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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第27話 フルツの村1


 その後も旅は順調に続いた。

 周囲の警戒をK1たちに任せることで、大抵の問題は事前に察知することができ、ルベルムたち行商隊の隊員も負担が減ると喜んでくれた。


 野生動物との遭遇の他に、魔獣と出くわすこともあったが、そこは慣れた行商隊の面々の対応で、危なげなく処理する事が出来た。

 やはり、あちこち旅をしているだけあって、隊員の人たちもかなりの魔法の使い手揃いのようだ。


 そして、フラウの村を出てから4日後、僕たちは無事にフルツの村へと辿り着くことができた。


 


「ようこそ、行商隊の皆さん。ゼフィラ様もお疲れ様です」


 ラフターを率いて村に入った僕たちを、フルツの族長であるノニたちが出迎えてくれる。

 やはりここでも行商隊は歓迎されているらしく、周りから続々とエルフの人々が集まり始めていた。


「お久しぶりです、ノニさん。荷台はいつも通り中央広場に乗り入れる形でよろしいですか?」


 行商隊の隊長のルベルムが、親しげに挨拶をする。

 ノニとひと言ふた言会話すると、勝手知ったる様子で隊列が村の中央へと向かって行った。


「では、ケイさん、また後ほどー」


「うん、ルベルム。またね」


 この数日ですっかり仲良くなったルベルムが、僕に軽く手を振って隊列を追いかけていった。

 その場に残ったのは、僕とゼフィラ、そしてミモザの3人。

 僕は、改めてこの村の族長であるノニと向き合う形になった。


「ノニ、紹介しよう。こやつがケイじゃ」


「えっと、はじめましてノニさん、ケイです」


 ゼフィラに紹介され、僕はペコリと頭を下げる。

 ノニは、腰までの伸びた銀髪を三つ編みにして後ろに流した、真面目そうな美少女だ。

 もちろん少女と言っても、髪色からして、かなりの高齢なのだろうけど。


「はじめましてケイさん。私のことはノニと呼んでください。ゼフィラ様は呼び捨てなのに、私に"さん"付けなのは落ち着きませんので……」


 困ったように微笑むノニ。

 どうやらゼフィラたちとの会話を聞かれていたらしい。

 あー……やっぱり、知らない人から見ると、無礼に見えちゃうのかな?


「今さら敬われても、こっちが落ち着かん。いつも通りで良い。ケイはそういう存在なのだと、皆に知らしめていけばよいじゃろう」


 うーん、いいのかな?

 まあ、親しみを込めて呼んでるということで、ここは勘弁してもらおうかな。


「ええ。この村の住人にも、ケイさんは特別な存在であると伝えてあります。どうぞ気を遣わず、いつも通りお過ごしください」

 

「いやいや、そんな大層なものじゃないので!ちょっと珍しいだけの、友好的な生き物だとでも思ってもらえれば!」


 なんじゃそれはと、ゼフィラがクスクス笑った。

 ミモザも微笑ましいものでも見るように、目を細めている。

 その様子に、ノニは目を丸くした。


「本当に、お二人とも仲が良いのですね……」


「まあ、仲が良いのはその通りだけど、そんなに驚くほどのことかな?」


 僕にとっては、もう当たり前の感じになってしまっているんだけど……端から見たら変なのかな?

 そう考えて周りを見渡すと、結構、村の人々からの注目を集めてしまっているような……

 いや、これはただ単に、僕の姿が珍しいだけっぽいな。


「ノニよ。まずは落ち着いた場所で話をさせてもらえるか?ケイについて、相談したいこともあるしの」


 周囲がざわつき始めたのを見て、ゼフィラがノニに提案する。

 ノニも表情を改めて頷いた。


「わかりました。では、私の家に行きましょう」


 

――――――――――――――――



 向かった先にあったのは、並び立つ2棟の木造建物だった。

 聞けば、片方の建物がノニの住む母屋で、もう1棟はノニが開いている診療所兼、研究室とのこと。

 ノニは治癒魔法のエキスパートであるため、普段から村人の怪我の治療などを行うための、診療所を開設しているらしい。

 また、常に治癒魔法の研鑽を行うための研究に余念がなく、以前ゼフィラが教えてくれた義肢の製作なども行っているようだ。


 ひとまず僕たちは母屋の方に招かれ、まずはゼフィラとノニが村の状況についての情報交換を行う。

 幸いにも、フルツの村は前回の魔獣襲撃に巻き込まれることがなかったため、特に問題は起きていないとのこと。

 

 さすがにホムンクルスの件や、男女に関する話については、戸惑いの声が多かったようだが、少なくとも大きな騒動にはならなかったらしい。

 この村のエルフは、他の村に比べても穏やかな人たちが多いらしいので、そのおかげでもあるのだろう。

 とはいえ、全員が完全に納得したというわけではないのも確かなので、後ほど僕の紹介とともに、ゼフィラが皆に説明を行う予定だ。

 

「さて、話は変わるがノニよ。少々頼みたいことがあるのじゃが」


 話が一段落した所で、ゼフィラがもう一つの話題を切り出す。

 その話題とは、もちろん僕の顔や手を覆っている、ラテの樹脂の使い方についてだ。

 ゼフィラは、ノニの義肢作成に使用しているラテの樹脂の扱いを、僕に教示してくれるよう頼んでくれる。


「やはり、そういうことですか。ケイさんが土人形の身体へと変化していることは、先触れの便りで聞いていましたが、そのお顔を見て私も驚きました」


 納得したように、頷くノニ。

 そして席を立つと、僕らを隣の建物へと(いざな)う。

 僕らを伴って診療所の中に入り、更に奥の扉を開けると、そこは様々な薬瓶や作りかけの義肢などが並ぶ、ノニの研究室だった。

 

