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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第32話 ノニの気持ち



「ええと、それでこれはどういう状況なのですかぁ?」


 ノニの家から出てきた僕たちと、ちょうど出くわしたミモザが首をひねる。

 僕の右腕には、トロンとした目のノニが絡みつき、左腕には何やらブツブツと文句を言いながらも、真っ赤な顔のゼフィラがしがみついている。


「ええと……まあ、その、一応の目的は達成できたので、明日にでもアニムに出発しようかという感じかな?」


「はあ……それは良かったですぅ。一切、状況の説明にはなっていませんがぁ」


「ごめんなさい。察してください……」


 少女に左右から挟まれて、あまり動きの取れない僕を見て、ミモザは苦笑する。


「仕方ありませんねぇ。ちなみに目的達成ということは、例のモノは完成したということですね?」


 ミモザの視線がチラリと下方に下がる。

 視線の先にあるのは、もちろん僕の下腹部だ。


「うん。まあ一応、見た目としては完成かな。機能としては、まだまだこれからだけど」


「そうですかぁ……」


 ミモザは、スッと僕の耳元に口を寄せた。

 甘く囁くような声が僕の脳裏に響く。


「じゃあ……私にも後で見せてくださいねぇ?」


 背筋をゾクゾクしたものが走り、僕は身を震わせた。

 勘弁してよミモザ……狙ってやってるでしょ?


「ふふっ……私だけ仲間外れは寂しいですからねぇ」


 打って変わって朗らかに笑うミモザに、僕は引きつった笑いを浮かべることしかできなかった……

 


――――――――――――――――



 その夜は、僕たちの送別会のような形で、ノニが宴を開いてくれた。

 僕としても、先日果たせなかった握手会の約束を果たしたり、ついに味わうことができるこの世界の料理や、ミモザのパンの味に感動することができた。


 でも、一番正直な感想は、早く鼻を作らなければ、というものだった。やっぱり匂いが感じられないと、おいしさも半減してしまうと思う。

 うーん、でも確か嗅覚というのも、結局は電気信号だったはずだから、魔力の運用でなんとかならないかな?今度ゼフィラに相談してみよう。


 広場の中央では篝火が焚かれている。

 その周りでは、すっかり村人たちの人気者になったK1たちがクルクルと回りながら踊っていて、みんなから拍手をもらっていた。


「ケイさん。少しいいですか?」


 みんなとの会話の切れ目を待っていたかのように、ノニがやって来た。

 もちろん。と、僕は座っていた敷物の横を開けるように、少し腰をずらす。

 

 僕と寄り添うように腰掛けたノニは、しばらく口を開かなかった。

 ゼフィラ達も、今は他の村人たちの輪の中にいるので、僕たち2人だけの静かな時間が流れる。


「ケイさん」


 宴の喧騒の中、ノニの小さいがハッキリとした声が、僕の耳に届く。


「愛しています」


 驚いて顔を横に向けると、イタズラが成功した子供のように、クスクスと笑うノニがいた。


「この気持ちは、そういうものなのだと、ゼフィラ様に教えてもらいました」


 思わずゼフィラのいる方を見やると、村人達と談笑しながらも、実はこちらをチラチラと気にしている様子。

 なるほど、と僕は苦笑した。

 この時間は、ゼフィラがノニの為に作ってくれたのか。


「ケイが発つ前に、私の気持ちを伝えておきたかったのです。私はこの村に残りますが、ナノマシンの研究は続けます。だから、また……お会いしましょうね」


 少し寂しそうなノニの笑み。

 僕はノニを安心させるように、優しく笑いかける。


「うん。きっとまたすぐ会えるよ。そんな気がする」

 

 そうなのですか?と小首をかしげるノニ。

 うん。最近、僕の勘はよく当たるから、期待していいよ?


