第33話 アニムへの道
僕とゼフィラ、ミモザの3人だけの旅路。
フルツからアニムまでも、普通に行くと大体3日程度の距離だ。
少数メンバーではあるが、ゼフィラもミモザもエルフ指折りの実力者である。危ないことなど特になく、順調に旅は進む。
野営の際には、ゼフィラが大地に何やら魔法陣を描くと、地面が盛り上がり、岩で囲まれた頑丈なシェルターのようなものが出来上がる。
夜の見張りについても基本的にK1たちに任せられるので安心だ。
ただ1つ、ちょっとだけ気になるのが……
「ねえゼフィラ、ちょっとこのシェルター小さくない?」
ゼフィラが作ってくれたシェルターは、何とか3人が身を寄せ合って寝られる程度の大きさだった。
ルベルム達と旅をしていた時は、もっと大きいのを何個か作ってたよね……?
「そうかの? まあ人数も少ないし、魔力の節約じゃ」
なんか白々しいなあ……
ねえ、ミモザ?
「いいんじゃないでしょうかあ? 何の問題も無いと思いますぅ」
え? ミモザもそういう感じ……?
何か、わかり合ってる感をだして、頷き合うゼフィラとミモザ。
そして「さあさあ、もう休みましょう」とシェルターへと引き込まれていく僕。
なぜだか脳裏に、蟻地獄へと吸い込まれていく働きアリの構図が浮かぶ。
狭いシェルターの中、左右に密着した2人の体温が、否応なく僕の感情と感覚を刺激する。
いかん……一部とは言え、男の身体を持つようになったので、色々と注意が必要だぞ。
……ちょっと、下の方への感覚接続、切っておこうかな……?
「ケイくん、そろそろ約束を果たしてくれますかあ?」
突然ミモザに耳元で囁かれ、背筋がゾワッとする。
え? 何か約束してたっけ?
「私にも、完成したアレ、見せてくれるっていう約束でしたよねえ?」
え? いや、それは約束っていうか……
えっと、ほら、今はゼフィラもいるし?
「儂は全然構わんぞ。うむ。約束は守らんといかんの」
「だそうです。はい、観念してくださぁい」
え!?
いや、ちょっと、やめて! 脱がさないでー!
「確か、形が変わるのでしたよねぇ?」
「うむ、せっかくじゃ。機能を確かめておくのも良いかもしれんの」
え? ちょっと本気!?
待って待って、ダメだってそんなに触っちゃ!?
アッ――!!
――――――――――――――――
「いい? 2人とも? 僕は怒ってるんだよ?」
腕組みをして仁王立ちの僕。
その前には、正座したゼフィラとミモザ。
「すまぬ……」
「ごめんなさぁい……」
散々もてあそばれ……まあ、ちょっと流されかけた僕も悪いんだけど……最終的にこのままでは行く所までイッてしまうと危機感を感じた僕は、土魔法で固めた拳でシェルターを破壊。
やっと冷静になった2人を前に、今の状況に至る。
ミモザはともかく、いつもは冷静なゼフィラともあろうものが、どういうことなの?
「私がともかくっていうのは、ひどくないですかあ?」
ミモザは黙って。そこで反省してね。
僕の言葉に、ショボンと肩を落とすミモザ。
代わりに、申し訳なさそうに口を開くゼフィラ。
「ううむ……何を言っても言い訳にしかならぬのは承知しておるが、お主の、その……元気なアレを見てしまってから、自分でも理由が分からぬが自制が効かなくなってしまっての……」
「ええ……」
「もう一度見たい。あわよくば触りたいという、禁断症状のようなものが……」
僕のナニをそんなヤバいもの扱いするの、やめて?
とはいえ、うーん……今まで何百年も、男性を見たことも触れたことも無かった女性にとっては、本当に劇薬のような効果があるのかも? 女性の本能みたいな?
僕も、ちょっと不用意に見せつけたりしないように、気をつけないといけないかな。
……なんだよ不用意に見せつけるって……変態か?
