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遅れる一報

 日が、過ぎていく。


 一日。


 また一日。


 王都の空気は、重く沈んでいった。


 城壁の上では兵が無言で南を睨み続ける。


 門の内では補給と再編が絶えず行われる。


 だが。


 最も重かったのは――情報の途絶だった。


「……また、来ていないのか」


 会議室で、低い声が落ちる。


 伝令が頭を下げる。


「は……南方からの早馬、本日も未着にございます」


 ざわめきが広がる。


 日に日に、明らかだった。


 南からの報告は、減っている。


 最初は毎日のように届いていた。


 それが、二日に一度。


 三日に一度。


 そして――途切れ始めた。


「……捕まっているのか」


 誰かが言う。


「魔王軍に……」


 否定する者はいない。


 むしろ、それが最も現実的だった。


 レオンは黙って聞いている。


 表情は変わらない。


 だが、内心は別だ。


 進軍速度が読めない。


 それが、何よりも恐ろしい。


 十日。


 そう報告されていた。


 だが、その“十日”がどこまで正確なのか。


 今となっては分からない。


「……すでに近い可能性もある」


 重臣の一人が口にする。


 空気がさらに重くなる。


「いや、あるいは――」


「……すでに包囲されている可能性すら」


 最悪の想定が、自然と口に出る。


 否定できない。


 情報がないということは、そういうことだ。


 苛立ちが募る。


「なぜだ……なぜ情報が来ない」


「斥候は何をしている!」


 声が荒くなる。


 だが、答えはない。


 時間だけが過ぎていく。


 焦燥。


 不安。


 それが日ごとに積み重なっていく。


 そして――


 当初の予測。


 十日目。


 その日。


 扉が勢いよく開かれた。


「急報!!」


 息を切らした伝令が飛び込んでくる。


 全員の視線が集中する。


「……申せ」


 レオンが短く言う。


 伝令が叫ぶように報告する。


「北方より!!」


 一瞬、空気が止まる。


「ノルディア公爵家、魔王軍を退けました!!」


 静寂。


 次の瞬間――


 ざわめきが爆発する。


「……なに?」


「退けた……だと?」


 信じられない、という声。


 伝令は続ける。


「敵は全軍退却! 被害は甚大ながらも……防衛に成功したとのこと!」


 はっきりと。


 断言する。


 それが事実。


 レオンの目が、わずかに見開かれる。


「……そうか」


 小さく、息を吐く。


 北は持ちこたえた。


 それだけで――意味は大きい。


 誰かが椅子に背を預ける。


「……助かった」


 絞り出すような声。


 張り詰めていたものが、わずかに緩む。


「……王国の盾は、まだ生きているか」


 安堵が、広がる。


 完全ではない。


 だが、確かに。


 希望の一つ。


 その報告の中に――


 アレインの名は、なかった。


 意図的か。


 それとも。


 遠目には、アンデッドの加勢など判別できなかったのか。


 誰もそこには触れない。


 触れる余裕もない。


 今はただ。


 北が落ちなかった。


 その事実だけで十分だった。


 レオンは静かに言う。


「……よく持ちこたえた」


 誰に向けたものでもない。


 だが、確かな言葉。


 そして。


 ゆっくりと視線を戻す。


 南へ。


 まだ、終わっていない。


 むしろ。


 これからだ。


 だが。


 会議室の空気は、確かに変わっていた。


 張り詰めたままの中に――


 ほんの僅か。


 安堵が、混じっていた。

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