激突
角笛が響いた瞬間。
雪原が、揺れた。
十万近いアンデッド軍が、一斉に前進を開始する。
地鳴り。
黒い波。
槍を構えた死者たちが、無言のまま進む。
先頭は槍兵。
その後方に剣兵。
左右には弓兵。
さらに後方には魔導死霊。
統制されている。
足並みは揃い。
乱れはない。
だが。
その軍勢から聞こえるのは、足音だけだった。
叫びも。
鬨の声もない。
ただ、死が進む。
対する魔王軍。
第1将バルグ=ゼディアが巨大な戦斧を持ち上げる。
「重装前衛、迎撃」
号令。
直後。
重装魔族兵が突撃した。
巨大な盾を前面に構え、雪を砕きながら進む。
その質量だけで圧迫感が違う。
そして――
激突。
轟音。
アンデッド兵の槍列へ、重装兵が突っ込む。
何本もの槍が突き刺さる。
だが。
止まらない。
魔族兵が槍を掴み、そのまま引き千切る。
直後。
戦斧が振り下ろされた。
骨が砕ける。
頭蓋が潰れる。
三体。
四体。
まとめて吹き飛ばされる。
それでも。
アンデッドは止まらない。
後続が前へ出る。
倒れた死体を踏み越え、再び槍を突き出す。
無言。
感情はない。
ただ命令通り、前進する。
「面倒な数だ」
バルグが鼻を鳴らす。
左右でも戦闘が始まる。
第5将グラド=メイガ率いる狼騎兵。
高速機動。
雪煙を上げながら側面へ回り込む。
アンデッド弓兵隊が射撃。
矢が空を埋める。
だが。
魔族騎兵は止まらない。
魔力障壁が矢を弾く。
次の瞬間。
騎兵が陣へ突入。
長剣が振るわれるたび、首が飛ぶ。
蹄が骨を砕き。
弓兵隊は次々と踏み潰された。
左翼。
第2将リュゼリア=ファーンが静かに杖を掲げる。
「撃て」
短い命令。
直後。
無数の火球が空を覆った。
赤黒い炎。
流星群のようにアンデッド軍へ降り注ぐ。
爆発。
炎。
衝撃。
アンデッド兵が数十、数百単位で吹き飛ぶ。
焼け焦げた骨が舞い上がる。
大地がえぐれる。
それでも。
死者たちは止まらない。
崩れた体を引きずりながら。
腕が千切れても。
なお前進する。
城壁上。
アレインは無言で戦場を見下ろしていた。
周囲には沈黙しかない。
側近の死霊たちも、何も喋らない。
ただ。
アレインの命令を待つのみ。
その視線の先。
前線。
ガルドが剣を抜く。
「前へ出る」
それだけ言い残し。
地を蹴った。
次の瞬間。
剣圧。
一閃で数十の魔族兵が吹き飛ぶ。
衝撃波が雪を裂き。
重装兵ごと後方へ叩き飛ばす。
「剣聖だ!!」
「囲め!!」
魔族兵たちが叫ぶ。
ガルドは止まらない。
剣を振るう。
また一閃。
胴が裂け。
首が飛ぶ。
重装鎧ごと真っ二つにされる。
その周囲だけ、戦場が違った。
だが。
魔王軍も精鋭。
すぐに対応する。
重装兵が壁を作り。
後方から魔法が飛ぶ。
闇槍。
爆裂弾。
雷撃。
ガルドへ集中する。
ガルドは剣で弾き、身を捻り避ける。
だが。
完全ではない。
闇槍が肩を貫き。
爆炎が至近で炸裂。
黒煙が上がる。
「仕留めたか!?」
魔族兵の声。
だが。
次の瞬間。
煙が裂けた。
剣光。
一人。
二人。
三人。
まとめて魔族兵の胴が裂け飛ぶ。
ガルドが現れる。
肩は砕けている。
だが。
止まらない。
無言で、また剣を振るう。
「化け物め……!」
魔族兵が呻く。
しかし。
全体で見れば、押しているのは魔王軍だった。
アンデッドは削られる。
少しずつ。
確実に。
兵の質。
個々の戦闘力。
練度。
すべてが魔王軍正規兵の方が上。
十万という数をもってしても、容易には崩せない。
むしろ。
前線は徐々に押し込まれていた。
雪原が、黒く染まる。
骨。
肉片。
砕けた武具。
死が積み重なる。
その中で。
ガルドだけが、なお前へ出続けていた。
そして。
城壁上。
アレインの瞳が細まる。
魔王。
その男だけは、まだ動かない。
ただ。
こちらを見ていた