「ふう、わかったよ。でも、こういうのはお互いの気持ちが大事なんだから、無理矢理とかは絶対ダメだよ?」
「うむ、本当にすまぬ……その、儂のことを嫌いになってしまったかの……?」
いつもの堂々とした態度と打って変わって、泣き出しそうな表情のゼフィラ。
見た目に関しては完全に幼女なので、まるで僕が小さい子に説教でもしているような絵面だ。
しかも先日、髪の毛を短く切ってしまったので、さらに幼く見える。そして、それだって僕のためにわざわざ切ってくれたのだ。
「いや、ゴメンね。僕もちょっと強く言い過ぎちゃったかも……こんなことで嫌ったりなんてしないよ」
「そうか、良かった……もう、無茶なことはせんから大丈夫じゃ。お主に嫌われるかもと考えたら、変な思いなど吹き飛んだわ……」
ゼフィラは、ホッとしたように表情を緩めた。
あのゼフィラが、僕に嫌われることに怯えている。
そこまで、僕のことを思ってくれているんだ。
僕は、思わずゼフィラを抱きしめた。
そしてその綺麗な長い耳に唇を寄せて「また2人きりの時にね?」と囁く。
ゼフィラの顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「あのー……私はいつまで、このままなんでしょうかぁ」
……あ、ごめん。ミモザのこと忘れてた。
「ひどいですぅ! さすがの私も傷つきますよぉ?」
むくれるミモザに、今度は僕が謝り倒すことになるのだった……
――――――――――――――――
フルツの村を出て3日後、僕たちは予定通りアニムの村へと辿り着いた。
道中色々とあったが、結果的にはゼフィラともミモザとも仲を深めることができたし、男女の関係性や距離間の保ち方など、ゆっくり話し合うこともできた。
やっぱり、生まれて初めて男性と関わるということで、どうしたらいいのか分からない部分もあるのだろう。
その辺りはこれからも、よく話し合って解決していきたい。
まあ、何はともあれ、無事にアニムに到着した僕たちを最初に出迎えたのは、行商隊のルベルムだった。
「ケイさーん! お久しぶりです」
「あ、ルベルム。タイミング的に、今回はもう会えないかと思ってたよ」
「いやあ、どうしてもケイさんの観察を続けたくて……じゃなくて、そろそろ部下たちも独り立ちさせなきゃと思っていたので、他のメンバーはちょっと近隣のドワーフの村にお使いに行ってもらいました。私は久しぶりに休暇中です」
明らかに最初に漏れ出てた方が本音の気もするけど……
まあ、とにかく僕もルベルムに会えて嬉しいよ。
「そうですか?ありがとうございます。ところで……」
言葉を止めたルベルムが、僕の左右に控えるゼフィラとミモザに目をやる。
うん? 何か気になることでもあった?
「いえ、なんていうか、ゼフィラ様たちとの雰囲気というか立ち位置というか……ちょっと前に比べて、すごく自然というか、いい感じになってませんか?」
僕たちを見比べて、目を瞬かせるルベルム。
その視線を受けたゼフィラは、すました顔で軽く笑う。
「そうかの? まあ、儂とケイはきちんと気持ちが通じ合っとるからの!」
なんとなく自慢げなゼフィラ。
小さい子が自慢げに胸を張っているようで、ちょっと微笑ましい。
直接言ったら怒られるから、言わないけど。
「そうですねぇ。私とケイくんも、何も隠さず、全てをさらけ出し合った仲ですからぁ」
気持ちの話だよね?
勘違いされそうな言い方はやめてね、ミモザ?
……まあ、気持ち以外のものを見せ合ったというのも、あながち嘘ではないんだけど。
「はあー……数日見ないだけで、何やら進展があった様子ですね。くっ……やはり目を離すべきでは無かった」
何やら悔しそうなルベルム。
あまり、僕を珍獣扱いするのはやめてほしいな?
そんな感じに再会を喜んで(?)いると、村の中から1人の金髪のエルフ少女が姿を現した。
「おー!ゼフィラ様に『激流』か、遅かったな!」
髪は短く、ボーイッシュなイメージ。
見た目は人間換算で10代後半くらいで、髪色からしてもまだ若いエルフなのだろうが、身にまとう空気は一流の強者感がある。
細身ではあるが、筋肉質で引き締まった健康的な体つきをしている……というか……
「こら、リオン! なんで、服を着ておらんのじゃ!」
僕の前に現れた少女は、上半身素っ裸……というか、ほぼパンツ一丁だった……
その少女は、ゼフィラの言葉など意に介さず、僕を見つけてニカッと満面の笑みを浮かべる。
「おっ! お前がケイだな? アタシは一応この村の長をやってるリオンだ。よろしくな」
「うん、よろしく……ていうか、なんで裸なの……?」
「ん? 訓練してる時とか、大体いつもこんな格好だけど?」
うん、そうか、大体いつもか。
じゃあ仕方ないか……いや、仕方ないか?
「そんなわけなかろうが……」
ですよねー?
フルツに続いて、アニムでも色々と一筋縄ではいかなそうな予感がするなあ。