「いつもながら見事なものですねぇ」


 机に置かれた膝から下の義足を見て、ミモザが感心した声を上げる。

 それはあまりに精巧な出来映えをしており、義足としての取り付け部を除けば、本物の脚のようにしか見えなかった。

 ノニに勧められて義足に触ってみると、その表面の弾力や肌触りも、本当の人肌と区別がつかないレベルだ。


「これは……さすがに僕には難しいんじゃない?」

 

「いえいえ、そんなことはないと思いますよ。今の顔や手は、ご自身で研究されて作成されたのですよね?」


「研究というか、儂がラテを渡した時に、一発で作っておったのう?」


 ゼフィラの言葉に、「は? 一発?」と、ノニは間の抜けた声を上げた。

 ノニが僕を見る目が、珍妙な生き物でも見るようなものに変わる。

 

 お願いだから、やめて?

 正統派美人さんにそんな目で見られると、変な趣味に目覚めそうになる。


「ん、おほん、失礼。では、ちょっとコレをその時やったように成形してみてもらえますか?この部屋にある道具なら何を使っても構いませんので」


 ノニが、保管庫と思われる棚からラテの樹脂の塊を取り出して、僕に手渡してくる。


 はいはい。

 それじゃあ、魔力を通して、こねこねと。

 色を少し調整しつつ……よし、まあこんなものか。

 最初の時よりは、多少いい感じにできたんじゃないかな?


 僕はその場で作り上げた、手の模型のようなものを、何故か目を丸くしているノニに手渡した。

 もちろんノニが作った義肢にはほど遠いけど、まあそれなりの仕上がりになってるとは思う。


「こ、こんなに簡単に? しかもまだ2回目で、この完成度……? 私がここまで仕上げるのに、どれだけの時間が掛かったと思って……」


 ノニが愕然とした表情で、僕が作った模型をいじくり回している。

 あの……ノニ? 大丈夫?


「ゼフィラ様、当村への滞在は何日間のご予定ですか?」


「ふむ、ルベルムたちの都合にもよるが。3日程度のつもりじゃが……」


「3日……その予定、もう少し延ばせませんか?」


 ノニの真剣な表情に、ゼフィラは眉根を寄せる。


「うーむ。今回は行商隊への同行という形じゃからなあ。ちなみにどのくらい延ばしたいのじゃ?」


「可能であれば、1年ほど」


「可能なわけないじゃろうが!」


 おお、久しぶりにゼフィラの小気味よいツッコミが炸裂したな。

 ……なんて、言ってる場合じゃないか。どういうこと?


「ケイさんは間違いなく稀有な才能を持っています。是非、この村にしばらくとどまってもらって、私の技術をしっかりと教え込みたいです。そして私もケイさんの特殊な技術を学ぶことで、お互いを高め合い、研鑽を積み、いずれはケイさんに私の後を継いでもらって……」


「まてまてまて、少し落ち着かんか!」


 興奮した様子で言い募るノニの言葉を、ゼフィラが遮る。


「全く、どいつもこいつも、ケイと関わると見境が無くなるのじゃから……」


「そうですよぉ、ノニ。ケイくんは私とパン屋さんをやるんですぅ」


「ええい、これ以上面倒事を増やすでない!」


 更に割り込んできたミモザを、押し留めるゼフィラ。

 なんか本人を無視して、場が混沌としてきた。


「ケイさんがパン屋に?そんな才能の無駄遣いは許せません!」


「そんなこと言いましてもぉ、アルメリアは自分の弟子として可愛がると言ってましたし、シレネも娘と一緒に家を継がせるつもりらしいですし、エーリカは実験体……もとい共同研究者にするって言ってましたよぉ?」


「よ、四賢者全員が既に目をつけているとは……くっ、手強いですね……」


 ちょっと待って? そんなの聞いてないよ?

 本人の知らない所で、いつの間にそんな話になってるの?

 せめて、僕の意思くらい確認してほしいんだけど……

 

「ええい!ダメじゃダメじゃ!ケイは儂のじゃ!」


「「え?」」


 全員の視線がゼフィラに集まる。

 しまった、という顔で固まり、一気に赤面するゼフィラ。

 皆の注目の中、誤魔化すように1つ咳払いする。

 

「と、とにかく、今回のこの村への滞在は3日じゃ。その間に、できる限りのレクチャーをケイにしてやってくれ。それ以上の話については、また後日改めてじゃ。ノニがフラウに定期的に来るなり、やりようはあるじゃろう」


「……そうですね。すみません、私もちょっと先走り過ぎました。ではケイさん、短い間ですがよろしくお願いします」


「うん。よろしくね、ノニ」


 ひとまず、ゼフィラの派手なやらかしのおかげで、ノニもいったん正気に戻ったらしい。

 うん、恥ずかしさで突っ伏してるゼフィラついては、みんな見なかったことにしてあげてね。

 こら、ミモザ、ニヤニヤしないの。

 

 いきなりドタバタとしてしまったが、こうして僕のフルツの村での滞在が始まった。

 

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