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黒と灰

 雪が、静かに降り続ける。


 その中心で――二つの気配が、ぶつかる。


 ゼルク=ハイド。


 そして、ガルド。


 言葉は、ない。


 次の瞬間。


 同時に動いた。


 衝突。


 爆ぜる音。


 空気が歪む。


 ゼルクの一撃。


 重い。


 速い。


 魔力を纏った拳撃が、空間ごと叩き潰す。


 ガルドが受ける。


 剣で逸らす。


 だが――


「……っ」


 踏み止まる足が、沈む。


 雪が抉れる。


 一撃で、この圧。


 続けざまに、二撃、三撃。


 間を与えない。


 魔力が暴れる。


 純粋な破壊。


 対してガルド。


 捌く。


 受ける。


 流す。


 だが、押される。


 確実に。


「どうした」


 ゼルクが笑う。


「さっきの威勢は」


 軽い口調。


 だが、攻撃は重い。


 止まらない。


 ガルドが踏み込む。


 反撃。


 一閃。


 鋭い。


 正確。


 だが。


 ゼルクはそれを、真正面から弾く。


「悪くない」


 言いながら、逆に打ち込む。


 衝撃。


 ガルドの体が、わずかに浮く。


 着地。


 すぐに構え直す。


 だが。


 差は明確だった。


 アンデッド化。


 肉体の強度は上がっている。


 力も増している。


 だが。


 欠けたものがある。


 闘気。


 生命エネルギー。


 それが、ない。


 魔族相手において、それは致命的。


 魔力と闘気のぶつかり合い。


 その土俵に――完全には乗れていない。


「なるほどな」


 ゼルクが見抜く。


「中身が足りない」


 踏み込む。


 連撃。


 ガルドが受ける。


 だが、押し込まれる。


 剣が軋む。


 体勢が崩れる。


「それでよくここまでやったな」


 蹴り。


 直撃。


 ガルドの体が吹き飛ぶ。


 雪の上を滑る。


 止まる。


 すぐに起き上がる。


 だが。


 損傷は広がっている。


 片腕はほぼ機能していない。


 動きも、わずかに鈍る。


「……」


 それでも。


 剣を構える。


 前を見る。


 それだけ。


「いいね」


 ゼルクが笑う。


 楽しそうに。


「その目」


 歩く。


 ゆっくりと。


 余裕。


 完全に。


 そして。


 一瞬で間合いを詰める。


 拳が叩き込まれる。


 ガルドが受ける。


 だが、崩れる。


 さらに一撃。


 さらに。


 止まらない。


 叩く。


 潰す。


 いたぶるように。


 わざと急所を外す。


 壊しながら、殺さない。


 ガルドの体が膝をつく。


 それでも、倒れない。


 剣を支えに立つ。


「……十分だろ」


 ゼルクが言う。


 興味深そうに。


「その強さ」


 一歩、近づく。


「どうだ」


 提案するように。


「こっちに来い」


 ガルドは動かない。


 ただ見ている。


「下等な人間から」


 ゼルクが続ける。


「魔族になることができた奴もいる」


 事実として。


「お前なら、問題ない」


 笑う。


「むしろ歓迎だ」


 沈黙。


 数秒。


 雪が落ちる音だけが響く。


 そして。


 ガルドが口を開く。


「……断る」


 短く。


 それだけ。


 迷いはない。


 即答。


「……だろうな」


 ゼルクが肩をすくめる。


 少しだけ残念そうに。


 だが、納得している。


「そういう顔だ」


 手を上げる。


 魔力が集まる。


 今度こそ。


 終わらせる。


「じゃあ、終わりだ」


 振り下ろそうとした、その時。


 ――止まる。


 ぴたりと。


 動きが。


「……?」


 ゼルクの目が細くなる。


 感じる。


 別の気配。


 巨大な。


 濃密な。


 明らかに異質な魔力。


 遠く。


 だが、確実に近づいている。


「……なんだ、これ」


 戦場の空気が変わる。


 冷える。


 重くなる。


 アンデッドたちが、一斉に動きを止める。


 ガルドもまた、わずかに顔を上げる。


 その方向を。


 見ている。


 ゼルクが笑う。


 口元が歪む。


「……へぇ」


 興味が増す。


「まだ、出てくるのか」


 誰か。


 いや。


 “何か”が来る。


 その気配だけで、分かる。


 これは――


 別格だ。

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