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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第21話 芽吹く心


 後日談をしよう。


 あの日、シレネの一撃で『エルフ喰い』は仕留められた。

 さすがシレネとは思うが、本人からすれば「あそこまでボロボロになった相手なら、誰でも倒せる」とのこと。


 ちなみに、村の北側に攻め込んで来ていた魔獣の群れについては、ミモザ1人で全て片付けたらしい。


「突然、『ティリアが泣いてる!』とか言って、飛んで行っちゃったんですよぉ? 私一人に全部押し付けるなんて、さすがに酷くないですかぁ?」


 などとぼやきながらも、しれっと無傷で帰って来るあたり、こちらも、さすがは四賢者だけのことはある。


 そしてフラウの村への襲撃があった翌日、ゼフィラたちも村に帰ってきた。

 アニムの村での戦闘後、そちらで戦った『エルフ喰い』が偽物だということが分かり、村を心配したゼフィラとアルメリア、エーリカの3人だけで大急ぎで戻ってきたらしい。


 通常3日は掛かる道程を、ほぼ休みなく半分の時間で踏破するという強行軍で戻ったゼフィラたちだったが、それでも、結果的にフラウ村への襲撃には間に合わなかった。

 ゼフィラは村をまとめる者として、反省しきりであり、アルメリアも『エルフ喰い』に出し抜かれたことを、すごく悔しがっていたとのこと。


 ただ、エーリカだけは、

「なんだって!?人形の遠隔操作!? ケイはそんなことをやってのけたのかい?うわー見たかった!こんなことならアニムに行かなきゃよかった!」

 などと発言し、シレネにどつかれ、皆に白い目で見られていたという。

 まあ、いつも通りで、むしろ安心するね。


 最終的にフラウの村の被害は、『エルフ喰い』の犠牲になった警戒担当のエルフ2名と、戦闘の影響で壊れた建物数棟、それにバラバラになった毛糸の人形が一体というものだった。

 

 ここからは、そのバラバラになった人形の話だ。


――――――――――――――――

 

 『エルフ喰い』の首をシレネが切り落とした直後。

 隠れていたティリアが駆け寄って見つけたものは、既に原型をとどめていない、見るも無残に千切れた、ただの毛糸の切れ端の塊だった。


「ケ……ケイ……ちゃん……?」


 ティリアが地面に膝をつき、散らばった毛糸の切れ端を、かき集める。


「ケイちゃん……ねえ、返事をして……?」


 しかし、返事は無い。

 そこにあるのは、ただの無機質な毛糸の切れ端の束。

 あのフワフワの手触りも、優しくティリアを撫でてくれた温かさも、何も無い。


 ティリアの瞳から大粒の涙が溢れ出す。


「いやあああ……っ!! ケイちゃん! ケイちゃぁん!!」


 泣き叫び、ただ、手にした毛糸を抱きしめることしかできないティリア。

 傍らに立つシレネも、言葉を失い、泣き叫ぶ娘に声をかけてやることすらできない。

 

 そんな中、ティリアに近づく小さな影があった。

 

 砕けた半身を引きずりながら、ヨロヨロとティリアに近づく小さな土人形。

 先に気付いたシレネが目をみはる中、その小さな土人形は、ティリアの元までたどり着くと、泣き崩れるティリアの足をペチペチと叩いた。


 ハッと顔を上げたティリアが、涙に濡れた瞳で、その小さな姿を捉える。


「え!?……ケイジちゃん!? 何で……?」


 ティリアが驚きに目を見開く中、ケイジはその小さな手で、己の身体をポンポンと叩き、次にティリアが持った毛糸の束を指さした。


「……!!もしかして……」


 何かに気付いた様子のティリアが、毛糸の束を地面に置くと、それを包み込むように魔力で土を生成する。

 ほとんど残っていない魔力を振り絞り、作り出した土を人形の形に成形していくティリア。

 ケイの姿であれば、何も見なくても形作ることができる。何より、ケイジでいっぱい練習したのだから。


「ティリア、私も手伝いますか?」


 シレネの提案に、ティリアは左右に首を振る。


「大丈夫……これは、私がやらなきゃダメな気がするから……」

 

