魔王対剣聖
剣が落ちる。
空間そのものを断ち割るような斬撃。
ガルド渾身の一撃。
雪原が裂け。
衝撃波だけで周囲の魔族兵が吹き飛ぶ。
だが。
魔王は動かなかった。
片手。
ただそれだけで。
黒い魔力障壁が展開される。
直後。
轟音。
ガルドの剣が障壁へ叩き込まれた。
大地が陥没する。
周囲数十メートルが吹き飛ぶ。
死体の山が崩れ。
魔族兵もアンデッドもまとめて宙へ舞った。
しかし。
斬れない。
魔王は、その場から一歩も動いていなかった。
「……重いな」
ガルドが低く呟く。
魔王の魔力。
それ自体が壁になっている。
剣が深く入らない。
魔王は、わずかに笑った。
「悪くない」
次の瞬間。
拳。
何気ない一撃。
だが。
空気が爆ぜた。
ガルドは即座に剣を戻して受ける。
衝突。
凄まじい衝撃。
ガルドの身体が吹き飛ぶ。
数十メートル。
地面を削りながら後退。
それでも。
片膝で止まる。
剣を支えに立ち上がった。
その姿に、魔族側からざわめきが起きる。
「防いだ……!?」
「魔王様の一撃を……!」
驚愕。
魔王の攻撃を真正面から受けて立っている。
それだけで異常だった。
ガルドは剣を構え直す。
だが。
身体は重い。
魔王の魔力による圧迫。
アンデッドである自分には相性が悪すぎる。
闘気も使えない。
生前なら。
そんな考えが一瞬だけ脳裏をよぎる。
だが。
意味はない。
今は今。
勝つために振るうだけだ。
ガルドは再び踏み込む。
速い。
一瞬で間合いを詰める。
連撃。
一閃。
二閃。
三閃。
剣光が暴風のように魔王へ襲い掛かる。
常人なら見えすらしない速度。
だが。
魔王は避ける。
最小限。
紙一重で。
あるいは素手で弾く。
甲高い衝突音。
火花。
衝撃波。
周囲の兵が近づけない。
「素晴らしい技量だ」
魔王が笑う。
「死んでなおここまでとはな」
ガルドは答えない。
さらに踏み込む。
横薙ぎ。
魔王が屈む。
返しの蹴り。
ガルドの腹部へ直撃。
鎧が砕ける。
巨体が浮く。
だが空中で体勢を立て直し、回転しながら斬撃。
魔王の肩口を浅く裂く。
黒い血が飛んだ。
一瞬。
戦場が静まり返る。
「傷を……」
「魔王様に……!?」
魔族たちが息を呑む。
魔王は肩を見下ろす。
そして。
笑みを深くした。
「良い」
次の瞬間。
魔力が膨れ上がる。
空間が軋む。
ガルドの瞳が細まる。
「っ……!」
本気。
今までとは桁が違う。
魔王の周囲の地面が崩壊し始める。
黒い雷が走り。
空が歪む。
「褒美だ」
魔王が言う。
「直々に相手をしてやる」
瞬間。
消えた。
ガルドの視界から。
次の瞬間には目の前。
拳。
反応は間に合った。
剣で受ける。
だが。
重い。
あまりにも。
衝撃。
ガルドの身体が砲弾のように吹き飛ぶ。
地面を何度も跳ね。
死体の山を貫通し。
ようやく止まる。
鎧が砕け。
身体の半分が潰れていた。
それでも。
ガルドは立ち上がる。
剣を杖代わりに。
ゆっくりと。
その姿を見て。
魔王は笑った。
「やはり気に入った」
愉快そうに。
「アレインを殺した後、お前は我が軍へ来い」
ガルドは血の代わりに黒い瘴気を吐き出しながら。
初めて口元を歪めた。
「……倒せたらな」
ほんの僅か。
笑った。




