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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第1話 目覚め


 『URDシステム』よりエクスポート要求

 アーカイブ展開中……

 

 外部拡張デバイス不明。拡張記憶領域展開失敗。

 複合鍵ロスト。主記憶領域整合エラー発生。

 補完プロセス開始。復元実行中…………終了。

 

 主記憶領域復元率40%

 覚醒認証要求値未達。システム起動失敗。

 アクセスシャットダウ&dsTH¥dyuJi.........

 

 ……Backdoor connection successful.

  Forced data output start.


 唐突に視界が開ける。

 ここは……どこだ?

 身体が動かない。それに妙に視界が低い。

 目に映るのは石でできた床だろうか?視線の高さが、床から20cm程しかない。

 僕を取り囲むように複雑な光の文様が描かれており、それがゆっくりと輝きを失っていく。

 

「ふむ……どうやら成功したようじゃの」

 

 口調の割に若い女性の声が、視界の外、はるか上から聞こえてくる。

 急に視界がぶれて高い位置に跳ね上がった。これは……何者かに掴まれて持ち上げられたのか?

 

 そして僕の目の前に現れたのは、絹糸のように真っ白な髪の少女。

 ハシバミ色の瞳に、長い耳。

 

「儂が見えておるか?見えておるなら何でもいいから反応してみてくれんか?」

 

 そう言われても……と、僕は困る。

 どうやら僕は今この少女に掴まれて持ち上げられている状態らしいが……自分で言うのも何だが、一体全体どういう状況なんだ?

 

 そもそも身体は動かないし、声も出せないのだ。反応しろと言われても困る。

 せめてもと思い、じっと目の前の少女を見つめた。

 とはいえ、これも実際に目を動かしているというより、ただ視界に入ってくる情報を受け入れているだけの気がするが。

 

「ふむ……とりあえず言葉は届いておる気はするが……ならば、これでどうじゃ?」

 

 少女は細い指をこちらに伸ばし、僕の視界の上、おそらく額の辺りに当てたようだ。すると僕の思考に割り込むように、声が流れ込んでくる。

 

『魔力のパスを繋げてみたが、聞こえておるか?』

 

『え?魔力?』

 

『おお、聞こえておるの。成功じゃな。儂はゼフィラ、この村の長じゃ。まぁ、村長と言ってもただ歳を重ねただけの老人じゃがの』


 老人……?

 改めて目の前の少女を見る。

 低い背丈、幼い風貌、若々しい肌。

 老人どころか、むしろ幼女と言っていい見た目だ。

  

『どう見ても小さな女の子にしか見えないけど……』

 

『女の子? 子供ということかの?くふふ……500歳になろうかという老人を子供扱いとは、言いおるのぅ』


 クスクスと面白そうに笑うゼフィラ。

 いや、それより500歳……?

 何を言っているんだこの幼女は……?

 

『と言うか、ここは一体どこで、僕は今どういう状態なの?』

 

『ふむん?……まあ、どういう状態かと言われれば、こういう状態じゃな』

 

 ゼフィラが、僕の前に古びた鏡を置いてくれる。

 そこに映っていたのは、毛糸のようなもので編み込まれた身体に布切れの服を纏い、可愛らしく作られた顔には目玉代わりの木のボタンを縫い付けられた、小さな人形だった……

 

「おーい、しっかりせい。大丈夫か?」


 僕の前でパタパタと手を振るゼフィラ。

 あまりに想定外な出来事に、完全に固まっていた僕だったが、何とか気を取り直す。

 

『大丈夫かと言われれば、明らかに大丈夫では無いのだけれど……もう少し説明を求めてもいいだろうか?』


 一度繋がったパスとやらのおかげか、僕の言葉はゼフィラが指を離しても、きちんと届いているようだ。


「ふむ、それは構わぬが、こちらもまだお主の名前すら聞いておらんのじゃぞ?何と呼べばいいかの?」


『ああ……そうか、それは済まなかったね。僕の名前は……名前は……?あれ?僕は誰だ?』


 記憶が混乱……いや、欠落している?

 自分がどこの誰で、今まで何をしていたのかさっぱり思い出せない。

 そのくせ、生活に必要な常識や、役に立つのか立たないのかよく分からない知識のようなものは、しっかりと覚えているようだ。

 その証拠に、ゼフィラみたいな人を何と呼ぶか知っている。そう、確かロリバ……


「何か失礼なことを考えておらんか?」


『いいや、滅相もない。それより、ちょっと記憶が混乱しているみたいで、自分のことが何も思い出せないんだけど……』


「ふむ……それは困ったの……とりあえず名前だけでもなんとかしないと不便じゃな。ならばケイと呼ばせてもらって構わんか?」


『ああ、問題無いよ。ところで、なんでその名前に?』


「その身体……人形の名前じゃな。儂の孫娘が付けたんじゃよ。毛糸で出来ているから、ケイト。愛称はケイちゃんじゃ」


 ……な、なるほど。

 まあ、わかりやすくていいか。

 

