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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第24話 行商隊3


 行商隊が次の村へ行くための準備をする間に、フラウの村としても色々とやっておくべきことがあった。


 まずは、隊と同行するメンバーについて。

 今回の旅の目的として、各村へのケイのお披露目の他に、魔羊狩りがある。

 魔羊はそんなに獰猛な魔獣ではないらしいが、倒すのにコツがいるらしく、対応するには向き不向きがあるようだ。

 では、誰が一緒に行くことになるかと言うと。


「「「私が行きます」」」


 四賢者全員が立候補した。


「お主ら、自重せんか……ただの魔羊狩りじゃ。そんなに過剰戦力はいらん」


 こめかみを押さえてため息をつくゼフィラ。

 場は、今月度の賢人会議である。


「いやあ、今のケイについていけば、必ず面白いものが見られるだろう?」


 誰もが思っていることを、エーリカが代表して答えた。

 ゼフィラが「むう……」と唸る。さすがに、否定はできないようだ。


「とはいえ、儂が村を空けるのじゃから、お主らの中で連れて行くのは、せいぜい1人じゃな」


 形の良い顎に手をあて、ゼフィラは首を捻った。


「魔羊との相性を考えると、アルメリアは無しじゃな。羊毛を燃やしてしまっては何の意味もないからの。後はエーリカの風もあまり相性はよくないのう」


「残念です……」


「はー? そんなもの、私の腕があれば、生かしたまま毛刈りだってやってのけるよ?」


「わざわざそんな離れ業をする必要はないわ。どちらにしろ2人はこの前も討伐隊に出たばかりじゃ。今回は、おとなしくしておれ」


 肩を落とすアルメリアと、ぶーぶーと抗議するエーリカ。

 うるさいエーリカはとりあえずスルーして、ゼフィラは続ける。


「となると、残り2人のうち、どちらかじゃが……効率と実益を考えるとミモザかの。すまんがシレネは引き続き、儂の代行を頼みたい。正直、ケイが来てから暴走気味のアルメリアと、暴走しかしないエーリカでは心許ない」


「……かしこまりました」


「ありがとうございますぅ。ふふ、久しぶりのお出かけですねぇ」


 少し残念そうではあるが、誠実に返事をするシレネと、嬉しそうに微笑むミモザ。

 

 いやだー私も行くー!とダダをこねるエーリカの顔面を、片手でギリギリと締め付けるシレネを横目に見ながら、ゼフィラは今回の旅が無事に完遂されることを祈るのだった。



――――――――――――――――



 ゼフィラや僕のもとに、明日には行商隊の準備が終わりそうとの連絡が届いた。

 まあ、僕は基本的に身1つで出掛けることになるので、特に準備することもない。

 

 ティリアやカレン達にお出掛けの挨拶もしてある。

 特にティリアは一緒に行きたがったが、さすがにそれが認められないことは、本人もわかっていた。

 僕からも、今回は特に危険なことはないと伝え、ついでにたっぷり甘やかしてあげることで、ティリアも納得してくれた。

 

 ――別に変なことはしてないよ?

 ちょっと抱きしめて、頭を撫でてあげて、優しく「好きだよ」って囁いてあげただけ。

 ……こう聞くと、なんだか僕が酷く悪い男のような気がしてくるな。

 断じてそんなことはないからね?

 変な意味はない、純粋な愛情表現だよ?


「何を一人でブツブツ言っておるのじゃ?」


 気がつくと目の前にゼフィラがいた。

 やばい、何か口に出てた?


「ケイよ。お主、最近何やら悩んでおるようじゃな」


「……そんなことは、ないよ?」


「くふふ……嘘が下手にも程があるのう」


 自宅の庭、男性体になっている僕からは見下ろす位置にいるゼフィラが、全てを見透かしているかの様に笑う。


「まあ、これでも人生経験だけはそれなりにあるつもりじゃ。相談事ならいつでも聞くぞ?」

 

 そう言いながらゼフィラは庭においてある木のベンチに腰掛ける。

 魔獣の襲撃以降はゼフィラも何かと忙しく、あまりゆっくりと話をする機会も無かった。

 こんなふうに2人きりで過ごす時間が、久しぶりな気がする。


「悩んでいるのは、やはり、男性としての振る舞いについてかの?」


「え?」


 ゼフィラの指摘は完全に僕の図星を突いており、一瞬、言葉に詰まる。

  僕の態度、そんなにわかりやすかったかな?


「まあ、最近のお主を取り巻く環境や、ティリアの態度を見れば、見当はつく。さしずめ、男性として皆にどう接するのが正しいか、などと考えておるのじゃろう?」


「――ゼフィラ、鋭すぎない?」

 

 名探偵もびっくりの観察眼だ。

 その通り、実は最近、自分の行動に自信が持てないでいた。

 だって僕は、今のところ世界でたった1人の男性だ。

 ルベルムが言っていた通り、僕の言動1つでエルフ全体、ひいては世界全体に影響を及ぼす可能性すらある。


 ティリアが僕に対して、男性に対する憧れ、もしくは愛情のようなものを抱いてくれているのはわかる。

 僕もティリアは好きだし、その気持ちには応えてあげたい。でも、これからも同じように想ってくれる人が増えた時は、どう接したらいいのだろう?

