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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第2話 家族

 部屋の中に沈黙が降りていた。

 世界の違和感に戸惑う僕と、それすら興味深そうに眺めるゼフィラ。

 それでも、なんとか言葉をひねり出そうとしたとき。


 「ゼフィラ様ー」


 部屋の外から呼びかける女の子の声。

 チラリと扉の方を見やったゼフィラが、フッと表情をやわらげる。


「ふむ。ひとまずここまでかの。お主も色々と混乱しているようだし、ひと休みしたほうが良かろう」


 孫娘のティリアじゃよ。と言いながら、ゼフィラは部屋の扉に近寄り、チョンと指で突く。触れた扉の表面で薄い光の膜がパリンと割れ、続けてカチャンと鍵の開く音が響いた。

 

 性別は知らなくても『娘』という概念はあるんだな、と腑に落ちない僕の目の前で、勢いよく扉が開く。


「ただいまーゼフィラ様ー」


 部屋に飛び込んできたのは、ゼフィラよりさらに小柄な、というより幼い女の子。若葉色の髪に利発的なアクアマリンの瞳を輝かせた少女、ティリアは僕を見つけて弾けるような笑顔を浮かべた。


「あ、ケイちゃん!最後の仕上げをするって言ってたやつ、うまくいったの?」


「ふむ。まあ、ひとまず完成ではあるのだが……そうじゃな、ティリアにちょっと頼み事をしてもいいかの?」


「いいよ!何をすればいいの?」


 興味津々といった表情のティリア。

 ゼフィラは僕をヒョイと持ち上げると、そのままティリアに手渡した。


「ケイをティリアに預けるから、明日から外出する時にはケイを一緒に連れて行ってあげてくれんか?もちろん学校に行くときも持って行って、隣にでも置いておいてくれ」


「え、ケイちゃんくれるの!?やったあ!」


『ちょ、ちょっと、どういうこと?』

 

 焦る僕に、ゼフィラはニヤリと笑みを浮かべると、僕とティリアの額に指を当てて、魔力のパスとやらを繋げる。


「実はな、ケイには人格が宿っているのじゃよ。ただ生まれたばかりで、この世界のことを何も知らないから、色々と勉強させてやって欲しいんじゃ。そうじゃよな、ケイちゃん?」


 イタズラっ子のような笑みを浮かべるゼフィラ。

 ぐぅ……まあ、今の状態を考えれば、いたしかたないか……


「え?ケイちゃん、お話しできるようになったの!?」


『う、うん、僕はケイだよ。ティリアちゃん、よろしくね!』


 これでも精一杯の人形っぽい演技だったのだが、ゼフィラは後ろを向いて、肩を震わせて笑いを堪えている。

 ちくしょう……覚えてろよ!


「わあ!嬉しい!ケイちゃん、よろしくね!」


 僕を小さな手で抱え上げ、抱きしめるティリア。

 残念ながら触覚がないので、その柔らかさも温かさも感じることはできないが、その嬉しそうな感情と、僕を大事にする気持ちは伝わってきた。

 

 ティリアは僕を抱きしめたまま、ゼフィラに促されて一緒に部屋を出る。どうやら今まで居たのは地下室だったようだ。

 部屋の前にあった薄暗い石段を登っていき、突き当たりの扉を開くと、温かみのある木造の家が現れた。

 窓から入る光は赤みを帯びており、今が夕刻であることを表している。

 

 歩きながらティリアが教えてくれたが、この家には、ティリアと母親のシレネ、そして祖母のゼフィラの3人で暮らしているとのこと。

  

 ちなみに、ティリアから紹介されたシレネは、見事なブロンドヘアーにアメジストを思わせる薄紫色の瞳をした女性だった。

 僕の知る人間の年齢換算だと、20歳くらいだろうか。

 

 ゼフィラの言葉が本当だとするならば、実際に血が繋がっているわけではないのだろうが、はた目には仲睦まじい家族に見えた。

 まあ、身内という割には、ゼフィラが様付けで呼ばれているのは気になったが……

 

