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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第25話 行商隊4


 行商隊が出発する日がやって来た。

 本来の行商隊の人数が6人、それにゼフィラや僕のほか、別の村に用事がある人たちを加えた10名ほどのメンバーが、出発の準備を整えている。

 以前の魔獣討伐隊の時と異なり、雰囲気は和やかなものだ。


 今回は、まずフルツの村、次にアニムの村へと回り、この村へと戻ってくるルートとなる。

 移動と滞在の期間を合わせて、順調にいけば半月ほどの行程となる予定だが、そもそもそこまで厳密に日程が決まっている訳でもないらしい。

 その辺りはさすがに長寿のエルフらしいといったところか。


「ケイちゃん、気をつけて行ってきてね?」


「うん、ちょっと他の村の様子を見て来るだけだから、心配しなくていいよ」

 

 ティリアとのハグも、だいぶ自然に行なえるようになってきた。

 ただ、慣れてきたのはいいのだが……


「ケイ、私も」


 ルティスが両手を広げて待っていた。

 その後ろには順番待ちのカレンやリーリたち。


「はいはい、ギュッとね」


「んふふ……やっぱり、いい気持ち。早く帰ってきてね?ケイ」


 肩車の次は、ハグのブームがやって来ていた。

 順番待ちの列には、いつもの幼女組や、もはや当然のように混ざっているアルメリア以外にも、最近ではご近所の人たちも加わり始めている。

 日に日に列が長くなっているのが、ちょっと悩ましいところだ。


 とは言え、これからしばらく村を空けることでもあるし、僕は心を込めてしっかりと全員と触れ合っていく。

 ゼフィラとも約束したし、少しでもみんなに喜んでもらえるといいな。

 



「お待たせ、ルベルム……あれ、エーリカ何やってるの?」


 行商隊の集まっている場所に向かった僕が見たのは、ルベルムと何やら話し込んでいるエーリカだった。

 

「やあ、ケイ。もちろん見送りだよ。無事な旅を祈ってるからね!」


「よく言うよ。昨日まで、何とか商隊に紛れ込もうと画策してたくせに……」


 呆れたように、ため息をつくルベルム。

 ええー……エーリカ? 自分の娘に迷惑かけちゃダメだよ?


「いやいや、だってルベルムだけ面白そうなことするなんて、ずるいじゃないか!」


「ずるいって、子供じゃないんだから……」


 どっちが母親か分からないような会話をしながらも、やはり親子なだけあり、気心の知れた口調のルベルムの表情は少し嬉しそうだ。


 なんだかんだ言っても、エーリカも娘のことを想って、見送りに来ているのかもしれないな。


「いいかい、ルベルム。ケイから目を離しちゃダメだよ? 絶対面白いことやらかすから。しっかり観察して、後で報告頼むよ?」


「わかってるよ母さん。あんなに面白そうなものを間近で観察するチャンス、めったにないからね」


 そんな僕の思いをよそに、息ぴったりの2人のヒソヒソ話が、漏れ聞こえてくる。

 ああ……間違いなく親子だなあ……

 

「まあ、それはそれとして。ちゃんと用事もあるんだよ? 行商に使う新しい魔道具を改良したからね。その最終チェックに来たのさ」


 そう言って、行商隊の荷物に近づくエーリカ。

 

 実は、最初僕には、この行商隊がどうやって荷物を運んでいるのか謎だった。

 そんなに大規模な行商隊ではないにしても、村で必要な物資を運ぶからには、それなりの荷物量になるはずだ。

 それなのに、その荷物を運ぶための手段……つまり荷馬車のようなものが見当たらない。せいぜい荷物を収納するためのコンテナのような箱と、その箱を積むための荷台のようなものがあるだけだ。

 しかしその荷台には、車輪が付いておらず、馬などをつなぐハーネスや、荷台を引くための引き手のようなものも備わっていなかった。


 では、どうやって荷物を運んでいるのか?

 その答えがコレだ。


 エーリカがコンテナの積んである荷台に手を触れる。

 するとその荷台が地面から僅かに浮かび上がった。

 地上高10cmくらいの高さに浮いて安定した荷台は、エーリカが少し押しただけでスムーズに移動する。


 エーリカが、ルベルムのために作ったという荷台型魔道具『ラフター』

 風魔法の応用により、空気圧で荷台を地面から少し浮かせて、軽々と移動が可能となる。原理的にはホバークラフトに近いのかな?

