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アレイン前へ

 戦場中央。


 アンデッド軍は、なお前進を続けていた。


 しかし。


 押し返されている。


 少しずつ。


 確実に。


 魔王軍の重装前衛が楔となり、死者の軍勢を切り裂いていく。


 左右では騎兵が暴れ回り。


 後方からは高位魔法が絶え間なく降り注ぐ。


 焼ける骨。


 砕ける頭蓋。


 十万という数ですら、削り切られていく。


 グランデール前方、数百メートル。


 すでに死体の山は丘のようになっていた。


 魔族。


 アンデッド。


 両者の残骸が積み重なり、赤黒い煙を上げている。


 その中心で。


 ガルドはなお戦っていた。


 剣が振るわれる。


 一閃。


 重装兵の上半身が飛ぶ。


 返す刃。


 後方の魔導兵までまとめて斬り裂く。


 だが。


 ガルドの損耗も大きい。


 肩は抉れ。


 脇腹は焼け焦げ。


 鎧も半壊している。


 それでも止まらない。


 止まれば、前線が崩れる。


 だから進む。


 魔王軍もまた理解していた。


「あの剣聖を止めろ!!」


「集中しろ!!」


 矢。


 魔法。


 槍。


 攻撃がガルドへ集中する。


 闇槍が胸を貫く。


 爆炎が直撃する。


 それでも。


 ガルドは倒れない。


 無言で剣を振るう。


 ただそれだけ。


 だが。


 戦場全体は、徐々に魔王軍へ傾いていた。


 第1将バルグが前へ出る。


 巨大な戦斧を肩へ担ぎながら。


「押し潰せ」


 低い声。


 重装兵たちがさらに前進。


 盾を並べ。


 死者を踏み砕きながら進む。


 アンデッド軍中央が押し込まれる。


 左右との連携が乱れ始める。


 その瞬間。


「今だ」


 リュゼリアが杖を掲げた。


 上空。


 巨大魔法陣。


 何重にも重なる高位術式。


 魔力が集束していく。


 空が赤黒く染まる。


 戦場全体がざわめく。


「焼き払え」


 次の瞬間。


 巨大な炎柱がアンデッド軍中央へ降り注いだ。


 轟音。


 大地が揺れる。


 爆発と共に数千規模のアンデッドが消し飛ぶ。


 骨すら残らない。


 熱風が戦場を薙ぎ払う。


 アンデッド軍中央。


 ついに大きく崩れた。


「前進!!」


 バルグが咆哮する。


 魔王軍が一気に雪崩れ込む。


 その時だった。


 城壁上。


 アレインが、初めて動いた。


 一歩。


 前へ出る。


 瞬間。


 空気が変わる。


 戦場全体が静まり返ったような錯覚。


 濃密すぎる死の魔力。


 空そのものが重く沈む。


 魔族兵たちの足が止まる。


「……っ」


 誰かが息を呑む。


 アレインは無言。


 ただ、城壁から降りる。


 ゆっくりと。


 静かに。


 その姿を見た瞬間。


 魔王軍の前線に緊張が走った。


「来るぞ……!」


「死霊王だ……!」


 ざわめき。


 だが。


 魔王だけは笑っていた。


 黒き椅子に座ったまま。


「ようやくか」


 愉しげに。


 アレインは戦場へ降り立つ。


 その周囲。


 死の魔力が渦巻く。


 砕けたアンデッドたちの骨が震え始める。


 次の瞬間。


 地面一帯から無数の腕が伸びた。


 骨。


 死体。


 戦死した魔族兵すら。


 次々と立ち上がる。


 新たなアンデッド。


 死体の再利用。


 戦場そのものを軍勢へ変える力。


 魔族兵たちの顔色が変わる。


「馬鹿な……!」


「倒したはずだろ!!」


 恐怖。


 それが広がり始める。


 アレインはなお無言。


 そして。


 剣を抜く。


 黒い刀身。


 死の魔力を纏う刃。


 ゆっくりと前へ向ける。


 その先。


 魔王。


 魔王もまた、立ち上がった。


 重圧。


 空気が震える。


 二つの絶対的存在。


 その視線が交差する。


 戦場にいた誰もが、本能で理解した。


 これから始まるのは。


 軍同士の戦ではない。


 怪物同士の戦いだと。

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