迫る両刃
王都。
空気は張り詰めていた。
石壁の上には弓兵が並び、魔導兵が各所に配置されている。
急ごしらえの防備。
だが、やれることはすべてやった。
南門。
北門。
どちらから来ても、防ぐ。
それが今の王都の意志だった。
王城、会議室。
代王にして勇者、レオンが中央に立つ。
表情は硬い。
疲労もある。
だが、その目は死んでいない。
南方を放棄した。
その決断の重み。
理解している。
逃げてきた者たちの顔も見た。
すべてを失った者たち。
それでも。
「……王都だけは、落とさせない」
静かに言う。
自分に言い聞かせるように。
そのために。
南方から逃げ延びてきた貴族たち。
家名を失った者たちを、取り立てた。
陞爵。
形だけでも。
王が見捨てていないと示すために。
だが。
領地はない。
実体はない。
それでも――意味はある。
「……報告を」
レオンが促す。
伝令が一歩前に出る。
「はっ」
一度、息を整える。
「北方より急報」
室内の視線が集まる。
「ノルディア公爵家、魔王軍と接敵」
ざわめき。
「戦況は……一進一退」
続ける。
「公爵自ら出陣し、敵を押し留めているとのこと」
空気がわずかに緩む。
「……持ちこたえているか」
誰かが呟く。
レオンは目を閉じる。
北は任せるしかない。
それが前提だった。
「……続けろ」
短く言う。
「はっ」
伝令が頷く。
そして。
わずかに声が重くなる。
「続いて、南方より」
再び、空気が張り詰める。
「敵軍の軍容、確認」
紙を広げる手が、わずかに震える。
「規模……推定三万以上」
どよめき。
明らかな大軍。
「指揮官はカイゼル=ロドゥスと見られます」
その名に、重臣たちの顔色が変わる。
「さらに」
言葉を続ける。
「進軍速度から判断し」
一拍。
「早ければ、十日以内に王門へ到達」
沈黙。
重い沈黙。
誰もすぐには言葉を出せない。
「……十日だと……」
絞り出すような声。
「早すぎる……」
別の声。
緊張が、空気を支配する。
北は持ちこたえている。
だが。
南は、迫っている。
確実に。
時間がない。
レオンは、ゆっくりと目を開ける。
視線を上げる。
重臣たちを見る。
「……来るな」
静かに。
だが、はっきりと。
現実を受け入れる。
そして。
「ならば――迎え撃つ」
それだけを告げた。
迷いはない。
南方を失った責任。
すべてを背負った上で。
この王都だけは。
絶対に。
落とさせない。
その覚悟が、そこにあった。




