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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第17話 襲撃3


 ゼフィラたちがフラウの村を旅立ってから、1週間が経っていた。

 その間、フラウの村での大きな問題は発生していない。

 というか、小さな問題も何も発生していない。いつも通り穏やかな日々が続いていた。


 ティリアやカレンたちも、アルメリアの言いつけ通り魔法の練習をしたり、温泉に入ったりと、楽しく時間を過ごしている。

 僕もみんなと一緒に魔法の訓練をしたり、たまに温泉で裸の少女たちに洗われたりという、人形として充実した(?)毎日を送っていた。


 そんな中、今日の僕はミモザに誘われ、パン屋さんの手伝いに来ていた。


「そんなわけでぇ、『あんこパン』を作る材料が不足しちゃってるんですよぉ。何か良いアイデアありませんかあ?」


 しばらく前に、なんとなくミモザにアンパンの作り方を教えたのだが、村中で大ヒットしてしまい、現在材料不足で品切れ中とのこと。


「アイデアかあ……何かいい感じのものがあるかなあ……」


 この前はなんとなく思いつきで、アンパンについて語ってしまったが、そこまで手をかけなくともいい気がする。

 残念ながら、人形である僕は食べられないが、そもそもミモザの作るパン自体が、とても美味しいと評判なのだ。

 

「何かひと手間……そうだ、ねえミモザ、乾燥させた果物とか木の実とか無いかな?」


「それくらいなら、もちろんありますよぉ」


 ミモザは自宅兼倉庫から、いくつかの小袋を持ってきた。その中にはあまり見たことの無い木の実や、恐らく干しブドウのようなドライフルーツなどが入っている。


「よしよし、これならいけそうだな」


 僕は袋の中から、干しブドウらしきものと、クルミっぽい木の実を選んで引っ張り出した。


「ミモザ、コレをパン生地に入れて、一緒に焼いてみてくれない?」


「はいはいーおまかせあれですぅ」


 ミモザは用意していたパン生地をこね始める。

 その指先の動きはものすごく優美で、指一本一本が、絶妙な力加減で生地をこね、揉みあげるように形作っていく。

 その、見ているだけでゾクゾクしてくる指使いから、無理矢理に視線を剥がし、僕は自分の前のテーブルによじ登った。

 

 実は今回、僕も少し生地を分けてもらってパンづくりを試させて貰うことになっていた。

 とはいえこれも、実は僕にとっての魔法の訓練の一種だ。他の皆のように、火や水などを生成するのは苦手だけど、日頃の訓練のおかげもあり、物体に魔力を通して操作する能力については、かなり熟練してきた自負がある。

 

 僕は目の前のパン生地に触れた手から、魔力を流し込む。パン生地は僕の思考に合わせてこね回され、平たくなっていく。

 ちょっとばかり贅沢にバターを使わせてもらい、生地に折り込んで再び平らに伸ばす。


「それにしても、魔力操作がお上手になりましたねぇ」


 木の実を生地に練り込みながら、ミモザが僕の手元を覗き込む。

 

「まあ、今の所これしかできないからね。ミモザみたいに上手にこねられてはいないから、味は保証できないけど」


 引き伸ばした生地を互い違いの細長い三角形に切り分けて、クルクルと巻く。

 よし、これであとは発酵させて焼くだけだ。冷やしたり寝かせたりといった手順はすっ飛ばしているけど、まあ食べられるものにはなるだろう。


「こちらもできましたよーケイくんのは面白い形をしていますねぇ。少し置いたら一緒に焼きましょうね」


 よしよし、じゃあ今のうちに味見役を連れてくるかな。


――――――――――――――――

 

「おいしーい!!」


 パンを頬張ったティリアの笑顔が弾けた。

 その隣に並んだカレン、ルティス、リーリも夢中でパンを口に運んでいる。

 

「これは干した果実の甘みと、アクセントとなる木の実の歯ごたえが絶品だよ!それに、こっちのパンもバターの風味とサックリとした食感で、いくらでも食べられる!」


 なんかカレンが食通みたいなこと言ってるけど、とりあえず僕の作った『なんちゃってクロワッサン』も好評のようで何よりだ。


 同じように、焼きたてパンを食べながら、ミモザも頬に手をあてて満足そうに微笑んだ。


「やっぱりケイくんに相談してよかったですぅ。この『木の実パン』も『くるくるパン』も大人気になること間違いなしですよぉ」


 ……いつの間にか商品名も付いていた。

 ていうか、クロワ……『くるくるパン』の方も商品にするの?


