予想外の知らせ
北方公爵家の防衛成功。
その報は、確かに王都に一息をもたらした。
だが――
数日後。
再び、空気は沈みきっていた。
南からの情報。
それが、完全に途絶えたまま。
「……まだ、来ないのか」
低い声。
もはや何度目か分からない問い。
「は……依然として、南方からの報告はありません」
伝令の声も弱い。
会議室に、重苦しい沈黙が落ちる。
十日。
その予測は、とうに過ぎていた。
ならば今、どこにいるのか。
もう目と鼻の先か。
あるいは――
「……何かが起きている」
重臣の一人が言う。
誰も否定しない。
異常だ。
この静けさは。
「南方の残存勢力が、抵抗している可能性は?」
別の声。
「……あり得る」
「だが、それならば情報が届くはずだ」
すぐに否定が入る。
議論がぶつかる。
「では何だというのだ!」
「敵が進軍を止めたとでも!?」
苛立ちが露わになる。
焦燥が限界に近い。
誰も状況を把握できていない。
それが、何より恐ろしい。
レオンは黙って聞いている。
動かない。
動けない。
代王である自分が斥候に出ることなど、許されない。
理解している。
だが。
このままでは。
「……くそっ」
誰かが机を叩く。
議論は、次第に収拾を失っていく。
その時だった。
扉が、激しく開かれる。
「急報!!」
会議室の空気が、一瞬で凍りつく。
全員が振り向く。
伝令が、息を切らしながら立っている。
「……申せ」
レオンの声。
静かだが、鋭い。
伝令は、叫ぶように報告する。
「南方より!!」
誰も息をしない。
「南方領――奪還成功!!」
静寂。
一瞬、理解が止まる。
「……は?」
誰かの間の抜けた声。
「敵将、討ち取りました!!」
続く報告。
だが。
それでも。
意味が繋がらない。
「……どういう、ことだ」
低く、絞り出す声。
伝令は震えながらも続ける。
「過去に失陥した南方領――すべて、奪還とのこと!」
完全な沈黙。
誰も言葉を発せない。
あり得ない。
それは。
ほんの数日前まで。
壊滅したはずの地域だ。
魔王軍に制圧された。
そのはずの土地。
「……説明しろ」
レオンの声が落ちる。
鋭い。
命令。
「詳細を」
伝令が頷く。
息を整える。
そして――
「……枢機卿率いる教会勢力」
一拍。
「信徒による反攻により――奪還されたとのことです」
ざわめきが、爆発する。
「馬鹿な……!」
「教会だと……!?」
誰もが信じられないという顔。
あの教会が。
あの混乱を引き起こした勢力が。
南方を――取り戻した?
レオンの目が、細くなる。
思考が走る。
「……敵将は」
短く問う。
「はっ……カイゼル=ロドゥスと確認されております」
再び、空気が凍る。
あの名。
確かに聞いた。
南方を滅ぼした張本人。
それを――討ち取った?
教会が?
「……」
誰も、答えを持たない。
ただ。
現実だけが、そこにある。
南方は、戻った。
敵は、消えた。
だが。
その代償と。
その裏にあるものは――まだ、見えていない。
会議室には。
安堵でも、歓喜でもない。
ただ。
別種の緊張が、満ち始めていた。




