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崩れゆく均衡

 王都ルミナス。


 王城・会議室。


 重い空気が、部屋を満たしていた。


 結論は出ている。


 そして。


 誰もが、それに納得していない。


「……以上が、決定事項となります」


 重臣の声が、静かに響く。


「教会に対する処分は――」


 一瞬、言葉が詰まる。


「枢機卿および枢密院の登城停止。一ヶ月間」


 沈黙。


 誰も、口を開かない。


 開けない。


 それが、どれほど軽いか。


 全員が理解している。


 市民に被害が出た。


 街が崩れた。


 それでも。


 たった、それだけ。


「……ふざけている」


 小さく、誰かが呟く。


 だが、その声もすぐに消える。


 反論はない。


 できない。


 それだけ――教会は食い込んでいた。


 ここ数年で。


 王都の中枢に。


 貴族。


 民衆。


 すべてに。


 深く。


 レオンは沈黙していた。


 表情は変わらない。


 だが。


 その目は冷えている。


「……枢機卿は」


 短く問う。


 重臣が答える。


「現在、拘束中です」


「ですが……正式な処罰には至らず」


 言いにくそうに続ける。


「審議は継続扱いとなっております」


 つまり。


 何も決まっていない。


 いや。


 決められない。


 レオンは一度だけ、目を閉じる。


 そして。


 開く。


「……いい」


 短く言う。


 それ以上、踏み込まない。


 今は。


 そこに時間を割くべきではない。


「議題を変える」


 空気が変わる。


「南方だ」


 誰もが身を固くする。


「失陥した領土をどうするか」


 現実。


 逃げられない問題。


「奪還するのか」


「防衛線を引き直すのか」


 視線を巡らせる。


「意見を出せ」


 すぐに声が上がる。


「奪還など不可能です!」


 ある貴族が言う。


「戦力が足りない! 現状では王都の防衛すら――」


「では放棄するのか!?」


 別の声。


「南方の民はどうなる!」


「現実を見ろ!」


 言葉がぶつかる。


「相手はカイゼルだぞ!」


「今の戦力で勝てる相手ではない!」


「だからといって見捨てるのか!」


 混乱。


 収束しない。


 誰もが正しい。


 誰もが間違っている。


 その時。


「……静まれ」


 レオンの一言。


 全てが止まる。


 静寂。


「現実は分かっている」


 低く言う。


「今の戦力では、即時奪還は不可能」


 事実。


「だが」


 一拍。


「放棄もしない」


 視線が鋭くなる。


「機を見て、必ず取り返す」


 断言。


 その言葉に、わずかに空気が戻る。


 だが。


 その瞬間。


 扉が叩き開かれる。


「失礼します!!」


 伝令。


 息を切らし、駆け込んでくる。


 全員の視線が向く。


「報告いたします!」


「北方公爵家より急報!」


 空気が張り詰める。


「魔王軍本隊、北方にて大規模な動きあり!」


 ざわめきが爆発する。


「なに……!?」


「本隊だと!?」


 止まらない。


 だが。


「続けろ」


 レオンが言う。


 伝令が頷く。


「複数の将級反応を確認!」


「侵攻準備の可能性が高いとのことです!」


 最悪の報告。


 完全に。


 南だけではない。


 北も。


 その時。


 さらに別の伝令が飛び込んでくる。


「追加報告!!」


 重なる。


 悪い知らせは、続く。


「南方にて不穏な動きあり!」


「魔王軍、再編成および進軍の兆候を確認!」


 完全に。


 挟まれる形。


 北。


 南。


 同時。


 会議室が、騒乱に包まれる。


「二正面だと……!?」


「そんな馬鹿な……!」


「耐えられるはずがない!!」


 声が飛び交う。


 制御不能。


 その中で。


 レオンは、静かに立っていた。


 動かない。


 ただ。


 考えている。


 盤面を。


 すべてを。


 そして。


 ゆっくりと、口を開く。


「……来たか」


 小さく。


 だが確かに。


 それは。


 戦の次の段階。


 王国は今。


 完全に、追い詰められた。

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