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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第15話 襲撃1


 ゼフィラたちがアニムの村に到着してから3日後の夕刻、エーリカが定期的に放っていた『鳥の目』が魔獣の反応を捉えた。


「――来たか。偵察を出して、詳細な状況を把握せよ」


 ゼフィラの指示で村の周囲に放った偵察隊からもたらされた情報は、驚くべきものだった。

 村を囲むように全方位からの魔獣の侵攻。雪崩のように押し寄せる大量の魔獣の群れは、小型のものを合わせれば目算で1000体を超える。

 その種類は様々で、毛むくじゃらの獣の頭を持つ人型の怪物や、地を這う双頭の大蛇、果てはただの不定形な蠢く肉の塊など、まるで一貫性が無い。


「なんとも景気の良いことじゃのう……」


 呆れたような声をあげるゼフィラ。だが、その口元には壮絶な笑みが浮かんでいる。

 ゼフィラ達とて、ここ数日ただ遊んでいた訳ではない。この様な事態も想定した段取りや、予行演習を十分に行ってきている。


「各隊出撃。作戦プランC。村から離れすぎるな。間を抜かれるぞ」


「「了解!」」


 ゼフィラの号令に、エルフの攻撃隊がそれぞれの方向へと移動を開始する。


 セロウの指揮する部隊が、村の北側。

 エーリカの部隊は、村の西側。

 アルメリアの部隊が、村の南側。

 そして余った東側には、ゼフィラの部隊が展開する。


 それぞれの隊長が10人ほどの隊員を率いているが、どの隊も隊長が先頭に立ち、その他の隊員がその補佐やカバーを行う配置になっている。


 基本的には非戦闘員となる一般の村人たちを除くと、最終防衛ラインに配置されたアニムの村の精鋭を加えても、エルフの戦力は100人弱。

 襲い来る魔獣との戦力差は、おおよそ1対10という、普通に考えれば無謀にも程がある状況。


 それでも、エルフ達の士気は下がることはない。

 彼女らは信じているのだ。

 その圧倒的不利すら覆せるゼフィラ達の実力を。

 


 まず戦端を開いたのはアルメリアだった。

 愛用の杖を地面に突き立て、杖の先端に埋め込まれた触媒の輝石に手を翳す。

 

 この世界の魔法の強度は、イメージしたものをいかに正確に、そして効率よく、魔力を使用して現実に干渉させ、現象として顕現させられるかで決まる。

 そこに決まった手順や方式があるわけではなく、使用者それぞれが、己に最も適した発動方法を模索し、一生をかけて探求し続けていくのだ。

 

 アルメリアの口から『詩』が紡がれる――


()は炎。炎は()


 その『詩』は、自己暗示のトリガーとなり、一種のトランス状態へと、アルメリアを導いていく。


「地に炎は湧き、血は炎に沸く」

 

 朗々と謳い上げるその言の葉に呼応するように、アルメリアの瞳が紅く輝きを放ち、長い髪が赤熱の色を帯び始めた。


「我は立つ、赫々(かくかく)たる穂のさざめく地平――」


 アルメリアのまとう魔力が熱を帯びる。

 火の粉を散らしながら渦を巻く魔力は、地を疾走(はし)り、魔獣の押し寄せる最前線にまで広範囲に広がっていく。

 

 それを後ろで見守る若いエルフが「これが……『獄炎』の名を知らしめた魔法……」と、感動に打ち震える。


 そしてアルメリアは、高々と最後の一節を謳う。

 

「燃え尽きろ、灰燼に帰すまで―― 獄炎の檻(フラム ゲヘナ)!!」


 渦巻く魔力への着火。

 刹那、夜が明けたかと見紛うばかりの閃光。

 そして次の瞬間には、轟音と共に炎の壁が大量の魔獣達を巻き込んで、大爆発を引き起こした。


ゴオオオオォォ……ッ!!


 森の一部ごと数十体の魔獣を巻き込んで、激しい業火が燃え盛る。

 隊員たちは、言葉を発することさえできず、魔獣が焼かれていくさまを呆然と見つめていた。

 

 赤く燃えるような色に染まった髪を靡かせ、炎の明かりに顔を照らされたアルメリアが振り返る。


「さあ。まだまだ次が来ますよ。皆さん、追撃の準備をして下さい」


――――――――――――――――


「アルメリアが、派手におっ始めたね」


 大きなカバンを肩に担いで森を進んでいたエーリカが、足を止めた。

 偵察により、西側方面の魔獣の群れも、目前まで迫っているのが分かっている。

 

