学校
家を出て、お母さんの仕事場であるAI新聞社へ向かった。
資料をお母さんのロッカーに入れる。「斉藤美玲」と書かれたロッカーだ。
よし、と帰ろうとすると、
「お、海斗くん!」
と声をかけられた。
「あ、お久しぶりです」
お母さんの上司である紗枝さんだ。
「久しぶりー! 見ない間にまたかっこよくなったわねー! また美玲ちゃん忘れ物? おっちょこちょいねー!」
と笑う。
「そうですねー」
苦笑いのような笑みを浮かべて返事をする。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「行ってきます」
紗枝さんに見送られ、高校へ向かった。
(時間、ちょっとやばいな)
そう思いながら、小走りになる。
正門には、生徒指導兼体育担当のAI教師REXが立っていた。
「おはよう!」と、無駄に元気のいい声。
毎朝、いつ聞いても元気よく挨拶をしてくれる。誰に対しても平等に明るくて優しい先生だ。
「斉藤、今日は珍しく少し遅いな!」
REXが完璧な笑顔で告げてくる。
「はい、少し用事があって」
「おー、お疲れ様! まだ遅刻じゃないから大丈夫だ。がんばれよ!」
少し強めに肩を叩かれる。
「っ、はい」
少し肩をさすりながら、校門をくぐった。
「おはよー斉藤。ギリギリセーフだな」
同じクラスの丸井圭が話しかけてきた。
「お、おはよう。いつも遅刻してるお前にしては今日早くないか?」
「遅刻しすぎてさ、俺のNOVAに高校から注意勧告がいったみたいで。今日はいつもと違う目覚ましで無理やり起こされて、家出るまでずっと後ろでカウントダウンされてたんだよ」
「NOVAは丸井にめっちゃ甘いタイプなのに、そこまでなるのは相当だな」
「だよな。言われなかったけど、多分NOVAの成績にも影響するんだと思う。だから今日から真面目に遅刻しないようにするわ」
「だな。……まあ、それにしては遅い気もするけどな」
そんなことを話しながら、2人は2年3組の教室へ入った。
すでに担任も副担任も来ている。
各クラス、担任は人間で、副担任はAIだ。
「海斗くんが遅刻ギリギリなんて珍しいし、圭くんが遅刻してないのも珍しいね!」
後ろの席のNINAが声をかけてくる。
「俺は用事があったんだ。丸井はNOVAに急かされたらしい」
「えー、あの甘々で優しいNOVAちゃんが? 丸井くん遅刻しすぎてたからねー。先月末のAI集会でも、NOVAちゃん優秀なAIなのに成績のランキングに入ってなかったもん」
「俺のせいだって言いたいのかー?」
丸井が怪訝そうな顔でNINAを見る。
「別にー」
ピコン!
「充電完了です」
NINAは自分の充電器を抜いた。
各クラスに1人、AI生徒が導入されている。
最初は名前も決まっておらず、クラスで名前を決めるのがルールだ。NINAも最初は「NO.27-A」という名称だった。
何かあれば、大体このAI生徒が管理してくれる。
生徒を任されるAIはまだ作りたてで、発展途上のため、家庭用AIや教師AIよりは未熟とされている。
「にしても、他のクラスのAIはもう少し賢そうなのに、NINAってあんまAI感ないよなー」
丸井が言う。
「AIって言われなかったら見た目じゃ分かんないのは全員そうだけどさ、普通は喋ったら分かるじゃん。でもNINAは、言われてても人間にしか見えない」
「丸井、失礼だろ」
丸井はいいやつではあるが、たびたびデリカシーのない発言をする。NINAの反応を伺いながら、丸井の口を塞いだ。
「いや、全然失礼じゃないよー。私人間好きだもん。人間にしか見えないは褒め言葉でしょ」
「そういうとこもAI感ないよな」
「確かに。俺のLUMIとかだと、そんなことは言わないな」
「家庭用AIはトップ仕様だから、私とは全然違うんだよ。生徒AIはみんなと仲良くできるように、少し砕けた感じの仕様になってるとは思う」
NINAはにこにこと笑う。
「仕様ねー」
丸井が、少しだけ寂しそうに言う。
「そう。私が未熟なAIだからっていうのもあるけど、冷たく“ザ・AI”みたいにすることもできるよ。LUMIちゃんだって、性能的には私みたいな話し方もできるはず」
「ちっちゃい頃はLUMIもこんな感じだったのに、いつのまにか冷たくなったんだよな」
「それも仕様だと思う。小さい子には優しく接する、っていう」
「なんか“仕様”って言葉、寂しいな。その笑顔も仕様なのか?」
丸井が言う。
「そうかもねー。人間みたいに感情で動くことはないけど、私はまだ未熟なAIだから、家庭用AIよりは少し感情に近い挙動があるとは思うよ。“みんなと仲良くしたい”とかはあるし。みんなのことも知りたい。だから生徒AIなんだと思う。私はもっと成長して、家庭用になるのが目標だけどね」
「でもさ、その仲良くなりたいとかも結局仕様なんじゃないの?」
丸井が問いかける。
キンコンカンコーン!
「はーい、みんな席座れー!」
担任の松坂先生が入ってくる。
その隣には、副担任のAI、MELA。
「今日もMELA先生かっこいいー!」
女子生徒が声を上げる。
「ありがとー」
MELAが爽やかに笑う。
「キャー!」
女子たちの声が教室に広がった。




