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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第18話 襲撃4


 シレネとミモザは、あっと言う間に準備を整えて、魔獣を討伐するため村を出発した。

 村に残った僕たちは、防衛線を張る人員を除き、村の中心にある集会所へと集められる。


 ゼフィラたちのように村から離れている人を除くと、現在の村人の数は200人程度。

 エルフはほぼ全員が魔法を得手としてはいるが、もちろんその全てが戦いに適しているわけではない。

 

 それでも状況が状況であるため、少しでも戦力や防衛の足しになりそうな人員は全て駆り出されて、防衛線の構築や、周囲の監視、偵察などに回されている。

 そのため集会所に残ったエルフは50人ほどであり、その大半はティリア達のような緑髪、もしくは白髪の幼女たちだ。


 周りには、リーリやカレン、ルティスといったいつもの仲間も集まっている。

 みんな戦う事はできなくても、炊き出しの準備など、それぞれ手伝えることを行っていた。

 

 ルティスは水魔法で大きな鍋に水を溜め、臨時で作成した(かまど)の前でカレンが火の番をしている。

 先程までその竈作りを手伝っていたティリアは、清潔に洗ったシーツを干しているリーリを、ぼんやりと眺めていた。

 

「お母さん、大丈夫かな……」


 不安そうに僕をギュッと抱きしめるティリア。

 僕は、そんなティリアの細い腕を優しく擦る。

 

「もちろんだよ、シレネさんってすごく強いんだから。そんなに心配しなくても大丈夫」


「うん……そうだよね」

 

 ほんの少しだけ、ティリアの表情が緩む。

 うん。大丈夫。ティリアは安心して笑ってて。

 

 ――僕が、何とかするから。


「ごめんね、ティリア。ちょっと降ろしてくれる?」


「……? どうしたの? ケイちゃん?」


 首を傾げながらも、僕を地面に降ろすティリア。


「ちょっと忘れ物しちゃったから、行ってくる。ティリアは、みんなと一緒にここで待っててね?」

 

 言うが早いか、僕は魔力操作を全開にして、集会所を飛び出した。


「えっ!? ケイちゃん!? 待って、ケイちゃーん!」


 僕を呼ぶティリアの声を置き去りにして、僕は飛ぶように走った。

 向かう先は、ちょうど僕たちの家がある方向。

 村の()()だ。


 ――――――――――――――――


 村から北に2kmほど離れた森の中。

 

 ミモザの指先が踊るように舞う。

 複雑な印を組むように揺らめくその指先は、端から見たら、まるで優雅な舞を踊っているようだった。

 

 しかし、その舞に合わせて振るわれる指先が指し示す先で、発現するのは純粋な『死』だ。


「はい、行きますよー」

 

 指先の動きに(いざな)われ、ヘビのように腕に絡みついていた水の塊が、ミモザが指し示す方向へと極細の超高圧水流となって射出される。

 所謂、ウォーターカッターの如く、その水流は群れの先頭の魔獣の額を貫いた。

 

 そのままミモザは指先を横薙ぎに振るう。

 水流のレーザーとでも言うべき射線が、豪快に森ごと魔獣の群れを薙ぎ払った。

 一瞬の静寂の後、森の木々と一緒に、大量の魔獣達が真っ二つになって崩れ落ちる。

 

「相変わらず、見た目に反して、えげつない魔法ですね」


 隣に並ぶシレネが呆れた顔で呟きながら、羽織っていた外套を、肩から地面に滑り落とした。

 外套の下から出てきたシレネの服装は、袖のない身軽な上着に、左右に深いスリットの入った短いスカート。

 自身の動きを阻害しないことだけに、重点が置かれた服装。


 シレネが一歩、強く足を踏み出すと、足元の地面からメキメキと音を立てて、岩でできた巨大な剣が生えてきた。

 自身の身長くらいはあるその大剣を、シレネは片手で地面から引き抜いて肩に担ぐ。


「ティリアが待ってますから、手早く片付けましょう」

 

 言うや否や、シレネは地を蹴り、近場の魔獣の群れへと飛び込むと、担いだ大剣を叩きつけた。

 振るわれた大剣により、直接2体ほどの魔獣が叩き潰されるが、それは序の口。轟音と共に地面に叩きつけられると同時に、大剣は粉々に砕け散り、その破片1つ1つが、鋭い岩の槍となって魔獣の群れを貫く。


 ズゴゴゴゴオッ……!!