「じゃあ、コッチもそろそろ始めますか」


 エーリカはカバンを地面に下ろすと、その中から四角い金属製の箱を取り出した。

 そのまま地面に置かれた箱のサイズは長さ30cm、幅20cmほどで、鈍い銀色の輝きを放っている。


「――起きろ、『シルフィード』」


 エーリカの力ある言葉に反応し、箱の中央が左右の長辺に沿って、バシャッ!と音を立てて開いた。

 箱の中には片側の長辺にそれぞれ3つずつ、合わせて6機のやじり型をした魔道具が格納されている。それらが全て同時に起きあがると、シャリンッ!という澄んだ音を立てて空中へと飛び出した。


 高機動型決戦魔道具『シルフィード』。

 全長15cm程の鋭い鏃型をしたエーリカお手製の魔道具。エーリカの風魔法による遠隔操作で空中を自由に飛び回り、風をまとった鋭い刃で縦横無尽に敵を切り裂く魔道兵器。


 6機のシルフィードは舞い踊るように宙を走り、エーリカの周りを旋回した。

 エーリカはそれら全てに個別に命令を与え、手足のように自在に操る。常人であれば考えられない、6機同時のパス接続による並列思考操作。

 

「危ないからみんな下がって。もし撃ち漏らしがでたら、個別に潰していってね?」


 隊員たちに大雑把な指示を与えると、エーリカは魔獣の群れに目をやり、腕を振り下ろした。


「――行け」


 シャリンッ!と銀色の刃たちが、空を滑空する鳥のように羽を広げる。

 金属の羽に死の風を纏い、全てのシルフィードが一斉に魔獣の群れへと襲い掛かった。

 

 獣人型魔獣の首が飛ぶ。

 地を這う小型魔獣が、真っ二つに裂ける。

 巨人型魔獣の目玉を貫き、顔の中央に穴を開ける。


 楽団の指揮者の如く優雅に手を振るエーリカの動きに呼応して、銀閃が宙を疾走り、止まることのない死の舞踏を踊る。

 

 次々と襲い来る魔獣達の黒き波濤を、風の妖精達は美しくも無慈悲な舞いで砕き続けた――


――――――――――――――――


 村の北側、セロウの率いる部隊も、魔獣の群れと会敵していた。


「私たちが抜かれたら村に被害が出ます!一体も通さないで下さい!」


 セロウの指示の元、アニムの精鋭たちが、襲い来る魔獣の群れを押し留める。

 身体強化魔法を主とした戦術で、一体一体確実に魔獣を潰していくが、アルメリアやエーリカの部隊と比べると、苦戦しているのは明らかであった。


 徐々に魔獣の波に押し込まれ始め、セロウが各所のフォローに飛び回るが、それにもすぐに限界が来る。


「くっ……このままでは……」


 危なく隊列の間をすり抜けそうになった小動物型の魔獣に追いつき、魔力を乗せた蹴りでその首を刈り取るセロウ。

 

 しかしその間にも、隊員の1人が鰐の頭をした蛇型の魔獣に噛み付かれ、引きずり倒された。

 陣形の一部が崩れ、そこから一気に押し込まれ始める。


「まずい……っ!抜かれるっ!」


 陣形の穴を塞ぐため、必死に走るセロウを嘲笑うかのように、数体の魔獣が防衛線を突破した。


 その時、一陣の金色の風が戦場を駆け抜ける。

 

「――っらあああっ!!」


 裂帛の気合と共に放たれた拳撃は、一直線に闇を切り裂き、防衛線を突破した魔獣達をまとめて撃ち砕いた。


「何やってんだセロウ!気合が足らねーぞ!」


 視線の先、堂々と立つその背中は、幼い頃から追いかけ続け、未だに追いつくことができない憧れ。

 若くしてアニムの族長となった、セロウの大親友。

 

「……リオン……どうしてここに……?」


 魔獣など一匹も通さんとばかりに、腕組みして雄々しく立つのは、アニムの村の族長リオン。

 未だに身体中包帯まみれではあるが、その溢れ出す闘志には一片の陰りも無い。


「いえ……助かりました。身体は大丈夫なのですか?」


「村の危機に、この程度の傷で寝てなんて居られるかよ!」


 ああ……やっぱりリオンには敵わないな、とセロウは心が熱くなるのを感じる。


「ノニ様の許可は?」


「うっ……これが終わったら謝る……セロウも一緒に謝って……?」


 仕方ないですね、今回だけですよ? とセロウは苦笑しつつ、リオンの横に並び立った。


「行きましょう。号令をお願いします」


「おう!…… お前ら気合い入れろ!!アタシが来たからには、もう大丈夫だ!こっから押し返すぞ!!」


「「ウオオオオー!!」」


 落ち込みかけていた隊員達の士気が、一気に高まる。

 

 心が、身体が、強く沸き立つ。

 いつか本当に実力でリオンの横に立ってみせる、と心に誓いながら、セロウは全力で走った。


 

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