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崩壊の兆し

 王都ルミナス。


 大聖堂地下。


 空気が違っていた。


 重い。


 張り詰めている。


 そして。


 どこか、歪んでいる。


 円形の広間。


 術式はさらに拡張されていた。


 床だけではない。


 壁面。


 柱。


 天井にまで紋様が走っている。


 光は強い。


 だが、その輝きはどこか不安定だった。


「第三段階を開始する」


 枢機卿の声。


 いつもと同じ、落ち着いた声音。


 だが。


 神官たちの間には、わずかな緊張が走っていた。


 理由は明確。


 “強すぎる”。


 今回の対象は、それまでとは違う。


 広間の中央。


 封印の中にいるそれは――


 明らかに異質だった。


 上位個体。


 通常のアンデッドではない。


 魔力の密度が違う。


 存在そのものが、周囲を圧迫している。


 鎖が軋む。


 封印が唸る。


 それでもなお、押さえきれていない。


 エリシアは、その前に立っていた。


 いつもの位置。


 だが。


 足が、わずかに重い。


「……本当に、やるのですか」


 小さく問う。


 枢機卿へ。


 確認。


 最後の確認。


 枢機卿は、微笑む。


「もちろんです」


 迷いはない。


「ここまで来て、止まる理由はありません」


 当然のように言う。


 エリシアは、目を閉じる。


 一瞬だけ。


 だが。


 すぐに開く。


 覚悟ではない。


 諦めに近い何か。


「……始めます」


 声は、静かだった。


 祈りが始まる。


 光が集まる。


 だが。


 違う。


 明らかに、前回までと違う。


 重い。


 反発がある。


 術式そのものが、軋んでいる。


 神官たちの詠唱も、わずかに乱れている。


「出力を維持しろ」


 指示が飛ぶ。


 光が強まる。


 押し込む。


 強引に。


 そして。


「――顕現せよ」


 解放。


 光が対象へと叩き込まれる。


 衝突。


 爆発的な光。


 だが。


 その瞬間。


 “何か”が弾いた。


 光が、弾かれた。


「――!?」


 誰かが声を上げる。


 対象が、動く。


 鎖を引きちぎる。


 封印が砕ける。


 術式が、軋むどころではない。


 歪む。


 崩れる。


「抑えろ!」


 神官が叫ぶ。


 詠唱が重なる。


 だが。


 遅い。


 対象の目が開く。


 濁った光。


 だが、その奥に。


 確かな“意思”があった。


「……違う」


 エリシアが呟く。


 これは、制御されていない。


 押さえつけてもいない。


 ただ。


 “怒っている”。


 それだけ。


 次の瞬間。


 爆ぜた。


 魔力が、広間を満たす。


 衝撃。


 神官たちが吹き飛ぶ。


 術式が裂ける。


 光が乱れる。


「――ああああああああああ!!」


 叫び。


 対象が吠える。


 その声は、もはや獣のそれではない。


 怨嗟。


 怒り。


 そして。


 “解放”。


 鎖が完全に弾け飛ぶ。


 自由になる。


 その瞬間。


 最も近くにいた神官が――


 消えた。


 一瞬で。


 叩き潰された。


 肉片すら残らない。


「ひ……っ」


 誰かが後ずさる。


 だが。


 逃げ場はない。


 広間は閉じられている。


「出口を開けろ!」


 誰かが叫ぶ。


 だが。


 反応はない。


 術式が崩れ、制御が効かない。


 エリシアは動く。


 反射的に。


 前へ。


 光を集める。


 全力で。


 ぶつける。


 閃光。


 対象に直撃する。


 だが。


 止まらない。


 わずかに、動きが鈍るだけ。


「……っ」


 歯を食いしばる。


 これでは足りない。


 分かっている。


 圧倒的に。


 足りない。


「……退避を!」


 叫ぶ。


 だが。


 もう遅い。


 対象が、次の一歩を踏み出す。


 床が砕ける。


 その動きは、重い。


 だが。


 確実に、こちらへ来る。


 狙っている。


 “最も強い光”。


 エリシアを。


 そのとき。


「下がれ」


 低い声。


 エリシアの前に、誰かが立つ。


 枢機卿。


 手をかざす。


 光ではない。


 別の力。


 術式の残骸を強引に引き寄せる。


「……まだだ」


 呟く。


 そして。


「抑え込め」


 命じる。


 無理だ。


 誰もが分かっている。


 だが。


 止まらない。


 止めない。


 その姿を見て。


 エリシアは、理解する。


「……違う」


 はっきりと。


 今度こそ。


「これは」


 声が震える。


「もう、“実験”じゃない」


 ただの災害だ。


 制御不能の。


 人が引き起こした。



 王城。


 同時刻。


 レオンは、顔を上げた。


「……来たか」


 感じる。


 王都の中で、何かが暴れている。


 魔力の異常。


 明らかにおかしい。


「報告は」


「まだです」


 側近が答える。


 だが。


 待つ必要はない。


 これは。


「教会か」


 確信。


 あの場所で、何かが起きた。


 そして。


「……間に合うか」


 小さく呟く。


 すでに遅い可能性もある。


 だが。


 動くしかない。


「出る」


 立ち上がる。


 迷いはない。


「最悪を想定しろ」


 命じる。


 その言葉の意味を、誰もが理解した。



 均衡は、崩れた。


 静かではない。


 明確に。


 音を立てて。


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