強者
白が、ゆっくりと晴れていく。
爆発の余波。
舞い上がった雪と土が、遅れて地へと落ちる。
耳鳴りだけが残る戦場。
誰もが――動けなかった。
「……やった、のか」
魔族の一人が呟く。
視線は一点。
爆心地。
そこにあったはずの姿は――見えない。
あれほどの高位魔法。
直撃。
ただでは済まない。
そう思うのが、普通だった。
ゼルク=ハイドは、薄く笑う。
「さすがに、今ので終わりだろ」
興味半分。
確認するように。
その時。
――ずるり。
何かが、動いた。
雪の中。
黒く焦げた地面の中央。
崩れた“何か”が、ゆっくりと起き上がる。
「……っ」
誰かが息を呑む。
灰色。
焼け焦げ。
崩れかけた肉体。
それでも。
立つ。
剣を支えに。
ガルド。
その体は、確かに損傷している。
肩は抉れ。
片腕は焼け落ちかけている。
だが。
立っている。
「……しぶといな」
ゼルクが笑う。
楽しげに。
目を細める。
「いいね」
純粋な興味。
強者を見る目。
ガルドは、何も言わない。
ただ。
ゆっくりと剣を持ち直す。
その動きに、迷いはない。
崩れた肉体など関係ない。
戦う。
それだけ。
その背後で。
アンデッドが再び動き出す。
倒れた者が起き上がる。
砕けた者も、なお前へ。
無言で。
進む。
魔族たちの間に、ざわめきが走る。
「……まだ来るのか」
「化け物め……」
恐怖が混じる。
明確に。
流れが変わっている。
副官は倒れた。
指揮が乱れる。
そこへ、この圧。
「……面倒だな」
ゼルクが一歩、前へ出る。
空気が変わる。
圧が増す。
「ここまで来たなら」
肩を鳴らす。
「俺が出るしかないか」
その一言で。
魔族たちの表情が変わる。
安堵。
そして期待。
真の強者。
それが動く。
対して。
城壁上。
「……立った……」
兵が呟く。
信じられないものを見る目。
あの一撃を受けて。
なお、立つ。
それだけで。
士気が、わずかに戻る。
ヴァルドもまた、それを見ていた。
「……まだ、終わっていないか」
低く言う。
わずかな希望。
だが。
現実も見ている。
ガルドの損傷は大きい。
あれがどこまで持つか。
分からない。
それでも。
「……繋がったな」
時間。
それだけは、確かに。
繋いだ。
視線を前へ戻す。
剣を握る。
「全員、構え直せ」
声を張る。
「まだ終わりではない」
応じる声。
弱い。
だが、消えていない。
再び。
戦場が動き出す。
そして。
黒と灰。
二つの強者が、向かい合う。
決着は――
まだ、先にあった。




