凱旋する影
南方奪還。
その報は、王都に衝撃を与えた。
だが――
信じ切る者は、いなかった。
「……本当なのか」
「にわかには信じられん」
重臣たちの間に広がるのは、歓喜ではなく疑念だった。
あまりにも都合が良すぎる。
あまりにも、出来過ぎている。
レオンは短く命じた。
「……再度、斥候を出せ」
確認するしかない。
それだけだった。
数日後。
戻ってきた斥候は、はっきりと報告した。
「南方主要拠点、すべてにおいて――王国の紋章旗、および教会の旗を確認」
ざわめき。
「住民の姿も確認しました」
「……魔族の姿は?」
「確認できず。また――人間の奴隷と思われる者たちが解放されている様子でした」
沈黙が落ちる。
事実だった。
南方は、確かに取り戻されている。
それも――完全に。
「……何が起きた」
誰かが呟く。
それは全員の疑問だった。
調査は、すぐに進められた。
そして――
答えは、意外なほど早く出た。
「……教会か」
報告書を見下ろしながら、レオンが低く言う。
内容は明確だった。
枢機卿以下、教会勢力。
彼らは――謹慎などしていなかった。
水面下で動いていた。
そして。
「あの“実験兵器”を……実戦投入」
重臣の一人が、言葉を絞り出す。
会議室の空気が、一気に冷える。
思い出される。
王都での暴走。
あの惨事。
それを。
再び。
しかも、戦場で。
「……戦果は」
レオンが問う。
報告が続く。
「第三大将、カイゼル=ロドゥス――討ち取り」
沈黙。
完全な沈黙。
あの存在を。
教会が。
討った。
「……馬鹿な」
否定したい。
だが、事実として積み上がっている。
「なお、南方からの斥候の一部は……」
一瞬、言葉が詰まる。
「教会により拘束されていた形跡があります」
つまり。
情報は、意図的に遮断されていた。
隠蔽。
独断。
すべて、教会の意志。
「……勝手に戦い」
「勝手に勝ち」
「勝手に隠した、か」
苦々しい声が漏れる。
だが同時に。
結果だけを見れば。
南方は取り戻された。
それも、完全に。
評価は――難しい。
レオンは黙っている。
思考を巡らせる。
責めるべきか。
利用するべきか。
その判断を迫られていた。
そして――
数日後。
その答えを突きつけるように。
城門が開かれる。
堂々と。
列をなして進む一団。
先頭に立つのは――
枢機卿。
その後ろに、大司教ら教会幹部。
そして、武装した信徒たち。
まるで。
戦勝の凱旋のように。
「……来たか」
城壁の上から、それを見下ろす兵が呟く。
誰も止められない。
止める理由も、もはや曖昧だった。
南方を奪還した。
その事実が、彼らに力を与えている。
王城。
謁見の間へと続く廊下。
レオンは静かに立っていた。
その顔に、感情はない。
ただ。
目だけが、鋭く細められている。
扉が、開かれる。
ゆっくりと。
枢機卿が足を踏み入れる。
堂々と。
まるで、この城の主であるかのように。
空気が、再び張り詰めた。
南方を救った者。
そして。
王都を混乱に陥れた者。
その両方が――
今、同じ場に立っていた。