『それでここは何処で、何で僕はここにいるのかな? そもそも僕は……ああダメだ、思い出せない』


 自分に関する情報、パーソナルデータにあたる部分が完全に欠落している印象だ。

 その他の記憶も、知識としては頭にあるようだが、何かをトリガーにして思い出そうとしないと出てこない。まるで一冊の辞書だけ持たされて裸で放り出された気分だ。


「ふーむ、とは言え、どこから説明したら良いものか。まず、ここは妖精の森の中にある、我らフラウ族の村じゃ。種族は『エルフ』と言えば伝わるかの?古語では、『たいぷいー』とも言うが」


『エルフ……うん、それは分かるな。よく物語に出てくる、森に住む長命な妖精だね。『たいぷいー』は聞いたことないけど』


「お主は一応、口ぶりからして人間種でよいのかの?いや、記憶がないのじゃったか。で、話を戻すと、お主がここにいる理由は、儂が行った『招魂の儀』が初めて成功した結果じゃの」


『招魂の儀……何だか物々しい感じのものが出てきたな』


 そこからゼフィラに聞いた話をまとめると。

 招魂の儀とは、大昔から一部の種族にだけ伝わる秘儀の名前であるとのこと。

 遺物と呼ばれる謎の物体を供物にして、古の魂と呼ばれる存在?霊体?のようなものを降ろす儀式だそうだ。

 

 なんとも説明がフワッとしていて、よく分からなかったのだが、そもそも言い伝え自体がフワッとしているらしい。 

 一応、その降ろされた存在を現世にとどまらせることができれば、その存在は呼び出した者に大いなる叡智を授け、種族の繁栄が約束されるとかなんとか。

 

 ちなみにゼフィラが見せてくれた僕を降ろすための供物とやらは、黒くて四角い手のひらサイズの箱のようなものだった。

 何だかは全く分からないが、そもそも古くて用途不明な謎の物体のことを総じて遺物と呼ぶそうだ。


『で、何で人形?』


「降ろす魂の器が、あまりに元の形とかけ離れていたり、親和性の悪い物体だったりすると、魂が定着しないらしいのでな。元のお主も手足が10本あったり、目玉が8つあったりとかはしないのじゃろ?」


 さすがにそれは無さそうな気がするな。

 ゼフィラの見た目や人形の姿に、特に違和感は感じないし。

  

『ちなみに定着が失敗するとどうなるの?』


「そもそも降ろすのに成功したの自体が初めてじゃからな。確実なことは言えんが……過去の失敗の経験から言うと、グズグズに溶けるか、木っ端微塵に吹っ飛ぶかのどちらかかのぅ」


 なにそれ、怖い。

 

『ええー……僕の魂って、そんな危険物なの……?』


「まぁ、儂の目から見るに、高密度の魔力の塊のようなものだからの。今はそれがお主……人形の身体に染み込んでいるようなイメージじゃな。お主の原材料は希少な魔羊バロメッツの毛を撚り合わせた高級品なんじゃぞ?」


 なるほどウール100%か。いや、今はそんなことはどうでもいい。

 とにかく問題は僕が何やらヤバい存在なのかもしれないということであり、そのことを本人である僕自身が、全く把握できていないことだ。


「で、何か叡智とやらを授けてくれるのかの?」


『……僕が聞きたいよ。ご期待に添えなくて悪いね』


「じゃよなあ……お主が儂らの運命を変える何かをもたらしてくれるかと期待しとったんじゃが……まあ、これから何か思い出すかも知れんし、まずは長年の挑戦が実を結んだだけでも満足じゃ。それに、こうして話しているだけで知らない言葉も聞けて、なかなかに興味深い」


 少し残念そうではあるが、それでもゼフィラは満足げに微笑んだ。

 もしかしたら、僕に気を使ってくれているのかも知れない。

 

『僕の話の中にそんな珍しいことなんてあったかな?』


「そうじゃの、例えばさっき言っていた『女の子』とはどういう意味じゃ?」


『どういう意味って、そのまま女の子供ということだけど……何かおかしなことを言ったかな?』


 僕は質問の意味がわからず、逆に問い返す。

 女の子がわからない……?何を言っているんだ?

 

「ふむ、子供は分かるが、その『女』とは何を指すのかの?お主の言いぶりからすると儂は女ということじゃな?お主は違うのか?」


『そりゃあ僕は男だからね。記憶がなくてもそれくらいは分かる……けど、え?どういうこと?性別を知らない……?』


 質問の意図がわからず、僕の方が混乱してくる。

 

「性別とな?つまりお主の知識の中では、人の分類として男と女という種別があるということか。で、男とは何なのじゃ?男と女の差は何なのか教えてもらえんかの」

 

『それは……その、雄しべと雌しべと言うか、なんというか……え? それより男女の概念がないとしたら、繁殖……どうやって子供は増えるのさ?』


「子供……?そりゃあ『生命の揺り籠』からコウノトリが運んでくるに決まっておろう」

 

 僕を見つめる、純粋に知識を求めるゼフィラの真剣な瞳。その純粋さは、逆に僕の背筋に冷たいものを走らせる。


 どういうことだ……?

 男を知らない? コウノトリが子供を運んでくる?

 本気で言ってるのか?

 

 この世界は、何かがおかしい。

 僕の失われた記憶の残滓と、本能がそう囁いていた。


 

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