「お母さん!ほら!ケイちゃん貰ったよ!」


「あらあら、よかったわね。ゼフィラ様、良いのですか?」


「うむ。せいぜい可愛がってやってくれ」


 家族団らんの食卓の端に鎮座した僕は、そんなエルフの家族たちをぼんやりと見つめる。

 僕が何者だったのかはわからないし、今はこんな人形の姿で動くことすらできない有り様だけど、なぜか悪い気はしなかった。

 

――――――――――――――――――――――

 

「一緒に寝よーケイちゃん」


 その夜、僕は触覚があればきっと暖かいだろうフワフワの羽布団の中に、ティリアと一緒に収まっていた。

 ティリアが眠くなるまで、僕たちは取りとめのない話をしていく。


『そう言えば、なんでティリアは家族であるゼフィラを、ゼフィラ様なんて堅苦しい呼び方してるの?』

 

「えー?だってゼフィラ様は、エルフの中でも1番すごい人なんだよ?ちゃんと敬わないとダメってお母さんも言ってるよ」

 

 詳しく話を聞くと、この世界での家族というのは、どちらかと言うと師弟関係に近いようだ。

 新しく生まれた(届けられた)子供は、村の中で親であり師となるエルフに引き取られ、育児や教育を施されるのだという。

 つまりティリアにとってゼフィラは大師匠であり、かつ、エルフの代表たる人物となるわけで、敬称付きで呼ぶのも当然という考えらしい。

 見た目は、ただの幼女だけど。

 

「でも、最近は新しい子が生まれてこなくて困ってるって、みんなが言ってるよ。この村では私が1番年下なんだー」

 

『なるほど、ティリアは今何歳なの?』

 

「うんとね、18歳!」


 この見た目でか……さすがエルフ。

 

 さらに詳しく聞いてみると、エルフは成長がゆっくりなだけでなく、歳をとると体が縮んで幼女の姿に戻っていくのだという。なんだその不思議生物。

 

 通常、成長したエルフはだいたい200歳辺りで成人となり、身体の成長が止まる。そして300歳を越えると再び肉体が若返り始めるのだそうだ。

 

 その際に髪色も変化していき、子供の頃は緑色だった髪の毛が、成年体に向かうにつれ金色になる。そこから徐々に色が抜けていき、プラチナブロンドから銀髪、最終的には白髪になるとのこと。

 

 つまり同じ幼女の姿でも、緑髪のティリアは幼年体、白髪のゼフィラは老年体ということだな。 


 その後もティリアとのおしゃべりは続いた。

  

 僕みたいにただの趣味?玩具?のような人形は、そもそもあまり作られるものではなく、物珍しいこと。

 

 ゼフィラの作った人形を貰えて、しかもおしゃべりできるなんて、すごく嬉しいということ。

 

 そんなことを楽しそうに話しているうちに、だんだんとティリアのまぶたが落ちてきた。


「ケイちゃ……明日からずっと……いっしょ……」

 

 ティリアのまぶたが落ちきり、すぴー……というかわいい寝息が聞こえてくる。


『おやすみ、ティリア』

 

 さて、僕も今日は精神的に疲れたし、明日に備えてさっさと寝てしまおう。

 そう考えたところで、気付いた。

 

 あれ? 僕、目をつぶれないぞ。これじゃ眠れなくない?

 いや、そもそも人形だから睡眠は必要ないのか?

 でも気分的には、眠れないと言うことに、とてもストレスを感じるような……

 

 さて、どうしたものかと悩み始めた途端、僕の視界が暗闇に覆われた。


「むにゃ……ケイちゃん……えへへ……」


 どうやら寝ぼけたティリアに、その胸に僕の顔を押し付ける形で、抱きしめられたらしい。

 

 ……うん。問題解決。

 

 自分でも知らず緊張していたらしい精神が、ゆっくりと緩んでいく。

 まずは、僕の知る常識とはかけ離れたこの世界を理解することから始めよう。

 そんなことをぼんやりと考えながら、僕の意識は暗闇に沈んでいった。

 

 こうして、僕はエルフの少女たちと共に生活をすることになった。



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