「ふふっ……わかりました。期待して待ってます」


 隣に座るノニの肩が、僕に触れる。

 赤く燃える篝火の熱と、ノニが触れた肩から感じる熱が、じんわりと僕を温める。


 フラウの村とフルツの村は、たった3日の距離だ。

 とはいえ、簡単に行き来できる距離でもないのも確かで、初めて恋を知ったノニからしたら、耐え難い距離に感じてしまうのだろう。


 宴の喧騒の中、僕たちは長い時間2人で寄り添いながら、揺らめく篝火を眺めていた。

 

 

――――――――――――――


  

 翌日の朝、僕たちは出発の準備を整えて村の入り口に立っていた。


 また来てねーと声をかけてくれる少女たちに手を振り、K1たちを並べて行進させる。

 並んで歩くKsたちの後に、僕とゼフィラ、そしてミモザの3人が続く。

 ちなみにこの村に来る時に僕らが使っていたラフターは、ルベルム達と一緒に連れて行ってもらったから、少量の荷物のみで身軽なものだ。


 皆に見送られて村から外に出た所で、最後にノニが1人で待っていた。

 ゼフィラが立ち止まり、声を掛ける。


「今回は世話になったの。あとは頼んだぞノニ。」


「はい。何か新たな進展などあれば、使いを出しますので」


 フルツの族長として、堂々とした態度で、頭を下げるノニ。

 ゼフィラはそれに応えるように頷くと、チラリと僕に視線を投げる。

「手早くな」と小さく僕に声を掛け、ミモザと共に先へと歩いていく。


 僕は頭を下げたままのノニに歩み寄る。


「ノニ」


 ピクリと体を震わせるノニ。

 それでもノニは顔を上げない。

 

 やがて、ノニが鼻をすする音が微かに聞こえた。


 ――ダメだ。

 僕は女性にそんな想いをさせたくて、ここに居るんじゃない。


 僕は手を伸ばし、強くノニの細い身体を抱きしめた。

 ノニの頬に手を添えて、多少強引に顔を上げさせる。

 今にも溢れ落ちそうな涙を湛えた瞳と、ようやく目が合った。

 

 2人の顔がゆっくり近づく。

 唇が重なった。

 始めは触れる程度。

 何度も何度も、徐々に激しく、深く。

 ケイの腕がノニの腰を抱いて強く引き寄せる。

 ノニの両腕がケイの首にしがみつき、顔を押しつける。


 森の中に微かな水音だけが響いた。

 しばらくの後、ようやく2人の唇が離れる。

 銀色の糸が2人の唇を繋ぎ、フツリと切れた。

 

「愛してるよ、ノニ。また、すぐ会いに来るからね」


 ノニの瞳から涙が溢れる。

 だが、その意味は先程とは真逆のものになっていた。

 バラ色に頬を染め、蕩けるような笑顔を浮かべるノニ。


「はい。お待ちしています」


 最後にもう一度だけ、軽くキスを交わすと、僕はノニに見送られて、フルツの村を後にした。

 


――――――――――――――――



「ケイくんは罪作りですねぇ」


 少し先の森の中で待っていてくれたゼフィラたちに追いついた僕に、ミモザが意味深な笑みを浮かべる。


「ミモザ……どこでそんな言葉を覚えたの?」

 

 ていうか、そんなことないよ?

 誰にも悲しんで欲しくないとは、思ってるけど。

 あと、それが都合が良すぎるってことも、ちゃんとわかってる。

 

「大丈夫じゃ、わかっておる。現状ただ一人の男性として、ついに肉体を取り戻せそうな目処もついたのじゃ。望む者は全て受け入れてやれ」


 おお、ゼフィラが大人の余裕を見せている。

 しかし、それを見たミモザが可笑しそうに首を傾げる。


「あらぁ?ゼフィラ様、さっきまで『あんなに情熱的なものを見せつけおって』とかボヤいてませんでしたっけぇ?」


「くっ……裏切りおったな、ミモザ。儂を陥れて、何を企んでおる……っ?」


「いやいや、そんな大層なものじゃないでしょ?」


 僕は苦笑しつつ、ミモザを恨めしそうに睨むゼフィラに近づいて、その手を取る。

 それに気付いたゼフィラも、そっと僕の手を握り返して来た。

 そしていつの間にか、僕の反対の腕にはミモザの腕が絡んでいる。


 次の目的地はアニムの村だ。

 やっと道が拓けた男性体の生成についても、まだまだやるべき事がある。

 

 充実した気持ちに満たされながらも、僕はこれから進むべき未来に思いを馳せていた。

 


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