表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/57

魔王軍議

 魔王城。


 黒き玉座の間。


 重厚な空気が、空間そのものを支配している。


 中央には巨大な円卓。


 そこに並ぶのは、魔王軍の中枢――将たち。


 だが。


 一席だけ、異様な光を放っていた。


 空間に浮かぶ魔法陣。


 その中に映し出される、遠方の映像。


 南方。


 戦場の空気を纏った男。


 魔王軍第三大将――カイゼル=ロドゥス。


 通信魔法。


 この場にいながら、そこに“いる”。


「……南方は、すべて制圧されたか」


 玉座より、魔王の声。


 低く、絶対。


 カイゼルの映像が、わずかに揺れる。


「はっ」


 即答。


「旧王国南方領、完全制圧を確認しております」


 その背後には、荒れ果てた大地。


 煙。


 崩れた城壁。


 戦の終わりを示す光景。


「……見事だ」


 魔王が言う。


 それだけで、場の空気が引き締まる。


 称賛。


 それは、この場において絶対的な価値を持つ。


「光栄にございます」


 カイゼルが頭を下げる。


 映像越しであっても、その礼は崩れない。


 そして。


「では」


 魔王の声。


「その戦果、どこへ向ける」


 軍議の開始。


 最初に口を開いたのは、右手側に座る女だった。


 白い肌。


 細い指。


 長い黒髪。


 魔王軍第二将――リリス=ヴァルカ。


 魔術を司る存在。


「決まっておりますわ」


 柔らかい声。


 だが、その奥に冷酷さが滲む。


「南からそのまま北上。王都を落とすべきです」


 扇子で口元を隠しながら言う。


「王都は今、内紛状態。勇者と教会が争っている」


 情報を当然のように共有する。


「統制の崩れた都市など、ただの餌ですわ」


 微笑む。


 残酷に。


 対して。


 円卓の反対側。


 腕を組んだ巨体が唸る。


 魔王軍第一将――グラウス=バルド。


 筋骨隆々。


 純粋な武の塊。


「単純すぎる」


 低い声。


「南方は飛地だ」


 机を指で叩く。


「補給は脆い。背後も不安定」


 戦場の現実。


「本軍を北から下ろせ」


 断言。


「挟み撃ちにすれば、確実に潰せる」


 力で押す思考。


 合理でもある。


 その間に、軽い笑いが入る。


「どっちもやればいいじゃないか」


 椅子にだらしなく座る男。


 魔王軍第四将――ゼルク=ハイド。


 軽薄。


 だが、その目は鋭い。


「南からカイゼル、北から本軍」


 指を二本立てる。


「二正面。相手は対応できない」


 笑う。


「楽しいだろ?」


 空気がざわつく。


 提案は大胆。


 だがリスクも大きい。


「戦力の分散は愚策だ」


 すぐにグラウスが否定する。


「勇者がいる以上、各個撃破される危険がある」


「慎重すぎるのも退屈だろう?」


 ゼルクが肩をすくめる。


「我らが負ける未来が見えない」


 それは傲慢。


 だが、根拠のある自信でもある。


 リリスが口を挟む。


「問題はそこではありませんわ」


 静かに。


「“誰に利益が落ちるか”です」


 場が静まる。


「王都が崩れ、我らが攻める」


「その後を掠め取る存在がいる」


 視線が、自然と一方向に向く。


 北。


 名を出すまでもない。


 魔王が、ゆっくりと口を開く。


「……死霊王か」


 その一言で、空気が変わる。


 軽さが消える。


 ゼルクでさえ、笑みを引っ込める。


 映像の中のカイゼルが、口を開く。


「……はい」


 低く。


「現時点で動きはありません」


 だが。


「だからこそ、読めない」


 視線は真っ直ぐ。


「王都が崩壊し、我らが二方向から侵攻した場合」


 一拍。


「最も利を得るのは、あれです」


 沈黙。


 誰も否定しない。


 グラウスが唸る。


「……漁夫の利、か」


 リリスが微笑む。


「ええ。あまりにも分かりやすいですわね」


 ゼルクが舌打ちする。


「つまらない横取りだな」


 魔王が、静かに問う。


「では、どうする」


 すべての視線が集まる。


 カイゼルに。


 映像越しの第三大将。


「……はっ」


 短く応じる。


「攻めるべきです」


 断言。


「好機であることは間違いありません」


 その上で。


「ただし、主攻は一つに絞るべきかと」


 全員が聞く。


「南方よりの進軍」


 自らを示す。


「これを主軸とし、本軍は北方より牽制」


 簡潔。


 だが、的確。


「戦力を集中させつつ、死霊王の介入を抑制できます」


 説明が終わる。


 沈黙。


 そして。


 グラウスが鼻を鳴らす。


「……悪くない」


 リリスが頷く。


「現実的ですわね」


 ゼルクが笑う。


「派手さはないが、確実か」


 魔王が、ゆっくりと頷く。


「……決まりだ」


 その一言で、すべてが確定する。


「南より攻める」


「北は牽制」


 命令。


「カイゼル」


「はっ」


「王都を落とせ」


 絶対。


 カイゼルが深く頭を下げる。


 映像越しであっても、その忠誠は揺るがない。


「……御意」


 その背後で、南方の風が吹く。


 戦は終わっていない。


 次が、始まる。


 王都。


 内紛の只中へ。


 魔王軍が、進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