緊急会議
王城、円卓の間。
重い扉が閉じられる。
外の喧騒が、遠くなる。
だが。
中の空気は、それ以上に張り詰めていた。
円卓を囲むのは、王国の中枢。
貴族。
将官。
そして――教会。
白衣の集団の中に、一際目立つ男がいる。
枢機卿。
静かに座り、指を組んでいる。
その視線は、まっすぐにレオンへ向けられていた。
レオンは席に着かない。
円卓の外、立ったまま全員を見渡す。
「状況は聞いたな」
短く言う。
全員が頷く。
「南方より魔王軍が進軍中」
「規模は不明」
「だが、前哨は壊滅している」
事実だけを並べる。
無駄はない。
「結論から言う」
一拍。
「王都外で迎撃する」
即断。
だが、その瞬間。
「待たれよ」
声が上がる。
中年の貴族。
顔には明らかな不満。
「なぜ打って出る必要がある」
「城壁は健在だ」
「籠城すればよい」
いくつかの頷き。
同調する者もいる。
「民を危険に晒すつもりか」
別の貴族が言う。
だが。
「逆だ」
レオンは即答する。
「城内戦になれば被害は拡大する」
「王都そのものが戦場になる」
静かに言う。
「それを避ける」
合理的な判断。
だが。
「理屈は分かる」
先ほどの貴族が食い下がる。
「だが、勝てる保証はあるのか?」
沈黙が落ちる。
誰もが、その答えを求めていた。
レオンは迷わない。
「ない」
はっきりと言う。
ざわめき。
「だが、やる」
続ける。
「ここで退けば、次はない」
それだけで十分だった。
言葉の重み。
現実。
誰もが理解している。
⸻
「……勇者様の判断は理解する」
別の声。
老貴族。
王都決戦を知る数少ない一人。
「あの規模の軍を、城壁だけで防げるとは思えん」
静かな同意。
空気が、わずかに変わる。
だが。
「しかし」
今度は、別の方向から声が上がる。
枢機卿だった。
「今この時に、外へ戦力を出すのは賢明とは言えません」
穏やかな口調。
だが、内容は真逆。
「理由は」
レオンが問う。
「王都は未だ不安定です」
昨夜の件。
誰もが思い浮かべる。
「内部の秩序維持を優先すべきかと」
「そのためには、教会の力が必要です」
静かに言う。
「現在、我々は新たな対抗手段の確立を――」
「不要だ」
遮る。
レオンだった。
空気が凍る。
枢機卿の言葉を、途中で断ち切った。
「……何と?」
わずかに目を細める。
「その“手段”が昨夜の結果だろう」
冷たい声。
「王都の中心で暴走を起こしたものが、戦力になるとは思えない」
正面から否定。
ざわめきが広がる。
教会側の空気が変わる。
「誤解です」
枢機卿はすぐに返す。
「制御の問題であり、本質では――」
「結果がすべてだ」
再び遮る。
「王都に被害を出した時点で失格だ」
明確な線引き。
もはや、取り繕わない。
「……」
枢機卿は沈黙する。
だが。
その目は、笑っていなかった。
⸻
空気が割れる。
王国と教会。
完全に、分かれた。
⸻
「教会の独自行動は禁止する」
レオンが言う。
「許可なき実験、行動はすべて制限する」
断言。
もはや命令だった。
「これは王命だ」
完全な宣言。
場が凍る。
誰も、軽く受け止めていない。
これは。
決定的な一線。
「……承知しました」
枢機卿が頭を下げる。
従う姿勢。
だが。
その声は、わずかに低い。
「すべては王国のために」
綺麗な言葉。
だが、その裏は誰にも見えない。
⸻
「話を戻す」
レオンが切り替える。
「出撃は即時」
「各部隊は配置につけ」
「前線は私が出る」
ざわめき。
「勇者様自ら……」
「当然だ」
短く言う。
「最前線で止める」
その言葉に、迷いはない。
⸻
エリシアが、静かに見ている。
レオンの横顔。
決断。
覚悟。
だが。
同時に、感じている。
違和感。
「……間に合うのか」
誰にも聞こえない声で呟く。
外ではなく。
内側。
それが、崩れかけている。
⸻
会議が終わる。
扉が開く。
再び、外の喧騒が流れ込む。
兵が走る。
命令が飛ぶ。
王都全体が動き出している。
⸻
枢機卿は、最後に一人残った。
誰もいない円卓。
静寂。
そして。
小さく笑う。
「……間に合いませんよ、勇者様」
呟き。
その目は、冷たい。
「もう、始まっている」
⸻
戦争だけではない。
もう一つの“何か”が。
⸻
王都は、二つの火種を抱えたまま。
戦場へ向かう。




