第12話 賢者の実力?
「明日からしばらく、学校はお休みになります。その間は、それぞれ魔法の自主練習を行ってください」
いつもの学校での魔法授業中、アルメリアが告げる。
なんとなく、朝からアルメリアの雰囲気が違う気はしていた。何かあったのだろうか?
「せんせー、何か用事でもあるんですか?」
お、カレン、素直に質問できるところは、お前の良いとこだぞ。
「……そうですね。今日の午後にはゼフィラ様から村人全員に通達があるはずですし、あなたたちも知っておいたほうがいいでしょう」
アルメリアは、別のエルフの村が魔獣に襲われたこと、怪我人が出たため、ゼフィラを筆頭にアルメリアとエーリカ、他にも数人の村人が手伝いに向かうことなどを教えてくれた。
詳しい被害状況など、細かいことまでは伏せている感じだったが、その口調からすると、おそらく被害は小さくないのだろう。
「アニムの村までは、片道3日ほどかかりますので、あちらでの『仕事』を考えると、早くても2週間程度は留守にすることになると思います。各々、自分の身が守れるよう、十分に注意してください」
淡々とした口調で告げるアルメリアに、ティリア達の顔が不安げに曇っていく。
しかしアルメリアは、生徒たちのそんな様子に気づく素振りもない。
僕は、おもむろにアルメリアへと歩み寄り、ピョンとその肩へと飛び乗った。
「アルメリア先生」
僕は柔らかな毛糸の手で、ポフポフとアルメリアの頬を叩く。こちらに視線が向いたのを確かめてから、僕はティリア達の方を指差した。
生徒たちの様子にようやく気づき、ハッとした表情になるアルメリア。
「すみません……話を急ぎ過ぎましたね。安心してください、私やエーリカは留守にしますが、この村にはミモザとシレネが残ります。もし何かあったとしても、あの2人なら皆さんをしっかり守ってくれますよ」
生徒たちを安心させるように、優しい笑みを浮かべるアルメリアを見て、ようやくティリア達はホッとした表情になり、各々の魔法の練習に戻っていった。
アルメリアは、肩に乗った僕を片手でそっと抱き、優しくその頬に押し付ける。
「ありがとう、ケイ」
「どういたしまして。大丈夫? だいぶ思い詰めてるように見えるけど」
「ええ、ちょっと気負いすぎていたようです……でも、ケイのおかげで、肩の力を抜くことができました」
そう言って微笑んだ表情は、いつものアルメリアのものだった。
うん、もう大丈夫そうだねと、肩から降りようとした僕を、アルメリアの手が引き止める。
「どうしたの、アルメリア?」
「ケイ、もし私に何かあった時には、子供たちを頼みます」
「……縁起でもないことを言わないでよ」
僕はアルメリアの頬を、ポフッと1発軽く叩く。
そんなお願いは聞けない。
ティリアたちはアルメリアの生徒だろ?
もちろん、僕も生徒の1人だ。
まだ教えてもらいたいことだって色々あるんだから、ちゃんと帰ってきてもらわないと困る。
「……それと、リーリと立ち上げた『お風呂研究会』の活動も、必ず続けてください」
……ん?
「あと、露天風呂拡張計画も進めてください。できれば今の10倍くらいに。それと我が家のお風呂ももっと豪華にしてもらって、足を伸ばして入れるくらいの……」
……あ、これたぶん心配ないやつだ……
僕はため息をつくと、アルメリアの側頭部にバフッ!と強めの一発を叩き込むのだった。
――――――――――――――――
僕は魔法の練習をしているティリア達の元へと戻る。
それぞれ得意分野が定まってきたため、僕の目から見ても、少しずつではあるが上達の兆しが見えていた。
「むむむー……えいっ!」
リーリと、地面に鎮座した5代目ケイジ(土人形)が見守る中、ティリアが地面に手を付いて気合を入れると、地面がモコモコと湧き上がり、土壁が生成される。
「そんでもって、硬くなれー」
さらに土壁に魔力を流し込むティリア。
魔力で壁の硬度を上げ、耐久度を強化しているようだ。
おお、なかなか頑張ってるじゃないか!
