客席から、ワーッ!と歓声が上がる。

 意図せず、ファンサービスをしたみたいになってしまった……


「よし、準備が良ければそろそろ始めるか!」


 リオンが待ちきれない様子で、拳を打ち合わせる。

 勝負のルールとしては、僕は魔法でも武器でも何でも好きに使用可。リオンは身体強化魔法と拳のみ。

 少し不公平にも思えるけど、元々リオンの戦闘スタイルが拳のみとのことで、何の問題もないらしい。

 

 また、お互いに近接訓練用の結界魔法が掛けられているため、先に一発有効打を入れて結界を割った方の勝ちとなる。

 ガチの殴り合いとかだったらどうしようかと心配してたけど、さすがに安全面は考慮されてて助かった。


「ケイ様、気をつけてくださいね。いくら結界があるといっても、その許容量以上の魔力を込めた一撃を食らうと、余剰分は被術者に通りますので……」


 審判役のセロウが心配そうに教えてくれる。

 その情報は、聞きたくなかったよ……


「それでは、2人とも前へ。試合を開始します!」


 セロウの声が、満員御礼の闘技場に、高々と響き渡った。


 

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