 ティリアは額に汗を浮かべて、人形の中にある毛糸……いや、中にいるはずのケイに届けと祈りながら、魔力を注入する。


 そして出来上がった土人形。

 ティリアの知るケイの形。

 でも、今はただ形だけの土塊(つちくれ)


「お願い……ケイちゃん……」


 ティリアは土人形を抱きしめる。

 もう一度、会いたい。

 もう一度、名前を呼んでほしい。

 もう一度、撫でてもらいたい。

 もう一度……


 ペチッ……


 ティリアの腕に触れる、冷たい感触。

 それは、ゆっくりとではあるが、ティリアを慰めるように優しく撫でてくれる、土人形の手。

 その慈しむような触り方に、ティリアは安堵と喜びの嗚咽をもらす。


「ああ……よかった……よかったよぅ……ケイちゃん……」


 抱きしめた腕の中に、確かな魔力の脈動を感じながら、ティリアはいつまでもケイを抱きしめ続けた。



――――――――――――――――

 


 ゼフィラが村に戻って、最初に僕に起きた出来事を聞いた時は、今まで誰も見たことがない程の慌てぶりだったそうだ。

 あんなに狼狽(うろた)えているゼフィラ様は、今まで見たことがなかったと、皆が口を揃えて言っていた。


 まあ、当の本人に聞いても、耳の先まで赤く染めて「知らん!そんなことは知らん!」との一点張りだったけど。

 

 とにかく、ティリアの土人形を仮住まいとすることで、何とか命?意識?を繋ぎ止めた僕だったが、このままではいつ何が起こるかも分からないということで、ゼフィラの地下室に軟禁され、早急に僕の新しい身体が作られることになった。


 とはいえ、村に残った魔羊の糸では材料が足らず、ゼフィラの旗振りで、アニムやフルツの村からも緊急で魔羊の毛糸が、かき集められた。

 それぞれの村からの協力で、何とか必要量を集めることに成功すると、そこからはエーリカの編み込み作業。

 せっかくだから腕をもう一本生やしとこうか、などと言ってどつかれ、早く作れと周りから急かされ、エーリカは3日徹夜して、僕の新しい身体を作り上げた。


「さて、ではゆくぞ。心の準備は良いか?」


『うん、いつでもどうぞ』

 

 場所は、いつものゼフィラの地下室。

 床に描かれた魔法陣に置かれているのは、土人形の僕と、まだ抜け殻の毛糸人形の僕。

 人形2つを並べて、ゼフィラが魔法陣を起動する。

  

 僕がこの世界に召喚された時のように、魔法陣が強い光を発し、視界が白く包まれる。

 そして、ゆっくりとその光が収まり、視界が元に戻っていくと、目の前にあるのは心配そうな目をした、ゼフィラの表情。


「うん、ただいま……でいいのかな?」


 僕は、動かし慣れたウール100%の片手を、ひょいと持ち上げた。




「ケイちゃん!」


 ゼフィラに抱かれて地下室を出た僕に、ホッとした表情のティリアが駆け寄る。

 

「やあティリア、やっぱりこの身体は居心地がいいね」


 フルフルと手を振る僕の体をゼフィラから受け取り、抱きしめて頬ずりするティリア。


「えへへ…フワフワのケイちゃんだあ……」


 僕は柔らかな毛糸の手で、もっと柔らかなティリアの頬を優しく撫でる。

 嬉しそうに目を細めるティリアと、ひとしきりの触れ合いを楽しんだ後、僕たちが家の外に出ると、そこはとんでもない人だかりだった。


「ケイー!」


「ケイちゃーん、おかえりー!」


「ケイちゃん、よかった……」


 皆が、僕が元の姿に戻れたことを喜んでくれている。

 ついには拍手まで起こる中、人垣の最前線にいた、カレンやリーリ、ルティス、それにアルメリアたちが、口々にお祝いと労いの言葉をかけてくれた。


 どうやら僕は『エルフ喰い』討伐の功労者とされているらしく、あちこちから感謝の言葉もかけられる。

 僕としては犠牲者が出てしまったことで心からは喜べないのだが、既に弔いは済ませ、皆で見送ったから気に病まないで欲しいと諭された。

 でも、きっと僕は忘れることはないと思う。

 忘れることなく、それでも前を向いていこう。


「ところでケイ。ティリアの話だと、どうやら君は土人形を使って、本来の姿に近い状態に戻れるそうじゃないか」


 ひとしきりのお祝いムードの中、興味津々といった表情で目を光らせたエーリカが、僕ににじり寄ってきた。

 

