表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/55

激突

 最初に動いたのは、同時だった。


 地面が弾ける。


 踏み込みの衝撃だけで、土が抉れた。


 一瞬で間合いが消える。


 剣と剣が、ぶつかった。


 衝撃が、遅れて広がる。


 空気が震え、周囲の兵が思わず一歩退く。


 重い。


 ただの一撃で、それが分かる。


 レオンの腕に、確かな手応えがあった。


 だが。


 押し切れない。


 カイゼルの剣は、止まっていた。


 完全に。


 力ではない。


 技でもない。


 純粋な“積み重ね”の重さ。


「……いいな」


 カイゼルが低く言う。


 そのまま、押し返す。


 弾かれる。


 レオンの身体が、半歩下がる。


 そこへ。


 追撃。


 速い。


 無駄がない。


 振り下ろし。


 横薙ぎ。


 間を置かず、連続する。


 レオンが受ける。


 受ける。


 受ける。


 火花が散る。


 金属音が、連続して響く。


 周囲の兵が呆然と見ている。


 理解が追いつかない。


「……見えねえ」


 誰かが呟く。


 速すぎる。


 だが、それだけではない。


 重い。


 一撃一撃が、明らかに違う。


 人間同士の剣ではない。


 カイゼルが踏み込む。


 間合いを奪う。


 距離を殺す。


 逃がさない。


 レオンが後ろへ流れる。


 だが。


 崩れない。


 構えが乱れない。


 視線がぶれない。


「……ほう」


 カイゼルの目が細くなる。


 さらに踏み込む。


 速度を上げる。


 一段。


 二段。


 加速する。


 斬撃の密度が変わる。


 だが。


 止まる。


 すべて、受けられる。


 あるいは。


 最小限で、逸らされる。


 レオンが踏み込む。


 反撃。


 一閃。


 速い。


 鋭い。


 だが。


 カイゼルが弾く。


 軽く。


 そのまま、回転。


 肘打ち。


 距離ゼロ。


 直撃。


 レオンの身体が吹き飛ぶ。


 地面を滑る。


 土を抉りながら、数歩。


 止まる。


 沈黙。


 人間側に緊張が走る。


「……今の」


「直撃したぞ……!」


 だが。


 レオンは立ち上がる。


 何事もなかったかのように。


 ゆっくりと。


 剣を構え直す。


 呼吸は乱れていない。


「……硬いな」


 カイゼルが言う。


「そっちもな」


 レオンが返す。


 短い会話。


 だが。


 互いに理解している。


 致命には届いていない。


 まだ。


 互いに。


 測り合いの段階。


 カイゼルが一歩、引く。


 ほんのわずかに。


 距離を作る。


「お前」


 視線を外さずに言う。


「まだ、全力ではないな」


 断定。


 レオンは答えない。


 だが。


 否定もしない。


 沈黙。


 それが答えだった。


 カイゼルが、笑う。


「いい」


 その目が、わずかに愉悦を帯びる。


「ならば、こちらも合わせよう」


 空気が変わる。


 周囲の兵が、本能で理解する。


 来る。


 次が。


 本番だと。


 カイゼルの足が沈む。


 重心が落ちる。


 剣が、わずかに下がる。


 だが。


 その瞬間。


 消えた。


「――ッ!」


 レオンの目が動く。


 横。


 いや、後ろ。


 振り向く。


 間に合わない。


 衝撃。


 背中に叩き込まれる。


 身体が浮く。


 空中で、強制的に体勢を整える。


 着地。


 同時に。


 次が来る。


 上。


 振り上げ。


 叩き落とし。


 受ける。


 衝撃が腕を走る。


 地面が割れる。


 膝が沈む。


「……速いな」


 レオンが呟く。


「今さらか」


 カイゼルが返す。


 そのまま、押し込む。


 力が乗る。


 重さが増す。


 レオンの足元が沈む。


 だが。


 止まる。


 踏み止まる。


 そして。


 弾く。


 一瞬の隙。


 踏み込み。


 反撃。


 一直線。


 喉元へ。


 最短距離。


 だが。


 届かない。


 カイゼルの身体が、わずかにずれる。


 紙一重。


 そのまま。


 カウンター。


 斬撃。


 肩を掠める。


 血が飛ぶ。


 初めて。


 レオンの血。


 人間側が息を呑む。


「……通った」


 小さな声。


 だが。


 レオンは止まらない。


 痛みを無視する。


 踏み込む。


 さらに速く。


 剣が走る。


 連撃。


 一撃ではない。


 二撃。


 三撃。


 繋ぐ。


 押し込む。


 カイゼルが受ける。


 初めて。


 完全ではない。


 わずかに。


 後退する。


 地面に跡が刻まれる。


 魔王軍側にざわめきが走る。


「……押した?」


「カイゼル様が……?」


 だが。


 カイゼルは笑っていた。


「いいな」


 低く言う。


「それでこそだ」


 踏み止まる。


 そして。


 押し返す。


 一撃。


 重い。


 レオンの剣が弾かれる。


 体勢が崩れる。


 そこへ。


 追撃。


 だが。


 レオンが捻る。


 最小限で避ける。


 距離を取る。


 再び、間合い。


 互いに止まる。


 呼吸が、わずかに上がっている。


 だが。


 まだ終わらない。


 終わる気配がない。


 戦場の誰もが理解する。


 これは。


 どちらかが倒れるまで、止まらない。


 そして。


 どちらが倒れるか。


 分からない。


 その時。


 わずかに。


 空気が、揺れた。


 ほんの一瞬。


 だが。


 確かに。


 違う“何か”が混じった。


 エリシアの目が見開かれる。


「……これ、は」


 魔力。


 だが。


 異質。


 歪んでいる。


 嫌な気配。


 戦場の外から。


 流れ込んでくる。


 レオンも、気づく。


 カイゼルも、気づく。


 同時に。


 視線が、わずかに逸れる。


 南でも、北でもない。


 別の方向。


 王都。


 ルミナスの方角。


「……来たか」


 カイゼルが呟く。


 レオンの表情が、僅かに変わる。


 嫌な予感が、現実になる。


 戦いは、まだ終わっていない。


 だが。


 戦場は、ここだけではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