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神の名の下に


 踏み込みは、迷いがなかった。


 レオンの剣が、最短で振り抜かれる。


 狙いは一点。


 中心。


 あの歪な肉塊の“核”。


 だが。


 届く前に、遮られた。


 腕。


 何本もあるうちの一本が、横から叩きつけられる。


 衝突。


 衝撃。


 剣が弾かれる。


 レオンの身体が流される。


 地面に足を滑らせながらも、体勢を立て直す。


「……硬い」


 ただの肉ではない。


 圧縮され、強化されている。


 しかも。


 動く。


 予測がつかない。


 怪物が咆哮する。


 声にならない声。


 空気が震える。


 周囲のガラスが割れる。


 エリシアが顔を歪める。


「……これ……人が……」


 言葉が続かない。


 だが。


 止まることはできない。


「エリシア!」


 レオンが叫ぶ。


「核は分かるか!」


 即座に返る。


「……中心、少し右! 脈が集まってる!」


 十分だった。


 レオンが踏み込む。


 正面からではない。


 横へ。


 回り込む。


 怪物の腕が追う。


 だが遅い。


 速さは、レオンが上。


 一閃。


 肉が裂ける。


 だが。


 浅い。


 奥に届かない。


 すぐに、再生が始まる。


「……再生してる……!」


 エリシアの声。


 予想通り。


 止めなければ終わらない。


 怪物が反撃する。


 複数の腕が同時に振り下ろされる。


 回避。


 間一髪。


 地面が砕ける。


 瓦礫が飛ぶ。


 視界が遮られる。


 その中から。


 突き。


 レオンの剣が、煙を裂いて伸びる。


 深く。


 今度は届く。


 手応え。


 だが。


 瞬間。


 腕に絡みつかれる。


「――ッ!」


 締め付け。


 力が強い。


 骨が軋む。


 剣が抜けない。


 怪物の顔の一つが、近づく。


 口が開く。


 異臭。


 そのまま噛み砕こうとする。


「レオン!」


 エリシアが手を伸ばす。


 光が放たれる。


 直撃。


 怪物の動きが一瞬止まる。


 その隙。


 レオンが力を込める。


 ねじ切る。


 腕を。


 無理やり。


 肉が裂ける。


 血が飛ぶ。


 剣を引き抜く。


 後退。


 距離を取る。


 呼吸が荒くなる。


「……助かった」


 短く言う。


 エリシアは首を振る。


「まだ……完全に止められない」


 光が効いている。


 だが。


 弱い。


 足りない。


 原因は明白。


「……術式が強すぎる」


 あの大聖堂。


 まだ動いている。


 供給が続いている。


「切るしかない」


 レオンが言う。


 エリシアが頷く。


「はい」


 次の瞬間。


 怪物が、変わった。


 膨張。


 肉がさらに膨れ上がる。


 腕が増える。


 圧が上がる。


 空気が重くなる。


「……強化してる……?」


 違う。


 暴走が進んでいる。


 制御されていない。


 だが、その分。


 力は増す。


 怪物が突進する。


 速い。


 巨体とは思えない速度。


 レオンが迎え撃つ。


 衝突。


 弾かれる。


 後退。


 踏み止まる。


 だが。


 押される。


 純粋な質量。


 力。


「……くそ……!」


 歯を食いしばる。


 ここで退けば、後ろに被害が出る。


 抑え込むしかない。


「レオン、下がって!」


 エリシアの声。


 レオンが反射的に跳ぶ。


 直後。


 光が、爆ぜた。


 今までとは違う。


 強い。


 濃い。


 純度の高い光。


 怪物を包み込む。


 焼くのではない。


 削る。


 繋がりを。


 術式を。


「……切れる……!」


 エリシアが確信する。


「今なら――!」


 レオンが踏み込む。


 全力。


 迷いなし。


 一直線。


 怪物の中心へ。


 剣が振り下ろされる。


 光の中を突き抜ける。


 肉を裂き。


 骨を断ち。


 奥へ。


 そして。


 届く。


 核。


 脈打つ、歪な塊。


 そこへ。


 一閃。


 断ち切る。


 静寂。


 一瞬。


 時間が止まる。


 次の瞬間。


 崩壊が始まる。


 肉が解ける。


 繋がりが消える。


 崩れ落ちる。


 静かに。


 まるで。


 最初から何もなかったかのように。


 レオンは剣を下ろす。


 息を吐く。


 終わった。


 そう思った。


 だが。


「……違う」


 エリシアの声。


 レオンが振り向く。


 大聖堂。


 まだ、光っている。


 歪んだまま。


 止まっていない。


「……本体は、あっちです」


 当然だった。


 これは、ただの“外に漏れたもの”。


 本当の核は。


 内部。


 レオンは再び剣を構える。


 迷いはない。


「行くぞ」


 エリシアが頷く。


 二人は、大聖堂へ向かう。


 扉は破壊され、内部は暗い。


 だが。


 奥から、光が漏れている。


 歪んだ光。


 祈りの残骸。


 そして。


 狂気。


 踏み込む。


 その先で待つものが何であれ。


 もう、止まらない。

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