表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/57

北の盾

 北方。


 王国最北端。


 厳しい寒気と荒野に囲まれた要衝。


 ノルディア公爵領。


 かつて――


 王国の盾と呼ばれた地。


 だが。


 その名は、今や過去のものになりつつあった。


 数年前。


 死霊王アレインとの戦。


 北方防衛戦。


 その敗北は、あまりにも大きかった。


 兵は削られ、最後は見逃された。


 誇りは、地に落ちた。


 それでも滅びなかった。


 残った者たちで立て直した。


 崩れた壁を積み直し散った兵を集めた。


 再び、“盾”として立つために。


 その中心にいる男。


 ヴァルド・フォン・ノルディア。


 北方公爵。壮年。 白髪が混じる髪。


 深く刻まれた皺。その目は――戦を知っていた。


 敗北も。


 後悔も。


 すべてを飲み込んだ上で、なお前を見ている。


 その男が、静かに地図を見下ろしていた。


 広げられたのは、王国全土の戦略図。


 北方。


 南方。


 王都。


 すべてが記されている。


 扉が叩かれる。


「入れ」


 短く。


 斥候が入ってくる。


 雪を被り、息を荒げている。


「報告いたします!」


 即座に膝をつく。


「魔王軍本隊、北方にて集結の兆候あり!」


 部屋の空気が変わる。


「規模は不明ですが……複数の将級反応を確認!」


 ヴァルドは目を細める。


「……動くか」


 低く呟く。


 予想はしていた。


 だが。


 現実として突きつけられると、重みが違う。


「続けろ」


「はっ!」


「南方――壊滅との報告が入っております!」


 一瞬。


 空気が止まる。


「……やはりか」


 ヴァルドは目を閉じる。


 遅かれ早かれ、そうなるとは思っていた。


 だが。


 現実として聞くと、違う。


「カイゼル=ロドゥスの侵攻により、残存領域もすべて失陥!」


 完全な崩壊。


「さらに――」


 斥候が一瞬、言い淀む。


「王都にて、大規模な混乱が発生」


 ヴァルドの目が開く。


「教会の術式暴走との情報」


「現在、勇者レオン、代王陛下と教会勢力が対立状態にある模様です」


 沈黙。


 長い。


 すべてが、繋がる。


 南方壊滅。


 王都混乱。


 そして。


 魔王軍本隊の動き。


「……そう来るか」


 小さく呟く。


 盤面が見える。


 あまりにも分かりやすい。


 だからこそ、逃げ場がない。


「下がれ」


「はっ!」


 斥候が退室する。


 静寂。


 ヴァルドは、ゆっくりと息を吐く。


 そして。


「……軍議を開く」


 決断。


 すぐに動く。



 ノルディア公爵家の居城。


 会議室。


 重臣と将が集まる。


 空気は重い。


 だが、誰も逃げない。


 それが北方の人間だった。


 ヴァルドが立つ。


 全員を見渡す。


「状況は最悪だ」


 前置きはない。


 事実から入る。


「南方は滅びた」


 ざわめき。


 だが、誰も否定しない。


「王都は内紛状態」


 さらに重ねる。


「教会と勇者が対立している」


 苦い顔が並ぶ。


「そして」


 一拍。


「魔王軍本隊が、北で動く」


 沈黙。


 完全な。


 誰もが理解した。


 来る。


 ここに。


「……我らが狙いか」


 一人の将が呟く。


 ヴァルドが頷く。


「可能性は高い」


 地図を指す。


「王都は混乱」


「南方は壊滅」


「残るは北方のみ」


 つまり。


「ここを抜かれれば、終わりだ」


 誰も反論しない。


 できない。


「ではどうする!」


 別の将が声を上げる。


 焦りではない。


 覚悟の確認。


「王都へ援軍を送るか!?」


「無理だ!」


 即座に別の声。


「兵を割けば、この地が崩れる!」


「だが王都が落ちれば――!」


 議論がぶつかる。


 だが。


「静まれ」


 ヴァルドの一声。


 全てが止まる。


 静寂。


「……分かっている」


 低く言う。


「どちらも捨てられん」


 事実。


 だが。


「両方は守れん」


 現実。


 誰もが黙る。


 その中で。


 ヴァルドはゆっくりと口を開く。


「我らは――北を守る」


 決断。


 重い。


「ここを抜かれれば、すべてが終わる」


 だから。


「王都は……勇者殿に任せる」


 沈黙。


 それは信頼か。


 それとも。


 諦めか。


 両方だった。


「我らは盾だ」


 ヴァルドが言う。


 はっきりと。


「最後まで、ここに立つ」


 その言葉に。


 誰も反論しない。


 できない。


 それが、この地の在り方だからだ。


「……覚悟を決めろ」


 静かに。


「来るぞ」


 北から。


 魔王軍が。


 そして。


 もしかすれば。


 それ以上の何かも。


 ノルディアは、再び試される。


 今度こそ。


 折れるか。


 それとも。


 持ち堪えるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