「しかも、それが世にも珍しい『男』とやらの姿だとか? ここは是非、皆にその姿をお披露目してはくれないだろうか?」


 そう、実は僕が地下室に軟禁?されている間に、ゼフィラはエルフたち全員に向けて、ホムンクルスや僕の正体についての話を公開したのだ。


 他の村のエルフたちの中には、やはり戸惑う人たちも多くいたようだが、僕の特異性や『エルフ喰い』に対する活躍などを知るフラウ村の人たちは、驚くほどすんなりとその事実を受け入れてくれたらしい。


 結局、アニムやフルツでも、先だって話を通してあった各族長たちの尽力で、大きな騒ぎにはならずに済んだとのこと。

 

 その辺りまで全て見越しての公開だったのだとすると、ゼフィラもなかなか計算高いと思う。

 

 さて、と僕は周りを見回した。

 エーリカだけでなく、村人全員が、何かを期待している目をしている。

 なるほど、この騒ぎはそれもあってのことなのか、と僕はようやく理解した。


「わかったよ。じゃあ、ちょっとだけね? ティリア、いつもの土壁作ってくれる?」

 

「う、うん。いくよ?」


 ティリアが地面に手をつき、モコモコと土壁を生成する。

 ある程度出来上がったところで、僕は土壁に手をつくと、それを身に纏い、体を形成していく。

 まあ、これが僕の本来の姿なのかと言われると、正直確証はないけれど、自分の感性の赴くままに、あの時と同じ、男性としての身体を作り上げた。


「おお! これがケイの本当の姿なのかい?なるほど、私たちとは全然違うね!」


 好奇心を抑えきれないように、僕の身体をペタペタと触るエーリカ。

 その他の人たちも、興味深げに、またはなんとなく挙動不審な様子で、僕を眺めている。

 ゼフィラは見たこともない呆けた顔で、口をポカンと開けているし、リーリたち年少組は何だかモジモジしていて頬が赤い気がする。

 あとアルメリアとシレネの目が怖い。

 方向性は全く違うけど、それぞれ何だかよく分からない圧を感じる……

 いつもと変わらないのはミモザくらいか?いや、あの手つきは、何か良からぬことを考えてるな。


 そんな、まるで客寄せパンダのような見世物状態の中、僕はティリアの様子がおかしいことに気付く。


「どうしたの? ティリア?」


 ティリアの頬は真っ赤で、目が潤んでいる。

 さっきから、チラチラとこちらを伺うだけで、いつものように僕にくっついて来ることもない。


「な、何でもないよ!うん、ほんと、何でもないから!」


 ティリアは赤くなった顔を隠すように、パタパタと手を振ると、ササッと僕から離れてしまう。

 僕はその様子を怪訝に思うが、さっきから僕に張り付いて離れないエーリカや、話しかけてくる他の村人たちの相手で手一杯になっているうちに、いつの間にかティリアの姿を見失ってしまうのだった。



 

 ティリアは村人たちの輪から少し離れたところから、皆の相手をしているケイを見つめていた。

 

 ティリアの脳裏に、あの時、自分をかばってくれた大きな背中が思い浮かぶ。

 思わず、自分の胸を押さえてしゃがみ込んだ。

 

 胸が苦しい。

 あの姿のケイを見ていると、鼓動が早鐘のように胸を打つ。

 別に嫌な気持ちではない。

 でも、何だかわからない感情が溢れ出してきて止まらない。


「わたし……どうしちゃったんだろう……ケイちゃん……」

 

 ティリアは、溢れ出す気持ちを吐き出すように、ケイの名を呼ぶ。


 

 この日、この世界で初めて、女性が男性に恋をした。


 


 ―― 第1章 人形の目覚め編 完 ――


 

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