 舞い上がった激しい土煙がゆっくり晴れると、そこに居るのは、魔獣達の骸の上に立つ、2本目の大剣を担いだシレネだけだった。


「えげつないのは、どっちですかねぇ……」


「うるさいですよ。さあ、次です。」


 シレネとミモザは、襲い来る魔獣を倒しながら、更に森の奥へと探索の輪を広げていく。

 まるで、少しずつ村から引き離されていくように……


 ――――――――――――――――


 僕は自分の家に向かって、音も無く走った。

 先ほどからずっと、毛糸でできた僕の身体が、ピリピリと不快に震えている。

 

 狙っていた訳ではないが、たまたま準備していた仕掛けが、僕に激しく警鐘を鳴らしていた。

 

 ――間違いなく、良くないことが起こっている。

 

 村の南側に進むほどに、その感覚は強くなっていた。

 

 あと少しで家に辿りつく……そう思った時、ゾワッ!と身体中が総毛立つ寒気に襲われ、僕は急ブレーキをかけると、近くの家の脇の路地に飛び込む。

 

 家の陰からそっと頭だけ出して、先の様子を伺う。

 視線の先、ゆっくりと歩く大きな黒い影。

 その影は、狼の形をしていた。


(嘘だろ……あれってまさか……)


 かつて、アルメリアに聞いた特徴。

 巨大な狼。

 四つ目。

 そして、片目の傷。


(エルフ喰い……)


 エルフにとって最悪の『忌み名』を持つその魔獣が、悠々と村の中を歩いている。


(こっち側にも、見張りの人は居たはずだけど……)


 そこまで考えたところで、僕は気付いてしまった。

 『エルフ喰い』の剥き出しの牙の隙間に絡む、長い金糸。口の周りの毛皮を染め、今も滴り落ちる鮮やかな赤い液体。


 ギシッ……と、僕は毛糸の手を強く握りしめる。

 

 ――ダメだ。落ち着け。


 僕は、無理矢理、気持ちを押さえつけ、冷静に頭を働かせる。

 幸いにも、まだこちらの存在は気付かれていない。

 まずは、キリ達にこの事を知らせて、集会所の皆を避難させるのが先決だ……

 音を立てないように、そっと一歩後ずさる。


「ケイちゃん……こんな所で何してるの……?」

 

「!!!!」

 

 僕を呼ぶ、聞き慣れた声。

 僕の大好きな、でも今だけは、一番聞きたくなかった声。


 ティリア……何で……?

 いや、聞くまでもない。僕を心配して、追いかけて来てしまったのだろう。


 咄嗟にティリアを路地裏に引き込んで隠れるが、『エルフ喰い』が立ち止まるのが気配で分かった。

 くそっ……! どうする!? 考えろ……!!


『ティリア、声を出さないで! それと魔法で土壁を作って、なるべくたくさん!』


 僕はティリアの口を手で塞ぐと、声を出さずに、魔力パスの会話でティリアに指示を出す。

 かつて繋いだ魔力パスを、ティリアとは切らないでいたのが役に立った。


 パスを通して僕の緊張感が伝わったのか、ティリアは黙って頷くと、僕の指示通りに土壁を作り始めた。

 路地の入り口を塞ぐように、ティリアの土魔法で生成された土壁が立ち上がっていく。


 その間にも『エルフ喰い』の気配が、すぐそこまで近づいて来るのを感じる。

 ティリアも何かを感じ取ったのだろう。土壁を作りながらも、その瞳に怯えが混じり始める。


『土壁にはできるだけ魔力を込めて! 大丈夫、ちゃんと考えがあるから。僕を信じて?』


 コクコクと涙目で頷きながら、ティリアは必死に土壁を生成する。

 土壁が路地の入り口を完全に塞ぐ大きさになった所で、僕はティリアの肩口から飛び降りると、土壁に手を付く。


(間に合え!!)


 僕が土壁に魔力を注ごうとした瞬間。

 

 横殴りの激しい暴力が、僕も、土壁も、路地横の建物の壁ごと、全てを吹き飛ばした。


 

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