「ふう、ふう……これで、どうだー!」
「うん、じゃあいくよ」
ティリア渾身の土壁に向かって、ルティスが片手を突き出した。
空中から湧き出すように水流が生成される。その水は突き出した手の平に集まり、こぶし大の水の玉が出来上がった。
いつもであればその水球をそのまま撃ち出すのだが、今回ルティスはそこから、さらに水球へと魔力を注ぎ込む。
ルティスが額に汗して魔力制御した水球は、圧縮されて、元の半分くらいの大きさになった。
「……はっ」
ルティスの小さな掛け声と共に、圧縮水球が勢いよく飛び出す。
水球はそのままティリアの作った土壁に衝突。壁の一部を突き破ると、勢い余って、壁の向こう側にいたケイジ(5代目)を、粉々に吹き飛ばした。
「ケイジ――!!」
ガックリと膝をつくティリア。
――もはや、わざとだろ、これ?
ともあれ、やっぱり幼女組の中では、ルティスが一番魔法が得意みたいだ。
次はカレンとリーリが交代して練習を始めるようで、ティリアはリーリの応援を、ルティスは端に寄って休憩し始める。
ルティスの視線がジーッとこちらに向いているのに気づいたので、僕は彼女の太ももの上によじ登り、腰掛けた。
満足そうに笑みを浮かべ、僕を撫で始めるルティス。
「ルティスは水魔法が得意なんだね?」
「ん……たまにミモザ様に教えてもらってる」
ミモザってパン屋さん……っていうか、四賢者の1人か。たしか超一流の水魔法使いなんだっけ。
で、エーリカは風魔法、シレネお母さんは土魔法が得意分野のはず。
ちなみに、ゼフィラは全ての魔法のスペシャリストってことでいいんだよね?
「なんでケイはゼフィラ様のことを、そんなに気安く呼び捨てにできるの……?」
「あー……気にしないで? と言うか、ティリアのお母さん……シレネさんって、優しいし、あんまり強そうに見えないんだけど、何かあった時に村を守るために戦うとかできるのかな?」
僕を撫でるルティスの手がピタッと止まる。
「……ケイはシレネ様の怖さを知らない」
そしてルティスは語り始めた。
何年か前、村人の中にティリアを中傷するような噂を流した人がいた。
ティリアを最後に、子供が1人も増えていないことについて、もしかしたらティリアに何か問題があるのではないかと。
言った本人は、どちらかというと原因究明のための考察として述べたようで、特に悪意はなかったらしいが、それを耳にしてしまったティリアは酷く落ち込んでしまったと言う。
「次の日から……その人は1日に何回もつまずくようになった。道を歩いていると、しょっちゅう小さな窪みや出っ張りに足を引っ掛けて転びそうになるの。でも、本当に転ぶほどではない。つまずくだけ」
ああ……うん、それはまた、絶妙な嫌がらせだな……
あれ? これ何の話だっけ?
「でも、その人は気付いてしまった。毎回、つまずいた先、もし本当に転んでいたとしたら、ちょうど頭がぶつかるだろう位置に……いつも尖った大きな石があることに……」
いや、怖い、怖い、怖い!
違うから!そういう怖さは求めてないから!
話の内容が、だいぶ思ってたのと違うんだけど……
「その人はすぐにティリアとシレネ様に謝った。そんな繊細な土魔法の操作ができるのは、シレネ様以外にいないから。シレネ様は『あらあら、なぜ私に謝るのかしら?』なんて言ってたけど、なぜか翌日からピタリと、道でつまずくことは無くなったという……あれ? これ何の話だっけ?」
「それ、僕のセリフだよ!」
思わず突っ込む。
なんでこんな怪談じみた話を聞かされてるんだ僕は。
ルティスはそんな僕の文句をスルーして、再び僕を撫で始めた。
「とにかく、シレネ様は土魔法操作の達人で、ティリアのことが大好きだから、何かあっても、きっと守ってくれる。そう言いたかった」
最初からそう言ってくれ……
これから、シレネさんを見る目が変わってしまいそうだよ……
「あと、もちろんミモザ様も凄い。いっぱい水が作り出せる。あと生成する水が美味しい。だから作るパンも美味しい」
え? ミモザさんがパン屋なの、そういう理由?
まあ、凄いっちゃあ凄い……のか?
「エーリカ様の飛ばす凧は、めっちゃ飛ぶ」
急に雑になったな!
説明が面倒になってきてるだろ。
とにかく、それにアルメリアを加えた4人が、この村の最高実力者ということだな。
うん……大丈夫。別にちょっとだけ不安になってきたなんてことはないよ? 本当だよ?