 男性として、不誠実になってしまうのではないか?

 

 この世界で唯一の男として、どう行動することが正解なのか。

 

「……みたいな感じかの?」


「怖っ!何で全部わかるの!? 僕の心の中を読む魔法でもあるの!?」


 お主がわかり易すぎるんじゃよと、笑うゼフィラ。

 そして、綺麗なハシバミ色の瞳で僕を見つめる。


「よいか、ケイ? 儂から言えることは1つ。今さら遠慮なぞするな。今まで通り好きに行動せい」


 ゼフィラの目はとても真剣で、そして限りなく優しかった。


「そして、もしそんなお主のことが好きだという女性がおれば……それでその相手がケイにとって大事だと思えたなら、分け隔てなく愛情を注いでやってくれ。それで十分じゃ」


 そんなので、いいんだろうか……?

 滅亡の危機すらあるこの世界で、僕の役目は……?


「まあ、もしお主が男性として『生身の体』を手に入れることができるのならば、例の繁殖行為をエルフ全員とやってもらいたいところじゃがの?」


「やめてください。死んでしまいます」


「なんじゃ、情けない。そういうのは『ご褒美』とやらではないのかの?」


 ものには、限度というものがあるのだよ……

 さすがに、女性側の気持ちってものもあるし。


「ふむ。のう、ケイ。ちょっと頼みがあるのじゃが」


 若干恥ずかしそうなゼフィラから頼まれたのは、最近ティリアにしているようなこと、つまりハグなどを、ゼフィラにもしてみて欲しいということだった。


「か、勘違いするでないぞ? あくまで実験のためじゃ」


 妙に言い訳がましい気もするが……

 まあ、ゼフィラのことだ、何か考えがあるのだろう。


 僕はゼフィラの小さな身体を、正面から抱きしめた。

 そのまま、左手で細い腰を抱き寄せ、右手で純白の絹糸のような髪を撫でる。


「こんな感じで、どうかな?」


 固まっているゼフィラの耳元に口を寄せて囁いた。

 重ねたゼフィラの頬が、かなりの熱を持っているのを感じる。


「お、おお……これは、なんというか、来るものがあるのぅ……」


 細かく震えているゼフィラを、もう一度強く抱きしめてから、そっと身体を放す。


「これで、何かわかった?」


「う、うむ、よくわかった……やはり、お主は1人でも多くの女性と触れ合うべきじゃ」


 ゼフィラは顔を隠すようにうつむいたまま、弱々しく僕の胸を押しやった。

 そして気持ちを落ち着けるように、大きく息を吐く。


「今この世界に、男はお主しかおらん。つまり、女性にこれだけの感情……幸福に満たされるような愛情を与えられるのはお主だけじゃ。エルフの長として頼む。できるだけたくさんの者に、この感情を与えてやってくれ」


 ――つまりそれは、ゼフィラも僕に対して、特別な感情を抱いてくれているという告白に他ならなかった。

 真っ赤な顔のゼフィラは、それでもエルフの一族のために、自分の気持ちをさらけ出してまで、僕に頭を下げている。

 そんなゼフィラの姿に、僕の心にわだかまっていた迷いが、スッと晴れていくのを感じた。


「……うん、わかった。ゼフィラがそこまで言うのなら……僕も腹を決めるよ」


「うむ……頼んだぞ、ケいひゃああっ!」


 再び僕に強く抱きしめられたゼフィラが、変な声を出す。


「な、なんじゃ!?どうしたケイ!?」

 

「じゃあまずは、ゼフィラからだね。僕はゼフィラのことが大好きだから」


 僕に抱きしめられ、ワタワタと両手を彷徨わせていたゼフィラだったが、やがてその細く白い両手が僕の背中にゆっくりと回された。


「馬鹿者が……儂のことなど構わんでよいのじゃぞ?」


「嫌だね。僕はゼフィラを『愛してる』。これは偽らざる、僕の気持ちだよ」


 その言葉に、僕を抱くゼフィラの腕の力が強くなる。

 僕も心を込めて、ゼフィラを抱き返した。


「僕をこの世界に呼んでくれてありがとう、ゼフィラ」


「ふふ……こちらこそ、愛しておるぞ、ケイ」

 

 僕とゼフィラは、顔を見合わせて笑い合った。

 抱きしめた腕の中に、温かなゼフィラの体温を感じる。

 僕は、唯一人の男として、ゼフィラ達のいるこの世界を守りたいと、心から願った。


 

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