表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/21

第20話 覚醒2


 僕と『エルフ喰い』は、お互いに隙をうかがいながら、ジリジリと距離を詰める。

 残念ながら、僕は遠距離攻撃魔法が使えない。武器といえば、岩で補強したこの拳くらいだ。


 とはいえ、それは相手も同じ。

 僕も『エルフ喰い』も、攻撃するには相手の懐に飛び込む必要がある。


 先に動いたのは『エルフ喰い』だった。

 地面をえぐるように蹴り、僕に向かって飛び掛かって来る。

 僕は身体を捻ることで、何とかその牙をかわした。

 そのまま右拳を『エルフ喰い』の脇腹に叩き込もうとするが、相手の速さに追いつけず、空振りしてしまう。

 

 ――くっそ、やっぱり速いな……


 『エルフ喰い』が僕を翻弄するように、左右に動き回り、こちらの死角をつくように踏み込んで来る。

 僕は、次々と襲い来る鋭い爪の横薙ぎと、凶悪な牙の噛みつきを、辛うじてかわしていくのが精一杯で、なかなか反撃のチャンスを掴むことができない。


 最初の不意打ちの一撃が入ったことで、打撃が当たりさえすれば『エルフ喰い』にもダメージが与えられることは分かっている。

 アルメリア先生の授業で聞いた話では『エルフ喰い』の強さの一因として、魔法抵抗の高さがあったはずだが、どうやら打撃に対しては、そこまで高い耐性はないようだ。


 とはいえ、そもそも当てることができなければ、何の意味もない。

 何とか『エルフ喰い』の素早い動きを目で捉えることはできているが、動きの素早さについては、明らかに相手の方に分がある。


 ――なら、やるしかないか。


 僕は左手の拳にまとわせていた、石や薄い瓦礫の欠片を、左手の肘のあたりまで広げて、腕の硬度を高める。


 再び牙を剥いて飛び込んでくる『エルフ喰い』。

 

 僕はその噛みつきをかわさず、あえて左腕で受け止めた。

 ガギイッ!!という嫌な音と共に『エルフ喰い』の凶悪な牙が僕の左腕に喰い込む。

 一気に食い千切ろうと『エルフ喰い』の牙に力が入るが、そこに一瞬の隙が生まれた。


「これで……どうだっ!!」


 僕は左腕に噛みついている『エルフ喰い』の顔面に、渾身の右拳を叩き込んだ。

 

 頭部に入った、会心の一発に、『エルフ喰い』の身体がよろける。

 が、『エルフ喰い』は、僕の腕に噛み付いた牙を放すことはなかった。


「グ……ガアアアッ!!」


 噛み付いた僕の左腕を、そのまま力任せに食い千切る『エルフ喰い』。

 ベキベキという岩の砕ける硬質な音と、ブチブチという腕の中に通していた毛糸が切れる嫌な音と共に、僕の左腕が引き千切られた。

 

「痛っ……てぇ!!!」


 ――クソっ! 痛覚を切り損ねた!


 左腕に通していた毛糸の感覚を、急いで遮断する。

 それでも、引き千切られた毛糸の激痛が、僕の身体に幻肢痛のように鈍く残る。


 『エルフ喰い』は、僕の左腕を嚙み砕き、ペッ!と吐き出した。

 丈夫な歯だな、コノヤロウ……


 僅かにふらつく様子は見せたが、まだまだ元気そうな『エルフ喰い』の姿に、僕は内心で舌打ちする。


 恐らくもう一度、同じ手は通じないだろう。

 どちらにしろ、次の一撃を入れる際に、手でも足でも持っていかれた時点で詰みだ。

 

 ――と、なると、次にやることは決まったな。

 

 僕は、いきなり回れ右をすると、脱兎の如く走り出した。

 『エルフ喰い』から逃げるように、村の南側、自分の家がある方向に向かって全力疾走する。


 一瞬、虚を突かれたように唖然としていた『エルフ喰い』が、怒りの唸り声をあげて、僕を追いかけ始めた。

 直線を駆ける速度では到底敵うわけもなく、あっと言う間に『エルフ喰い』は僕に追いついてくる。


 あと僅かで家にたどり着くという所で、無防備な背中に迫る気配を感じ、僕は地面に転がるように身をかわした。


 ゾリッ!という嫌な音がして、僕の背中の土を削り取りながら、『エルフ喰い』が僕の上を通り過ぎる。

 勢いあまってゴロゴロと地面を転がりながら、僕はその勢いを利用して、何とか身を起こした。

 上げた視線の先、『エルフ喰い』は、決して僕を逃がすつもりはないと主張するように、僕が逃げていた方向に立ちはだかっている。


「そうだよな、逃がしたくないよな?」


 僕は『エルフ喰い』と対峙したまま、口の端を歪めて笑ってみせた。

 僕の表情に対してか、それとも僕の言葉を理解でもしているのか、『エルフ喰い』は牙を剥いて唸り声をあげる。


「じゃあ、決着をつけようぜ!」


 僕は『エルフ喰い』に向かって駆け出した。

 『エルフ喰い』も僕に向かって突っ込んでくる。

 

 2人が正面から交錯する……と思われた瞬間、『エルフ喰い』の側面の建物、僕たちの家の隣の民家の屋根から、黒い影が(はし)った。


 それは、小さな小さな人影。

 毛糸人形の僕と比べても半分程度の大きさの、ティリアが作った僕の弟であり、相棒。


「行けっ!! ケイジっ!!」


 エーリカに見せてもらった魔道具操作を応用した、人形の半自動遠隔操作。

 今のケイジには、僕の魔力が染み込んだ毛糸を1本埋め込んであり、魔力パスが繋がっている。

 操作の練習と周囲の警戒のため、家の付近に潜ませておいたのだ。

 

 尖った瓦礫の破片を両手で抱えたケイジが、目にも止まらぬ速度で稲妻のように疾る。

 疾駆した黒い隻影(せきえい)は、そのままの速度で『エルフ喰い』へと急襲をかけた。

 死角である上方から特攻したケイジが、鋭利な瓦礫を、『エルフ喰い』の目に深々と突き立てる。

 

「グガアアァッ!!!」


 目から黒い血を流しながら、苦悶の叫びをあげた『エルフ喰い』が頭を振り回した。

 その勢いに吹き飛ばされたケイジは、民家の壁にぶつかって砕ける。

 だが、ケイジが奪った瞳は、元々傷付いた目のあった左目側であり、これで奴の左側の視界を完全に奪うことに成功した。

 

「よくやったぞケイジ!」


 僕は視界を奪った左側に回り込むように走る。

 『エルフ喰い』との距離を一気に詰め、そのままの勢いと体重を乗せた拳を、えぐり込むように顔面へ叩き込んだ。


 ドゴオッ!!

 

 岩をまとった拳の完璧なクリーンヒット。

 脳を揺らされ、グラリとよろける『エルフ喰い』。


「もう一発!!」


 撃ち抜いた勢いのまま一回転した僕は、膝を沈めて次は低空から拳を撃ち上げる。

 無防備な顎を撃ち抜くアッパーカット。


 ドガァッ!!!


 下から顔面を突き上げられ、のけぞる『エルフ喰い』。その脚はガクカクと震え、辛うじて踏ん張っている状態だ。


「トドメだぁっ!!!」


 渾身の力を込めた、振り下ろしの一撃。

 完璧に『エルフ喰い』の頭を捉える……はずだった僕の拳は空を切り、地面に突き刺さった。


 そしてバランスを崩した僕も、そのまま地面に転がる。

 慌てて起き上がろうとするが、なぜかうまく立ち上がることができない。

 そして激しい痛みと共に、ようやく気づいた。


 僕の右足の、膝から下が失くなっていた。


 唖然として『エルフ喰い』を見やると、その左前脚が振り抜かれている。

 苦し紛れなのか、狙ったのかはわからない。だが、結果として僕の脚は、その爪に刈り取られた。


「……っ、やられた……」


 僕は、痛みと悔しさに歯を食いしばる。

 脚をやられたのは致命的だ。

 この魔獣相手に機動力を失うということは、敗北と同意義だ。


 『エルフ喰い』がゆっくりと頭を振りながら、右眼だけとなった2つの瞳で、僕を睨みつけた。

 その瞳は怒りに燃えながらも、僕を強敵として認めた、油断のない冷静な色を湛えている。


 ――万事休す。

 