 ただ、常時風を吹き出しているというよりは、荷台の下に圧縮された空気があるような感じに見える。この辺りはエーリカの技術がなせる技なのだろう。

 ちなみに、魔力を余分に消費はするが、最大1mくらいの高さまで持ち上げることが可能らしい。


「今までは、移動する際に全てのラフターへのパス接続と細かい移動指示が必要だったんだ。でもケイと考えた新しい技術を使って、先頭のラフターを操作すれば、残りは自動で後ろをついていくように改良したからね。だいぶ楽になるんじゃないかな」


「そうだね。魔力の使用量も減らせるし、これで隊員の運用や休憩も楽に回せるようになりそうだよ」

 

 エーリカがラフターの下を覗き込んだり、荷台の底に手を突っ込んで、何やら調整をしている。

 ルベルムもそれを見ながら、調整の仕方などをエーリカに確認し始めたので、邪魔しないように、僕はその場を離れた。

 

 辺りを見回すと、ゼフィラとミモザが話をしているのが目に入ったので、そちらに近づく。


「ゼフィラ、ミモザ、おはよう」


「おお、ケイか。おはよう。準備はいいかの?」


「ケイくん。おはようございますぅ」


 小さな身体に旅装をまとったゼフィラと、ふわっとした長衣を身につけたミモザが、にこやかに挨拶してくれる。

 

「ケイくんは、何も持っていくものはないのですかぁ?」


 完全に手ぶらの僕を見て、ミモザが尋ねてくる。

 僕は人形だから、特に生活に必要なものもないんだよね。

 せいぜいが、男性体の身体用にティリアたちが作ってくれた、いま着ている服くらいだ。


「まあ『連れて行く』ものなら、いるけどね」


「?……どういうことですかぁ?」


 そうだな。

 ミモザにも紹介しておくか。


「よし、集合!」


 ――ザザッ!!


 僕の合図に合わせて、周囲から4つの小さな黒い影が飛び出してきた。

 身長10cm程度の土人形が4体、僕の前に整列する。


「紹介するよミモザ。僕の新しい相棒たちだ」


 僕の弟ケイジの、量産型とでも言えばいいのかな? 半自律操作型の土人形『K1(ケーワン)』から『K4(ケーフォー)』までの4体で、まとめてKs(ケーズ)(K-Squad)と呼んでいる。

 それぞれの体に、僕の毛糸が一本ずつ仕込まれており、こちらからの指示で周囲の偵察などを行なってくれる優れものだ。

 ちなみに放っておくと、勝手に僕の周りで日なたぼっことかしてるよ。


「まあ!かわいいですね。お家に1体欲しいです」

 

「……また変なのが増えておるのう」


 ミモザは目を輝かせて、ゼフィラは面白半分、呆れ半分の表情でそれを眺めている。

 今回の旅の道中では、このK1たちを使いこなす完熟訓練も行おうと考えていた。

 うまく使いこなせれば、きっと役に立つと思う。


「お待たせしました、ゼフィラ様。あ、ケイさんも、ここにいたんですね」


 ミモザが喜んで拍手とかしてくれるので、K1たちを並べて手を振らせたり、行進させたりしていたら、ルベルムがやって来た。

 ひとまず行商隊の準備も完了したらしい。


「うむ、では、そろそろ行くかの」


「はい。皆さん出発しましょう!」


 ルベルムの号令で、行商隊のラフターの隊列が動き出す。

 行商隊の6台のラフターには、大小いくつものコンテナボックスのようなものが積んであった。

 コンテナの中には、大きいものだと一辺が1mくらいのものもある。話を聞くに、それは水魔法が得意な隊員が氷結魔法で氷を生成して、生鮮品を冷やしている冷蔵庫らしい。

 やっぱり、様々な品を安全にたくさん運ぶための工夫は、色々と考えられているみたいだ。

 

 そして今回は、特別にフラウの村から同行するメンバーの荷物を載せるためのラフターも1台、最後尾に続いていた。

 ゼフィラたちの荷物はそこにまとめてあり、なんなら疲れた人がそのまま搭乗してもOKらしい。


 村人に見送られながら、ラフターを引き連れた僕たちはフラウの村を出発する。

 ミモザと並んで歩きながら、僕はみんなに手を振った。

 これで、しばらくこの村ともお別れだ。

 

 まず向かうは、フルツの村。

 僕の世界が、新しく広がっていく。


 

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