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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第26話 行商隊5

 

行商隊と共に行く森の旅は、順調そのものだった。

 基本的に移動中の行商隊メンバーは、交代で1〜2人が荷物と一緒にラフターに乗り込んで休憩。残りのメンバーで魔力によるラフターの操作や進路確認、周囲警戒を行いながら進行している。


 荷物を運びながらの道行(みちゆき)のため、ある程度木々の間の幅が広い場所を選んで進むことになり、かなり苦労しそうだと思っていたのだが、全くそんな心配は無かった。

 流石に旅慣れたエルフ達だけあり、そこは慣れたものだ。エルフしか知らないという小路や、そもそも傍目には道があることすら分からないような場所を、スイスイと通り抜けていく。


「森に住むエルフにのみ分かるルートが、あちこちにあるのじゃよ」


 森の中で軽快に歩みを進めながら、ゼフィラが色々と教えてくれる。

 今回、僕たちは行商隊に便乗しているだけなので、基本的に役割を振られているわけではない。

 とは言え、ただ散歩しているだけというのもつまらないので、ゼフィラやミモザにエルフの森についての様々な蘊蓄(うんちく)をレクチャーしてもらっているところだ。

 

「ほれ、ちょっと顔を貸してみるがよい……むう、背が届かん。もうちょっと屈まんか」


 ゼフィラが僕の服を掴んで、チョイチョイと引っ張る。

 うーん、でもここで立ち止まると、隊列から遅れちゃうしなあ。

 ということで、僕はゼフィラの幼い体に手を回し、歩きながらヒョイと抱き上げた。


「ふあっ!? な、何をする!?」


「こうすれば、立ち止まらなくていいし、顔の高さも合うでしょ?」


 突然抱き上げられて、顔を真っ赤にしたゼフィラが抗議の声を上げるが、僕は平然と抱き上げたまま手を離さない。

 わたわたと慌てるゼフィラなど見たことのなかった行商隊の隊員たちが、ザワザワしてるけど気にしないことにする。


「まったく、しょうがないやつじゃの……」


 恥ずかしそうな、でも少し嬉しそうに、はにかむような笑みを浮かべるゼフィラ。


 ザワッ……!


 ――ゼフィラ様があんなに幸せそうな笑顔を!?

 ――まるで乙女のようですわ!


「そこ、うるさいぞ!いいから、自分の仕事に戻らんか!」


 キャイキャイ言いながら、周囲の警戒に戻る隊員達を見送り、僕に抱き上げられたまま頬を赤く染めたゼフィラが、その細い指先を僕のまぶたに添えた。

 すると、目に見えている景色が、急に赤色のフィルターが掛かったような色に変わる。

 驚く僕を余所に、次は視界の色が緑、そして青と代わり、最終的に元の色に戻った。


「こんな感じかの。どうじゃ?」


「どうって言われても……あれ?」


 今まで見ていた森の景色の中に、薄く輝く光の道のようなものが見える。


「お主の視界の魔力の波長を、エルフ族のみが知る秘匿周波数に調整したのじゃ。お主の身体は仮初のものじゃから少し心配だったが、うまくいったようじゃな」


 おお、今見えてるのが、エルフの秘密の道標みたいなものってことか。

 そのまま森の中を観察すると、森のそこかしこに光のマーキングや、ルートを示す表示のようなものがある。

 僕の記憶にある、AR技術に近いかもしれない。


「なるほど、これは便利だね。でもいいの?エルフの秘密を、そんな簡単に僕に教えちゃって」


「ふっ……今さら何を言っておるか。お主はとっくにエルフの村の一員じゃろうが」


 僕に抱きかかえられたままだったゼフィラが、呆れたように僕のおでこをペチリと叩く。

 周りにいる行商隊の面々やミモザも、全く異を唱える様子もなく微笑んでいた。


「そっか……うん、ありがとう」


「気にするでない。それより、いいかげん降ろしてくれんか?」


 僕の腕の中で、恥ずかしそうにモジモジとするゼフィラ。

 えー? 別にこのまま抱っこしててあげてもいいんだよ? と、ゼフィラの背に回した腕の力を少し強める。


「ひうっ……っ!やめんか、こんな所で! 皆が見ておるじゃろうがっ」


 ザワザワ……ッ!!


 ――えっ? いまゼフィラ様、こんな所ではダメって言った?

 ――みんなが見てないならいいってこと!? 普段どんなことしてるの!?


「ええい!お主ら、やかましいわっ」


 ゼフィラが本気で怒り始めそうだったので、僕は急いで地面に降ろす。

 ゴメンねゼフィラ? 悪気はなかったんだよ?

 赤い顔でそっぽを向いてしまったゼフィラに、僕は謝り倒すことになった……



――――――――――――――――

 

 

「ケイくん、いつの間にゼフィラ様とあんなに仲良くなったんですかぁ?」


 森の中をテクテク歩く僕に、ちゃっかりとラフターに荷物と一緒に座っているミモザが尋ねる。

 ちなみにゼフィラは、隊列の先頭の方でルベルムと何やら打ち合わせ中だ。


「いつの間にっていうか……ずっと仲はいいよ?」


「まあ、ケイくんがみんなと仲がいいのは知ってますけどぉ、ゼフィラ様とは、最近特に親密な感じじゃないですかぁ」


「まあ、ミモザも聞いていると思うけど、僕は男だからね。女の子が求めてくれるなら、なるべく応えてあげたいとは思ってるよ」


 そう、僕はみんなを幸せにしたい。

 そのためなら、色々と悩まないし、迷わないと決めたんだ。

 

