表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/60

残されたもの

 圧倒的だった。


 それ以外に、言葉はない。


 魔王軍は崩れた。


 統制も、誇りも、何もかもを置き去りにして。


 ただ、生き延びるために。


 雪原を、必死に駆けていく。


 誰も振り返らない。


 振り返る余裕すら、ない。


 背後にいる“それ”を、理解してしまったからだ。


 アレインは、追わない。


 ただ、立っている。


 すでに興味を失ったかのように。


 戦場に残るのは、沈黙と死。


 そして。


「……」


 ガルドが、その背を見ていた。


 動かない。


 ただ、見つめる。


 かつて敵だった存在。


 そのはずの主。


 だが――


「……圧倒的だ」


 低く、呟く。


 剣聖としての感覚が、はっきりと告げている。


 勝てない。


 どう足掻いても。


 比較にすらならない。


 無論。


 戦おうなどと考えたことはない。


 だが、それでも分かる。


 あの領域。


 あれは――別だ。


 静かに、剣を下ろす。


 その時。


「……戻るぞ」


 アレインの声。


 短く。


 それだけ。


 命令ですらない。


 ただの指示。


「……は」


 ガルドは頭を下げる。


 それ以上、言葉はない。


 アンデッドたちが、整然と動き出す。


 戦場を離れる。


 来た時と同じように。


 静かに。


 そして。


 アレインは、一度も振り返らない。


 城門。


 その上にいる者たちに、一瞥すらくれず。


 ただ、自らの領地へと歩み去る。


 死の軍勢とともに。



 城門の上。


 ノルディアの兵たちは、動けなかった。


「……」


 誰も、言葉を発しない。


 ただ、見ている。


 去っていくアンデッド軍を。


 その背を。


「……助かった、のか」


 誰かが、ようやく呟く。


 現実が追いつかない。


 攻めてこないのか。


 あれほどの力を持ちながら。


 奪うでもなく。


 ただ、去っていく。


 理解が及ばない。


 ヴァルドもまた、黙って見ていた。


 最後まで。


 完全に視界から消えるまで。


 その姿を、見送り続ける。


 やがて。


 何もいなくなる。


 雪だけが残る。


 静寂。


「……はぁ」


 大きく、息を吐く。


 張り詰めていたものが、切れる。


「……生き延びた、か」


 それが実感になる。


 周囲でも、力が抜ける音がする。


 誰かが座り込む。


 誰かが泣く。


 それでも。


 終わった。


 ひとまずは。


「……だが」


 ヴァルドの目が、下を見る。


 城門。


 砕けている。


 城壁も、至るところが崩壊。


 そして。


 倒れた兵。


 動かない者たち。


「被害報告を」


 声を出す。


 すぐに、側近が駆け寄る。


「はっ……現在集計中ですが」


 顔が歪んでいる。


「……相当な数が」


 言葉を濁す。


 それで十分だった。


 ヴァルドは、目を閉じる。


「……そうか」


 分かっていた。


 見れば分かる。


 この被害。


「……二度だ」


 小さく呟く。


「ここ数年で、大戦が二度」


 グランデール。


 そして今回。


 どちらも、致命的。


「……回復には」


 目を開ける。


 現実を見る。


「数十年は必要だな」


 重い言葉。


 それが事実。


 かつて。


 王国の盾と呼ばれた公爵家。


 だが。


「……もはや」


 自嘲気味に笑う。


「盾とは言えぬな」


 静かに。


 受け入れる。


 現実を。


 側近が、言葉を続ける。


「……王都からの連絡は、まだ」


「……そうか」


 視線が遠くを見る。


 王都。


 今どうなっているか。


 気にはなる。


 だが。


「……援軍は出せん」


 はっきりと言う。


 即答だった。


 この状態で。


 これ以上、兵を動かせば。


 終わる。


「守るので、精一杯だ」


 それが現実。


 ヴァルドは、深く息を吐く。


 雪は、まだ降り続いている。


 戦いは終わった。


 だが。


 失ったものは、あまりにも大きかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
前作のファンとして、続編を執筆していただき感謝いたしております。私は、前作のレビューで保身に卑しい王の便利な駒として英雄アレイン伯爵の処刑やグランデ-ルの民たちの虐殺に加担した勇者を大いにこき下ろしま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