 この状態からでは『エルフ喰い』に攻撃を当てることすら困難だ。

 たとえ攻撃が命中したとしても、大したダメージは入らないだろう。むしろ、そのまま腕ごと食いちぎられて終わりだ。

 

 僕は、だらんと腕を下ろす。

 無防備になった僕に、油断なく『エルフ喰い』が近づいてくる。


 一瞬の睨み合い。


 そして『エルフ喰い』は、僕の頭を食い千切った。



 




 ――有名な言葉がある。

 切り札は最後まで取っておくものだ。


 僕は土人形の身体を魔力操作するために、毛糸人形の手足をほどいて、全身に行き渡らせていた。

 では、身体の核として残した毛糸人形の本体の部分は、土人形のどこに入っているか?


 『エルフ喰い』の口内、食い千切られた土人形の頭部の中。

 毛糸人形として残った僕の頭と身体は、そこに入っていた。


「正真正銘、最後の取っておきだ。存分に味わえよ?」

 

 いつも声を出すために使用している、ゼフィラのオリジナル振動魔法。

 通常は可聴域の低周波を発生させるために、毛糸を震わせているその魔法の、出力リミッターを解除する。

 僕は残った魔力の全てを注ぎ込み、振動魔法を出力全開で発動した。


 限界を超えて発動された振動魔法は、1秒間に1万回以上の超高周波振動を発生させる。

 その振動には魔力強化した毛糸でも耐え切れず、ブチブチと身体が千切れていくのを感じるが、僕は構わずに最大出力の振動魔法を解き放った。


 突然、頭部を高出力の振動加熱装置にぶち込まれたような状態になった『エルフ喰い』は、悲鳴をあげて僕を吐き出そうと暴れる。

 それでも僕は吐き出されまいと、残った毛糸を口内の牙に絡みつかせて、『エルフ喰い』の頭部へ振動魔法を撃ち込み続けた。


 『エルフ喰い』は目や鼻から、どす黒く泡立った体液を溢れさせて暴れまわり、そのまま頭から目の前の家の壁に激突する。

 その衝撃で、既にボロボロに千切れていた僕の毛糸の身体の残骸は『エルフ喰い』の口から転げ落ちた。


「グ……ガガ……ガ……ァッ……!」


 それでも『エルフ喰い』は、まだ立っていた。

 黒い体液をボタボタと零し、ガクガクと脚を震わせながら、それでも膝を折らずに立ち続ける。

 凄まじい生命力と、憎悪による精神力。


 対して、今度こそ全ての力を使い果たして、既に人形の形すら保つことが困難な僕には、もはや為す(すべ)がなかった。


 毛糸に魔力を留めることができず、既に意識を保つことすら難しい。

 それでも、その最後の光景を見逃すまいと、必死に意識を繋ぎ止め、僕は最後の言葉を発する。

 

「……まかせろ……とか、言っておいて……ゴメン……ね」


 それに応える声。


「いえ、よくここまで持ち堪えてくれました」


 ズガッッ!!という、硬質な何かを切り裂く音。

 『エルフ喰い』の首がゆっくりと傾ぎ、地に落ちる。


 最後に目に映るのは、倒れ込む『エルフ喰い』の胴体と、岩の大剣を振り抜いたシレネの姿。

 

 そして遠くから聞こえる、僕を呼ぶティリアの声。

 

 ――ああ、良かった……


 僕はようやく安心して、意識を手放し、暗闇の底へと沈んでいった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