交戦
静寂が、崩れた。
どちらが先だったかは分からない。
だが。
次の瞬間には、すべてが動いていた。
⸻
「突撃ィ!!」
叫び。
人間側の前列が一斉に駆け出す。
槍を構え、盾を掲げる。
地面を蹴る音が重なる。
勢い。
数。
士気。
すべてを乗せた突撃。
⸻
対する魔王軍。
動かない。
一歩も。
ただ、待っている。
迫る人間の軍勢を。
無言で。
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「――当たるぞ!!」
距離が消える。
そして。
衝突。
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鈍い音。
骨が砕ける音。
肉が裂ける音。
それらが、一瞬で混ざり合う。
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「……は?」
最初に漏れたのは、そんな声だった。
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人間の槍が、届いていない。
いや。
届いている。
だが。
通らない。
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魔族の兵は、一歩も退かなかった。
受け止めた。
盾でもない。
身体で。
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そのまま。
腕を振るう。
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一撃。
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それだけで。
人間の兵士が、消し飛んだ。
盾ごと。
鎧ごと。
原形を留めない。
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「なっ――」
次の瞬間。
横でも、同じことが起きていた。
叩き潰される。
引き裂かれる。
踏み砕かれる。
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「下がれ! 下がれぇ!!」
叫びが飛ぶ。
だが、遅い。
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魔王軍が、動いた。
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一斉に。
前へ。
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足音が揃う。
重い。
規則的。
そして、止まらない。
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押される。
一方的に。
⸻
「押し返せ!!」
「槍を――!」
指示は飛ぶ。
だが。
通らない。
通じない。
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槍は弾かれる。
剣は止まる。
盾は砕ける。
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違う。
根本から違う。
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「なんだ、こいつら……!」
恐怖が、言葉になる。
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魔族は、迷わない。
躊躇しない。
ただ、潰す。
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数ではない。
質。
圧倒的な差。
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前列が崩壊する。
そのまま。
二列目。
三列目へ。
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波のように。
飲み込まれていく。
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「逃げろ!!」
誰かが叫ぶ。
だが。
背を向けた瞬間。
終わる。
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背中から、叩き潰される。
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戦場は、すでに戦いではなかった。
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蹂躙。
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一方的な破壊。
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エリシアが、歯を食いしばる。
「……っ」
杖を掲げる。
魔力を解放する。
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「――癒せ!!」
光が広がる。
倒れた兵に降り注ぐ。
傷が塞がる。
血が止まる。
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だが。
追いつかない。
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回復した瞬間に、また倒れる。
癒した端から、消えていく。
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「……間に合わない……!」
初めて、声が震える。
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前線が、崩れる。
完全に。
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その時。
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「――そこまでだ」
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声が、響いた。
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低く。
だが、はっきりと。
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空気が、変わる。
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レオンだった。
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すでに前に出ている。
最前線。
崩壊の中心。
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剣を構える。
静かに。
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目の前。
魔族の兵が振り上げた腕。
次の一撃で、また一人が消える。
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その瞬間。
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レオンが、動いた。
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一閃。
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何が起きたか。
誰も理解できなかった。
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ただ。
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魔族の腕が、落ちた。
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遅れて。
身体が、ずれる。
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そして。
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崩れた。
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真っ二つに。
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沈黙。
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誰もが、止まる。
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魔王軍も。
人間側も。
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「……は?」
誰かが呟く。
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あり得ない。
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通らなかったはずだ。
あの硬さ。
あの差。
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だが。
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レオンは、前に立っている。
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ただ一人。
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剣を構えたまま。
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「下がれ」
短く言う。
背後の兵に。
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「ここから先は」
一歩。
踏み出す。
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「俺がやる」
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その言葉で。
空気が、変わる。
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絶望が。
止まる。
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そして。
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戦場の中心に。
“勇者”が立った。




