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失った信頼

 地下広間。


 崩壊した術式の中心。


 レオンは踏み込んだ。


 全力。


 迷いはない。


 剣に魔力を集中させる。


 収束。


 圧縮。


 限界まで。


「――終わらせる」


 低く言う。


 その瞬間。


 化け物が咆哮する。


 突進。


 正面から来る。


 逃げない。


 レオンもまた、真正面から迎え撃つ。


 一歩。


 二歩。


 踏み込み。


 間合いに入る。


 すれ違いざま。


 振り抜いた。


 閃光。


 音が消える。


 一瞬。


 完全な静寂。


 そして。


 遅れて、世界が戻る。


 化け物の体が、止まっていた。


 動かない。


 その中心。


 胸部。


 深く、斬り裂かれている。


 そこにあった。


 核。


 歪に脈打っていた魔力の塊。


 それが。


 崩れる。


「――――」


 声にならない音。


 体が、崩壊を始める。


 再生しない。


 できない。


 核が壊れた。


 維持できない。


 肉体が崩れ落ちていく。


 砂のように。


 灰のように。


 やがて。


 何も残らなかった。


 静寂。


 広間に、音が戻る。


 瓦礫の落ちる音。


 誰かの荒い呼吸。


 それだけ。


「……終わりだ」


 レオンが呟く。


 剣を下ろす。


 だが。


 気を抜かない。


 周囲を確認する。


 脅威はない。


 完全に、消えた。


「……はあ」


 大きく息を吐く。


 全身が重い。


 無理をした。


 だが。


 倒れるわけにはいかない。


 まだ終わっていない。


 視線を向ける。


 奥。


 エリシア。


 床に膝をついたまま。


 動けていない。


「……エリシア」


 歩み寄る。


 一歩ずつ。


 ゆっくりと。


 そして。


 目の前で止まる。


「立てるか」


 短く言う。


 エリシアは顔を上げる。


 その目は、揺れていた。


「……レオン」


 かすれた声。


 安堵と。


 それ以上の何か。


「……助けに来てくれたんですね」


「当たり前だ」


 即答。


 それだけ。


 余計な言葉はない。


 エリシアは、わずかに笑う。


 だが。


 すぐに、その表情は崩れる。


 視線が、周囲へ向く。


 倒れた神官たち。


 壊れた術式。


 そして。


 何も残っていない中心。


「……私たちは」


 震える声。


「何をしていたんでしょうか」


 問い。


 自分への。


 レオンは答えない。


 代わりに。


「立て」


 もう一度言う。


「ここはもう安全じゃない」


 現実。


 感情より先に、動くべきことがある。


 エリシアは頷く。


 ゆっくりと立ち上がる。


 足元がふらつく。


 だが。


 レオンが支える。


「……すみません」


「いい」


 短い会話。


 それで十分だった。



「見事でした」


 声。


 二人が振り向く。


 枢機卿。


 無傷。


 瓦礫の向こうに立っている。


 その表情は、変わらない。


 穏やかなまま。


「……何をした」


 レオンが言う。


 低く。


 抑えた怒り。


 枢機卿は、肩をすくめる。


「研究です」


 平然と。


「人類のための」


 その言葉に。


 レオンの目が細くなる。


「これがか」


 周囲を示す。


 死体。


 破壊。


 惨状。


「過程です」


 即答。


「成功すれば、すべては正当化される」


 迷いがない。


 本気で言っている。


 エリシアの手が、震える。


「……違う」


 小さく呟く。


 だが。


 枢機卿は気にしない。


 ただ、レオンを見る。


「ですが、証明されました」


「何が」


「有効性です」


 にこやかに言う。


「死霊王に対抗できる可能性」


 その言葉で。


 空気が変わる。


 レオンの中で、何かが切り替わる。


「……やめろ」


 低く言う。


「これ以上は、許さない」


 明確な拒絶。


 だが。


 枢機卿は微笑むだけ。


「王命ですか」


 一歩、踏み出す。


「理解しています」


 頷く。


「ですが」


 一拍。


「人類の存続がかかっているのです」


 止まらない。


 止める気もない。


「あなたも、いずれ理解する」


 断言。


 レオンは、剣をわずかに持ち上げる。


 だが。


 振るわない。


 ここで斬れば。


 それは内戦だ。


 分かっている。


 だから。


「……エリシア」


 名を呼ぶ。


 彼女は顔を上げる。


「来い」


 一言。


 選択を迫る言葉。


 エリシアは、迷う。


 一瞬だけ。


 だが。


 すぐに。


 その迷いは消えた。


「……はい」


 小さく答える。


 一歩、レオンの側へ。


 それだけで。


 十分だった。


 意味は明確。


 枢機卿は、その様子を見て。


 わずかに目を細める。


 だが。


 何も言わない。


 止めもしない。


「……それが、あなたの選択ですか」


 静かに言う。


 エリシアは答えない。


 ただ、前を見る。


 もう、振り返らない。


「……そうですか」


 枢機卿は頷く。


 それだけ。


 感情はない。


 ただ、受け入れる。


「では」


 踵を返す。


「我々は我々の道を行きます」


 止まらない。


 もう、誰にも。



 大聖堂を出る。


 夜風が、二人を包む。


 静かだ。


 だが。


 さっきまでの平穏とは違う。


「……終わったな」


 レオンが言う。


 小さく。


 だが。


「……いいえ」


 エリシアが答える。


「始まりです」


 はっきりと。


 その声に、迷いはなかった。


 レオンは、わずかに目を細める。


 そして。


「……そうだな」


 頷く。


 視線を上げる。


 夜空。


 遠く。


 グランデールの方向。


「次は」


 誰に向けた言葉でもない。


「間違えない」


 それだけ。



 王国と教会。


 完全に、道は分かたれた。


 そして。


 その先にあるのは――


 まだ、誰も知らない。


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