表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/55

激突

 雪原の彼方。


 黒が、ゆっくりと姿を現す。


 長い行軍の末――ようやく辿り着いた。


 魔王軍北方軍。


 その先頭に立つ男が、足を止める。


「……あれか」


 ゼルク=ハイド。


 視線の先。


 白に覆われながらも、威容を誇る巨大な城塞。


 ノルディア公爵家の居城。


 高い城壁。


 整えられた防衛線。


 崩れた痕跡などない。


 だが。


「……よく残ってるな」


 小さく呟く。


 数年前の敗戦。


 グランデールへの遠征。


 北方公爵家はそこで敗れ――この地へと退いた。


 つまり。


 この城も、この防衛線も。


 無傷のまま残っている。


「だからこそ、か」


 口元が歪む。


「ここで止める気満々ってわけだ」


 一歩踏み出す。


 雪が軋む。


「いいね」


 笑う。


「踏み潰すぞ」


 短く。


 だが明確な意思。


 それでも。


 ゼルク自身は動かない。


 軽く肩を回し、後ろへ声をかける。


「おい」


「はっ」


 副官が前に出る。


 冷静な目をした魔族。


「先に削れ」


 気だるげに言う。


「了解しました」


「どの程度まで進めますか」


 ゼルクは少し考え――すぐに答える。


「崩れる寸前まででいい」


 笑う。


「楽しませろ」


 副官は一礼する。


「はっ」


 振り返る。


「全軍、進軍開始!」


 号令が響く。


 黒い軍勢が動き出す。


 その数――一万二千。


 前列は下級魔族八千。


 中列に中級魔族三千。


 後方に魔法部隊千。


 整然とした陣。


 無秩序ではない。


 明確な“戦争”の形。


「第一陣、前進!」


 前列が加速する。


 雪を蹴り、距離を詰める。


「魔法部隊、詠唱開始!」


 後方で魔力が膨れ上がる。


 空気が震える。


 戦いが、始まる。



 ノルディア公爵領。


 城壁上。


「……来たな」


 ヴァルドが低く呟く。


 視界を埋め尽くす敵。


 一万以上。


 圧倒的な数。


 だが。


 城は無傷。


 防衛線は万全。


 戦う準備は、整っている。


「籠城戦に徹する」


 静かに命じる。


「前に出るな」


「ここで削る」


 それがすべて。


「構えろ」


 兵たちが動く。


 弓を引く。


 魔法陣が展開される。


「放て」


 合図。


 次の瞬間。


 矢の雨が降る。


 空を覆うほどの数。


 魔族の先頭に突き刺さる。


 悲鳴。


 だが止まらない。


「撃て!」


 魔法が続く。


 炎が爆ぜる。


 氷が裂く。


 風刃が切り刻む。


 断続的に。


 休みなく。


 叩き込む。


 前進していた魔族が崩れる。


 だが。


「止まるな!」


 副官の指示が飛ぶ。


 後列が詰める。


 倒れた者を踏み越え、前へ。


 矢を受けながら。


 魔法を浴びながら。


 それでも進む。


「第二射、用意!」


「魔法、継続!」


 城壁上も止まらない。


 撃つ。


 撃つ。


 撃ち続ける。


 近づけさせない。


 時間を稼ぐ。


 徹底した防衛。


 戦線は揺れるが――崩れない。



 前線後方。


 ゼルクは腕を組み、それを見ていた。


「……へぇ」


 目を細める。


 想定以上に固い。


 防衛が機能している。


 統率も悪くない。


 副官が戻る。


「報告します」


「第一線、進軍継続中」


「損耗、およそ二割」


 ゼルクが軽く眉を上げる。


「二割か」


 笑う。


「やるじゃん」


 素直な評価。


 だが。


 次第に。


 その笑みが歪む。


「……でもさ」


 一歩前へ出る。


 視線は城壁に固定。


「まだ落ちないのは、ちょっとイラつく」


 本音。


 善戦している。


 だからこそ。


 気に食わない。


「もう少し強めるか」


 呟く。


 軽く首を鳴らす。


 戦いはまだ序盤。


 だが。


 確実に圧は増していく。


 北方の盾は――


 今まさに、試されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