消耗戦の果て
雪は止まない。
だが――戦いも、止まらなかった。
昼。
夜。
関係ない。
魔王軍は交代制で攻め続けていた。
前列が崩れれば、次が出る。
疲弊すれば、入れ替える。
休みなく。
絶え間なく。
押し続ける。
対するノルディアは――籠城。
撃つ。
守る。
耐える。
それだけを、三日間。
繰り返していた。
戦線は動かない。
だが。
確実に削れている。
⸻
魔王軍前線。
ヴァルグ=ディエスは、荒い息を吐いた。
「……まだ、落ちないか」
苛立ちが滲む。
三日。
三日間、攻め続けている。
それでも――崩れない。
「損耗は」
「……四割に到達」
報告。
ヴァルグの目が細くなる。
四割。
異常な数字。
本来なら撤退を考える段階。
だが。
「……チッ」
舌打ち。
視線が後方へ向く。
ゼルク=ハイド。
相変わらず、何も言わない。
ただ、見ている。
評価している。
その沈黙が――何より重い。
「……ここで止まれば」
喉が鳴る。
「俺は終わりだ」
粛清。
疑いようもない結末。
それだけではない。
胸の奥で、別の感情が膨らむ。
「……人間ごときが」
低く。
押し殺した怒り。
ここまで粘る。
ここまで削る。
下等種のはずの存在が。
魔族を、止めている。
「ふざけるな」
吐き捨てる。
拳を握る。
血が滲む。
「……いい」
顔を上げる。
目が変わる。
躊躇が消える。
「どうせ牽制でいいと言われている」
魔王の命。
北は本隊ではない。
主攻は南。
ならば。
「ここを落とすだけでも上出来だ」
理屈は揃った。
あとは。
やるだけ。
「全軍、攻勢を強める!」
怒号。
「魔力制限を解除しろ!」
ざわめき。
「消耗は考えるな!」
「ここで叩き潰す!!」
狂気に近い指示。
だが。
誰も逆らわない。
魔族の軍。
強者が正義。
「俺も出る」
ヴァルグが前へ出る。
魔力を練る。
残りなど考えない。
限界まで。
いや、限界を超えて。
「焼き尽くせ」
低く詠唱。
空気が歪む。
魔力が暴れる。
高位魔法。
連発。
常識外れ。
それを。
躊躇なく叩き込む。
「——落ちろ!!」
轟音。
爆発。
城壁が揺れる。
石が砕ける。
防衛線が軋む。
止まらない。
「撃て!! 続けろ!!」
魔法部隊も呼応する。
過剰な出力。
無理な詠唱。
だが止めない。
押す。
ひたすらに。
⸻
ノルディア城。
「……っ!」
衝撃が走る。
城壁が揺れる。
「また高位魔法だ!!」
「防げ!!」
叫びが飛び交う。
だが。
被害が広がる。
防壁の一部が崩れかける。
「このままでは……!」
兵の声が震える。
分かっている。
限界が近い。
削られている。
確実に。
「……持たせろ」
低い声。
ヴァルドが前に出る。
その顔には、疲労が刻まれている。
三日間。
休んでいない。
だが。
目は死んでいない。
「ここで崩れるな」
剣を握る。
雷が宿る。
弱い。
初日より明らかに。
だが、それでも。
「迎撃する」
踏み出す。
再び前線へ。
「——雷よ」
詠唱。
無理やり魔力を引き出す。
身体が軋む。
それでも止めない。
放つ。
雷撃。
城壁に取り付こうとする魔族を焼き払う。
「まだだ!!」
叫ぶ。
騎士団が応じる。
残った力で、押し返す。
だが。
減っている。
明確に。
「負傷者、後退!!」
「交代が足りません!!」
声が重なる。
余裕はない。
削られ続けている。
ヴァルドは歯を食いしばる。
「……まだ、持つ」
言い聞かせるように。
「持たせる」
だが。
視線が落ちる。
城門。
その巨大な扉。
何度も衝撃を受けている。
軋んでいる。
限界が、近い。
「……時間がないな」
小さく呟く。
それでも。
やることは変わらない。
「全力で迎撃する」
振り絞る。
残りのすべてを。
北方公爵家。
王国の盾。
その名の通り。
最後まで、立ち続ける。
たとえ――
砕けるとしても。




