表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/55

侵攻の兆し

 王都ルミナス。


 昼下がり。


 城壁の上で、兵士が双眼鏡を構えていた。


 南方。


 地平線の先。


 何も見えない。


 はずだった。


「……なんだ、あれ」


 兵士が呟く。


 最初は、影だった。


 揺れている。


 地面が。


 違う。


 空気が震えている。


 嫌な予感が、背筋を走る。


「おい、交代だ――」


 声をかけようとした、その時。


 見えた。


 黒。


 線のように、地平線を埋める影。


 それが。


 ゆっくりと、こちらに近づいてくる。


「……は?」


 理解が追いつかない。


 数が多すぎる。


 距離が遠すぎる。


 だが。


 確実に、近づいている。


 砂煙が上がる。


 地面が揺れる。


 音が、届く。


 低い振動。


 重い足音。


「……軍だ」


 ようやく言葉になる。


 その瞬間。


 別の兵士が叫んだ。


「伝令! 伝令を出せ!!」


 緊張が一気に広がる。


 鐘が鳴る。


 警鐘。


 王都全体に響く。


 不吉な音。


 人々が顔を上げる。


「何だ?」


「また何かあったのか……?」


 ざわめき。


 だが。


 城壁の上の兵士たちは、すでに理解していた。


 これは。


「侵攻だ……!」



 王城。


 会議室の扉が勢いよく開かれる。


「報告します!」


 兵士が飛び込んでくる。


 その顔は青ざめていた。


 場にいた全員が振り向く。


 レオンもまた、顔を上げる。


「南方より魔王軍の大規模進軍を確認!」


 空気が凍る。


「規模は――」


 一瞬、言葉に詰まる。


「……不明! ですが、視認範囲すべてを埋めています!」


 ざわめき。


 一気に広がる。


「あり得ん……」


「まだ早すぎる……!」


「なぜこのタイミングで……!」


 貴族たちが口々に言う。


 混乱。


 だが。


 レオンは立ち上がる。


「静まれ」


 一言。


 それだけで、場が止まる。


 視線が集まる。


「距離は」


「現在、王都よりおよそ一日圏内!」


「早いな」


 短く言う。


 予想よりも。


 はるかに。


「先行部隊は」


「すでに複数の前哨が壊滅!」


「……そうか」


 レオンは、ゆっくりと息を吐く。


 そして。


 決断する。


「防衛線を敷く」


 即断。


「全軍動員」


「市民の避難を開始しろ」


「門は閉じるな」


 次々と指示が飛ぶ。


「敵の狙いは王都だ。外で迎え撃つ」


 ざわめき。


「城内戦に持ち込ませるな」


 明確な方針。


 迷いはない。


「勇者様、それは――」


 一人が言いかける。


「時間がない」


 レオンは遮る。


「迷っている暇はない」


 事実だった。


 すでに、来ている。


 考える時間はない。


「……了解しました」


 誰かが言う。


 それを皮切りに。


「承知!」


「すぐに手配します!」


 動き出す。


 王都が。


 戦争に向けて。



 その時。


 一人の女が、静かに口を開いた。


「……早すぎます」


 エリシアだった。


 全員の視線が向く。


「何がだ」


 レオンが問う。


「準備が整いすぎています」


 一言。


 それだけで、空気が変わる。


「……どういう意味だ」


「まるで」


 一拍。


「このタイミングを、知っていたかのようです」


 沈黙。


 誰も、すぐには答えられない。


 だが。


 レオンは理解する。


 教会。


 昨夜の件。


 そして、今。


「……偶然ではないかもしれないな」


 低く言う。


 だが。


 今はそれを追う時間はない。


「今は敵に集中する」


 切り捨てる。


 優先順位は明確。


 外敵。


 それが最優先。


「エリシア」


「はい」


「同行しろ」


 短く言う。


 彼女は頷く。


「支援が必要だ」


「……承知しました」


 レオンは、剣を取る。


 重み。


 馴染んだ感触。


 かつてと同じ。


 だが。


 状況は違う。


「……来たか」


 小さく呟く。


 避けられない戦い。


 視線を上げる。


 南方。


 見えない。


 だが。


 確実に、そこにある。



 王都の外。


 地平線の彼方。


 黒い軍勢は、止まらない。


 整然と。


 静かに。


 そして、確実に。


 進んでいる。


 戦争が、始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