勇者、再び戦場へ
王都ルミナス。
夜。
大聖堂の上空に、異様な気配が渦巻いていた。
空気が重い。
息が詰まるような圧迫感。
街の人々も異変に気づき始めている。
「なんだ……あれは」
「魔物か……?」
ざわめき。
恐怖。
そして。
王城から、一つの影が飛び出した。
屋根を蹴る。
壁を駆ける。
一直線に、大聖堂へ。
レオン。
その動きは迷いがなかった。
最短距離。
最速。
風を切り裂くように進む。
「……遅いか」
呟く。
すでに感じている。
内部の崩壊。
魔力の暴走。
これは。
「完全に制御を失っている」
確信。
そして。
「教会……」
歯噛みする。
だが、止まらない。
止めるために来た。
⸻
大聖堂。
正面扉。
閉ざされている。
だが。
レオンは止まらない。
一歩。
踏み込む。
剣を抜く。
そして――
一閃。
扉ごと、空間を斬り裂いた。
爆音。
重厚な扉が内側へ吹き飛ぶ。
瓦礫が舞う。
そのまま、内部へ。
走る。
廊下を抜ける。
階段を飛び降りる。
地下へ。
近づくほどに、濃くなる。
魔力の濁流。
そして。
血の匂い。
「……っ」
顔をしかめる。
だが、止まらない。
⸻
地下広間。
その光景を見た瞬間。
レオンは、足を止めた。
「……何をした」
低く、呟く。
床は砕け。
術式は崩れ。
神官たちの死体が転がっている。
そして。
中央。
それが、いた。
巨大な影。
歪な肉体。
膨れ上がった魔力。
そして。
こちらを見ている。
「――――」
声にならない咆哮。
空気が震える。
レオンのマントが揺れる。
だが。
退かない。
「……なるほどな」
一歩、前に出る。
剣を構える。
「これが、“成果”か」
皮肉。
だが、目は笑っていない。
完全な戦闘の目。
「なら」
息を吐く。
「ここで終わらせる」
宣言。
その瞬間。
化け物が動いた。
床を砕きながら突進。
速い。
質量に似合わない速度。
拳が振り下ろされる。
だが。
レオンはすでに動いている。
踏み込み。
横へ。
回避。
同時に、斬る。
一閃。
肉が裂ける。
だが。
浅い。
「……硬いな」
即座に距離を取る。
分析。
通常のアンデッドではない。
魔力で強化されている。
しかも。
「再生もあるか」
裂けた肉が、すぐに蠢く。
塞がる。
厄介だ。
だが。
「問題ない」
再び踏み込む。
今度は正面から。
剣を振るう。
二撃。
三撃。
連続。
速い。
鋭い。
人の動きではない。
勇者の剣。
だが。
化け物も止まらない。
腕を振るう。
叩きつける。
衝撃。
レオンが弾かれる。
壁へ。
激突。
石が砕ける。
「……っ」
息が詰まる。
だが、すぐに立つ。
視線は逸らさない。
「力は上か」
冷静に判断する。
だが。
「遅い」
一歩。
再び前へ。
今度は、さらに深く。
踏み込む。
間合いの内側へ。
振りかぶる。
そして。
「――斬る」
一閃。
違う。
今までと。
空気が裂ける。
線が走る。
次の瞬間。
化け物の腕が、落ちた。
断面が遅れて崩れる。
切断。
完全に。
「――――!?」
咆哮。
初めて、明確な“痛み”の反応。
レオンは追撃する。
間を与えない。
連撃。
急所を狙う。
首。
核。
魔力の集中点。
だが。
寸前で。
止まる。
「……?」
違和感。
その瞬間。
空気が、歪んだ。
化け物の体が、膨張する。
魔力が、爆ぜる。
「――まずい」
即座に判断。
離脱。
だが。
間に合わない。
爆発。
衝撃波が広間を吹き飛ばす。
レオンの体が宙を舞う。
壁に叩きつけられる。
肺の空気が抜ける。
「……がっ……!」
血を吐く。
視界が揺れる。
だが。
倒れない。
立つ。
剣を支えに。
前を見る。
そこに、まだいる。
再生している。
さっきよりも、さらに歪んで。
「……厄介だな」
息を整える。
状況を整理する。
単純な討伐ではない。
これは。
「暴走している“核”を潰さないと終わらない」
理解。
だが。
時間がない。
周囲を見る。
倒れている神官。
そして。
奥。
エリシアの姿。
「……!」
意識はある。
だが、動けていない。
巻き込まれる。
このままでは。
「……仕方ない」
決断。
迷いはない。
「短期決着だ」
剣を構える。
全力。
出し切る。
そのための構え。
魔力が集まる。
空気が震える。
化け物も、それを感じ取る。
咆哮。
突進。
正面衝突。
そして。
レオンが、踏み込んだ。




