魔王軍編成
北方、魔王軍本陣。
凍てつく大地に、異様な静けさが広がっていた。
その中心。
黒き天幕の中で、軍議が開かれている。
卓上には、大陸全土の地図。
グランデールを中心に、各勢力の位置が記されていた。
魔王は、その前に立つ。
「……出す兵は、半数」
静かに告げる。
ざわめきは起きない。
誰もが、それを当然と理解している。
「残りは、各地の統治に残す」
魔族にとって、支配とは維持するもの。
奪うだけでは意味がない。
南方は失った。
だが、他の領域は健在。
そこを空にする愚は犯さない。
「総数――二万五千」
数字が示される。
精鋭。
選び抜かれた兵のみ。
質を重視した編成。
魔王の視線が、並ぶ幹部たちへ向く。
「第1将、バルグ=ゼディア」
一歩前に出る。
巨躯の魔族。
全身が鎧のような外殻に覆われている。
「重装前衛を率いよ」
「は」
低く、短く応じる。
その背後には、重騎兵に相当する魔族部隊。
突撃と突破を担う。
「第2将、リュゼリア=ファーン」
今度は細身の魔族。
長い指先に、淡く魔力が揺らめいている。
「後衛魔導部隊を統括せよ」
「承知いたしました」
柔らかな声。
だが、その周囲の魔力密度は異常。
広域殲滅を担う存在。
「第5将、グラド=メイガ」
無骨な戦士が進み出る。
「側面制圧を任せる」
「了解だ」
短く答える。
機動力の高い部隊を率いる。
包囲と攪乱。
戦場をかき乱す役割。
「第6将、エルディナ=クレイス」
静かな女性型の魔族。
「後方支援および補給線の維持」
「お任せを」
回復、強化、そして兵站。
長期戦を見据えた配置。
魔王は、一瞬だけ視線を落とす。
「第3将、第4将は欠けた」
誰も言葉を発しない。
「だが――問題はない」
断言。
そして。
「私が前に出る」
空気が変わる。
全員が頭を垂れる。
魔王自らが前線。
それは、絶対の戦力。
「直属部隊、一千」
最精鋭。
魔王の直下に置かれる。
どの将にも属さない。
純粋な“切り札”。
「進軍は三列」
指で地図をなぞる。
「中央を私と第1将」
正面突破。
「左翼に第2将」
遠距離制圧。
「右翼に第5将」
機動戦。
「第6将は後方にて全体を支えよ」
無駄のない配置。
明確な役割分担。
全員が理解する。
この軍は――強い。
数ではない。
完成度で圧倒する軍。
「目的は二つ」
魔王が言う。
「死霊王アレインの排除」
第一目標。
「および――」
一瞬、間を置く。
「王国軍の戦力削減」
教会も含めて。
すべてを削る。
そのための戦。
「……出るぞ」
短く。
それだけで十分だった。
「はっ!!」
声が重なる。
外ではすでに、軍勢が動き出している。
黒い波。
整然と。
無駄なく。
雪原を踏みしめる。
その先にあるのは――
グランデール。
三勢力が交わる地。
魔王軍は、迷いなく進む。
すべてを踏み潰すために。