「まあ……そうなんですねぇ。それは私にも当てはまるんですかぁ?」


「もちろん。僕はミモザも大好きだよ?」


「あらぁ、それは嬉しいですねぇ」


 ミモザの優しげな目が、嬉しそうに細められる。

 いつも繊細にパンをこねている、しなやかな指先が僕の頬にのびる。

 その感触に、僕の背筋にゾクゾクとした刺激が走った。


「私もケイくんのことは大好きですよ?これからも仲良くしてくださいねぇ?」


「う、うん、もちろん。今後ともよろしくね、ミモザ」


 なんと言うか、ミモザの所作は、いつも僕をドキドキさせる。

 見た目は他のエルフの人たちと変わらず、少女然としているのに、とてもお姉さんっぽい印象だ。

 その妖艶とも言える笑みに、思わず引き込まれそうになった時、僕の脳裏にアラームが鳴り響いた。


「!! ごめんミモザ、何かが近づいて来てる」


 それはKs(ケーズ)と繋いでいるパスからの警戒信号。

 送信元のK2と個別パスを繋ぎ、視界を共有する。

 草むらの中に隠れているらしいK2の視界に映っているのは、サーベルタイガーのような長い牙を生やした獣。


「これは、魔獣?……いや、野生動物かな?」


「どうしましたぁ?」


 何のことかわからず、キョトンとしているミモザに、K2が見つけた生き物について説明する。

 話を聞いたミモザが、形の良い眉をひそめる。


「それはたぶん『ケンガオト』と言う雑食の野生動物ですね。魔獣と違って魔力をあまり持たないため、監視にも掛かりづらいうえに、エルフも襲う凶暴な獣ですよ」


 どちらの方向ですか?

 と言うミモザに、大まかなK2の位置を指し示す。進行方向から僅かに左にずれた位置。


「あらぁ、これは放っておくと、待ち伏せされるかもしれませんねぇ」

 

 ヒョイとラフターから飛び降りると、ミモザは僕の片腕を取り、その腕をミモザの胸に抱くように自分の腕を絡めた。

 僕の知るエルフの中では、一番大きいのじゃないかと思われる豊かな膨らみに、僕の腕が押し付けられ、柔らかな感触が伝わってくる。


「ちょっと、2人でお散歩に行きましょうか?」


「え?ちょ、ちょっとミモザ!?」

 

 まるでデートへのお誘いのように、僕と腕を組んで、引っ張っていくミモザ。


「あれ?どうしました?」


 気付いたルベルムが、声を掛けてきた。

 ゼフィラも何事かとこちらに目を向けている。


「この先で、ケンガオトが待ち伏せしてるっぽいので、ちょっと排除してきますねぇ」


 本当に散歩にでも行くように、笑顔でルベルムたちに手を振って、商隊に先行して進み出すミモザ。

 組んだ腕を引かれ、そのまましばらく森の奥へと進んでいく。やがてK2からの報告で、ケンガオトがこちらに気づき、待ち伏せの体勢に入ったのが分かった。

 

「ミモザ、来るよ」


「はいはーい、大丈夫ですよ。このまま行きましょう」


 いつの間にか、僕と組んでいない方のミモザの腕に、水流のようなものが絡まっている。

 ケンガオトが隠れている木陰は、すぐそこだ。

 僕はさりげなく視線と腕の動きで、ミモザにその位置を知らせた。

 ミモザが了解したというふうに、ニコリと微笑む。


 ――次の瞬間には、全て終わっていた。

 僕たちに向かって勢いよく飛び出したケンガオトだったが、その目の前にいつの間にか垂直の水流の刃が生成されていた。

 勢い余って、その刃に体ごと突っ込み、音もなく体を真っ二つにされるケンガオト。

 そのまま2、3歩ヨロヨロとこちらに近づき、半分になった獣の開きが、地面に倒れ込んだ。

 

 ……水魔法って、こんな殺伐としてたっけ?なんか僕が思ってたのと違う。


「はい、おしまいです。戻りましょうか?」


 何事もなかったかのように、微笑むミモザ。

 

 その時、先ほどの水魔法にでも引っ掛かったのだろう、折れた太い木の枝がいきなり頭上から降ってきた。


「危ないっ!」

 

 僕は咄嗟に、腕を組んでいたミモザを抱き寄せ、胸に抱え込む。

 木の葉の擦れる音と共に、木の枝が僕の肩をかすめて地面に叩きつけられた。


「ふう……ミモザ、大丈夫? ケガはない?」


 ミモザをかばっていた手を緩める。

 腕の中を確かめると、そこには、呆けたような顔で僕のことを見つめるミモザがいた。

 

「ミモザ?」

 

「ああ……はい、全然大丈夫ですよぉ。かばってくれてありがとうございますぅ」


 いつも通りの、ほんわかした笑顔を浮かべるミモザ。

 だけど、組んだ腕にこもった力が、妙に強いような?

 あと、さっきより、すごく距離が近い。


「ふふ……なるほどぉ、ちょっとゼフィラ様の気持ちがわかりましたぁ」


 そ、そうなの?

 それは良かった……と言っていいのかな?


「はい、もちろんですよぉ。ケイくんは優しいですねぇ」


 上機嫌のミモザに引き連れられて、僕たちは商隊の元に戻った。

 排除完了しましたよーと、腕を組んだまま列の最後尾の定位置に戻る僕らを、隊員達が興味津々の目で見つめている。

 

 また、噂話のネタになりそうだなあ……




 ちなみに、しばらくミモザとくっついて歩いていたら、いつの間にか、さりげなくゼフィラが近づいてきた。

 そして皆に見えないように、ミモザと反対側の腕の、服の袖をちょこっとつまんだ。

 

 え、ちょっと……可愛い過ぎない?



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