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魔王へ

 戦場中央。


 アレインが前へ出たことで、空気そのものが変わっていた。


 死の魔力。


 大地に満ちる瘴気。


 倒れた死体が再び動き出し、戦場へ戻っていく。


 砕けた骨が繋がり。


 千切れた腕が地を這い。


 新たなアンデッドとして立ち上がる。


 死そのものが軍勢へ変わる光景。


 魔王軍の兵たちに、初めて明確な恐怖が走っていた。


「倒しても増えるだと……!」


「化け物め……!」


 動揺。


 だが。


 その時だった。


 魔王が、静かに片手を掲げる。


 瞬間。


 空気が変わった。


 圧倒的魔力。


 黒い波動が戦場全体へ広がる。


 大地が軋む。


 空間そのものが沈むような重圧。


 次の瞬間。


 動いていた死体たちが、一斉に止まった。


 ぴたりと。


 まるで糸を切られた操り人形のように。


 戦場に沈黙が落ちる。


「……止まった?」


 魔族兵が呟く。


 再生しようとしていた骨も、動きを止める。


 死霊魔法の循環が断たれていた。


 魔王の魔力。


 それは単純な強さではない。


 “支配”。


 魔の属性を持つ存在へ干渉する絶対的圧力。


 低位アンデッドでは抗えない。


 魔族兵ですら、本能的に膝を折りたくなるほどの威圧。


 アレインの軍勢は明確に鈍った。


 動きが重い。


 死霊魔法の循環が乱れる。


 そして。


 ガルドもまた、その異変を感じていた。


「……厄介だな」


 低く呟く。


 身体が重い。


 魔力の巡りが鈍る。


 上位アンデッドである自分ですら影響を受けている。


 まして低位アンデッドならなおさら。


 だが。


 完全ではない。


 アレインも。


 ガルドも。


 地力そのものが強すぎる。


 魔王の支配を、力尽くで押し返している。


 とはいえ。


 確実に不利だった。


 その時。


 魔王が歩き始める。


 ゆっくりと。


 一直線に。


 アレインへ向かって。


 魔王軍が道を開ける。


 誰も邪魔をしない。


 その姿はまるで、王そのもの。


 対するアレインも動かない。


 ただ魔王を見ている。


 二人の怪物。


 互いへ近づこうとしていた。


 そして。


 ガルドの目が細まる。


「……行かせん」


 次の瞬間。


 地を蹴った。


 爆発的加速。


 雪と死体を吹き飛ばしながら一直線に魔王へ突撃する。


 その背後。


 数体の上位アンデッドが続く。


 無言。


 ただ主に従う。


「剣聖だ!!」


「止めろ!!」


 魔族兵たちが叫ぶ。


 だが。


 ガルドは止まらない。


 一閃。


 前に出た重装兵が真横に裂ける。


 さらに踏み込み。


 剣圧で後方兵を吹き飛ばす。


 一直線。


 狙いはただ一つ。


 魔王。


「無視するな!!」


 第1将バルグが怒号を上げる。


 戦斧を振り上げる。


 だが。


 ガルドは見向きもしない。


 完全に無視。


 将すら相手にしない。


 ただ魔王へ向かう。


 その姿に、魔族たちが戦慄する。


「まっすぐ来るぞ……!」


「止めろ!!」


 槍。


 魔法。


 矢。


 無数の攻撃がガルドへ集中する。


 だが。


 止まらない。


 剣を振るう。


 槍が砕ける。


 魔法を斬り裂く。


 側近の上位アンデッドたちが盾となり、次々と崩れながらも道を開く。


 ガルドは進む。


 ひたすら。


 魔王へ。


 その時。


 魔王が、初めて視線を向けた。


「……ほう」


 わずかに笑う。


「忠犬か」


 ガルドは答えない。


 次の瞬間。


 剣が振り下ろされた。


 大気を裂く一撃。


 魔王の首を狙った、全力の斬撃。


 そして――。

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