「はいー。こんな美味しいパン、もっとみんなに食べてもらわないと、もったいないですよぉ。作り方もちゃんと覚えましたので、ぜひうちのお店に並べさせてくださいねー」


 作り方なんて教えてないのに、いつの間に……

 まあ、僕としては全然構わないけどね。

 ただ、味覚が無くて、そのパンを味わえないのだけは残念だなあ。


 この部屋には、今も焼きたてのパンの香りが漂っているんだろう。

 味覚も嗅覚もない人形の僕には、それを楽しめないことは残念だったけど、ティリア達の嬉しそうな顔を見ているだけでも、幸せな気持ちになれた。

 そんな何気ない午後だった。

 ――その時までは。


 

 パン屋のドアが大きな音を立てて、勢いよく開かれる。

 1人のエルフが息を切らして飛び込んできた。

 あれは確か、狩人のキリだ。

 よほど急いでいたのだろう、膝に手をつき、大きく息を切らしている。

 

「ハァッ……ハァッ……ミモザ様……大変です!! 魔獣が……魔獣の群れが村に迫っています!!」


――――――――――――――――


 魔獣の襲来。

 その報は、あっという間に村中に伝達された。


 もちろん、族長代理を務めているシレネにも、ミモザとほぼ同時に同じ内容が知らされていた。


 ミモザが、ティリア達にこの場にとどまるよう告げて飛び出した途端、駆けつけてきたシレネと鉢合わせする。

 ちょうどその場に、現場を見ていたキリがいたこともあり、パン屋が臨時の会議室となった。


「魔物の群れを発見したのは、村の北側約5kmの地点。発見時の目算でおおよそ100体。おそらくはそれ以上と思われます」


 ミモザが自宅から持ってきた地図を広げて、キリが指摘した大まかな位置を確認する。

 アニムの村を襲っていたはずの魔獣の群れが、なぜここに?という疑問が湧くが、今はそのことを考えている余裕はなかった。

 進行速度はそれほど速くないとのことだが、それでも魔獣が村に到着するまでの猶予は、残り1時間もないだろう。


「今のところ、その群れ以外は確認されていないのね?」

 

「はい。別の方角にも偵察要員は出していますが、そちらからの報告は入っていません」


 シレネはキリの答えを聞いて、考えを巡らせる。

 現在、アニムの村への救援のため、ゼフィラや四賢者の半分、さらに魔法の精鋭部隊が出払っており、フラウの村の戦力は常時の半分にも満たないだろう。

 いくらシレネとミモザの戦闘力が飛び抜けていたとしても、防衛に回っては、対応しきれない可能性が高い。


「……ミモザ。2人で打って出ましょう。それが一番勝率が高いわ」


「確かに……それしかないですねぇ」


 少ない選択肢の中から選び出された答えは、最高火力2人による、|急襲からの殲滅《サーチ&デストロイ》。

 

「キリ、村人の中で戦える人員を集めて、村の北側を中心に防衛線を構築してください。非戦闘員は集会所に避難を。私とミモザはこのまま魔獣殲滅に向かいます」

 

 族長代行としてキリに指示を出し、そのまま部屋を出ようとしたシレネは、自分を心配そうに見つめるティリアに気付いた。


「……お母さん」


 シレネは優しく微笑むと、ティリアに近づき、そっとその小さな身体を抱きしめた。

 

「ティリア……大丈夫よ。ちょっと行って、悪い魔獣を片付けて来ますから、いい子で待っていてね?」


「うん……気をつけてね、お母さん」


 ティリアの頭を優しく撫でた後、シレネは傍らの僕に視線を移す。


「ケイ、ティリアをよろしくね」


「わかった。無理しないでね」

 

 僕の言葉に、シレネは微笑んで頷くと、表情を引き締めて部屋を出て行った。その後にミモザが続く。


「じゃあ、私も行きますねー」

 

「ミモザも気をつけて! 帰ってきたら、また新しいパンを作ろうね」


 僕の言葉に「それは楽しみですねぇ」と、いつも通りのホンワカした表情のまま笑いながら、ミモザも部屋を後にした。

 

「じゃあ、私は急いで防衛隊を編成しなきゃだから、みんなは集会所に避難してね」


 2人を見送り、残された僕たちに、キリが避難を促す。

 ティリアに抱き抱えられ、一緒に指示に従いながらも、僕はただ、理由のわからない不安に苛まれ続けていた。


 

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