バレる
マーギンはダメージで、ローズは魔力切れで動けない。ローズがマーギンの顔に覆いかぶさったまま、あわあわしている状態が続いた。
「マ、マーギン……」
「う、うん……」
ローズは意を決したかのように、言葉を続けた。
「その……私にこのようなことをされてう、嬉しいものなのか?」
マーギンは少し間を置いたあと、
「うん……」
「そうか、ならこれは詫びとしておこうかな」
ローズはそうクスクスと笑った。マーギンはその言葉を聞いて、詫びとは何のことだろうと思う。
「詫び? なんの?」
「私のせいでマーギンを危険に晒してしまった。落ちたこともそうだし、さっきの大型ラプトゥルもマーギンが起きてくれなかったら、2人とも死んでいただろう」
「あー、それは起きろって声が聞こえて、目を開けたら、ラプトゥルが目に入ったんだよ。ほとんど無意識に攻撃したから、ローズを巻き込んじゃった。悪かったよ」
マーギンが答えると、ローズが少し身をよじる。
「あの……その、口を動かされると、その……くすぐったいというか……」
と、ローズが赤くなる。その意味が分かったマーギンも赤くなった。
「ごっ、ごめん」
マーギンが謝ると、ローズがまた体をよじる。もうどうしていいか分からないマーギン。
ブーン。
そのとき、上空から大量の羽音が聞こえてきた。
「ヤバいっ」
少し回復したマーギンが身体を起こしながらそう叫んだ
「どうした?」
「ビッグモスキートだ。大量に来てる」
《プロテクションっ!》
マーギンはプロテクションで自分たちを包もうとしたが、プロテクションが発動しない。
「ちっ。ローズ、着替えは持ってるか?」
「あぁ、マジックバッグのなかにある」
ローズのマジックバッグから着替えを出そううとしたが、ローズが持つマジックバッグには使用者制限をかけてあるため、マーギンが取り出すことができなかった。マーギンはアイテムボックスから自分のシャツを出して羽織らせる。
「掴まっててくれ」
マーギンはローズをお姫様抱っこして、ここからの離脱を試みる。戦うにはビッグモスキートの数が多すぎるのだ。
なんとか走りながら、風魔法でビッグモスキートを吹き飛ばすも、あちこちから集まってくる。かなりまずい状況だ。
マーギンは一か八かの賭けに出る。
《ワープっ、カタリーナ!!》
どこにいるか分からないカタリーナを目指して転移魔法を使った。しかし、転移の魔法陣が出ない。
「だめか……」
そう思って走り続けた瞬間、
グニャり。
マーギンの視界が歪む。強烈な気持ち悪さが襲ってきて吐きそうになるが、ローズにかけるわけにはいかない、と、強烈な意思によって耐えた。
◆◆◆
「燃え尽きろっ」
「ふぅんっ!」
アイリスが大きな炎の球を打ち上げ、大隊長がそれを竜巻で包む。2人の魔法が重なり、炎の竜巻となったものがビッグモスキートを燃やす。ビッグモスキートから出た麻痺毒が加わり爆発にも似た炎が上空に荒れ狂っていた。
ドサッ。
みんながラプトゥルと戦っているところに、ローズを抱えて気絶しているマーギンがいきなり現れた。
「マーギンっ、大丈夫かマーギンっ!」
まだ立てないローズがマーギンに呼びかける。
「ローズ?」
真っ先に気付いたカタリーナ。
「姫様っ、マーギンに回復魔法をっ!」
「うっ、うん」
《シャランランっ!》
カタリーナの優しい回復魔法がマーギンを包み、気絶していたマーギンが目を覚ました。
「うっ……ビッグモスキートはどこだ?」
「う、上よ」
カタリーナが上空を示すと、アイリスと大隊長が地獄のような攻撃でビッグモスキートを燃やしていた。
「マーギン、手を貸せ。ラプトゥルの数が多すぎる」
オルターネンがラプトゥルと戦いながら叫んだ。
まだ上手く状況を掴めないまま、マーギンは妖剣ヴァンパイアをアイテムボックスから取り出した。
「下がれっ!」
みんなをラプトゥルの前から離脱させ、マーギンは魔力を込めて妖剣ヴァンパイアを横一文字に振った。
ゴッ。
一瞬にして、ラプトゥル共々、木々を斬った。
ベキベキッ。
木々が次々と倒れ、折り重なっていく。
《フェニックス!》
そして、倒れた木々ごとフェニックスで蒸発させるように燃やしたのだった。
《プロテクションっ!》
マーギンは疲れているみんなを休ませるために、プロテクションを張ってみる。
ブォン。
「あっ、出た」
さっきまで発動しなかったプロテクションが発動し、みんなを包んだ。
「ふぅ、やっと一息付けるぜ。おっせーぞてめぇ」
地面に座り込んで文句を言うバネッサ。
「はぁ、もう魔力がヤバいです。ハンバーグを食べないと立てません」
アイリスがマーギンの服の裾を掴み、上目遣いでハンバーグをねだる。まだまだいけそうだ。
「ずいぶんと遅かったな」
と、大隊長とオルターネンが状況を確認しにきたので、マーギンはどういう状況だったのか説明する。
「ふむ、よく分からん状況だな。一旦ここから離脱して、話と状況を整理する方が安全だ」
と、大隊長に言われて、ガインの遺体が安置されていた遺跡に転移したのであった。
じゅうじゅう。
遺跡の中の海に通じている部屋で肉を焼く大隊長たち。マーギンはハンバーグと甘辛を作っていた。
「ねぇ、ローズ。どうしてノーブラでマーギンのシャツを着ていたの?」
ローズはカタリーナに小さな声で聞かれ、真っ赤になった。
「ちっ、違うのです。あれは不可抗力というか、詫びというか……その」
慌てふためくローズ。
「ふーん、不可抗力ねぇ、何かあったのは事実なんだ」
カタリーナはニヤニヤしてローズの顔を覗き込んだ。
「ひっ、姫様っ!」
ローズは真っ赤な顔でカタリーナの口を塞ぐ。
「私もマーギンのご飯食べてこようっと。ローズも来る?」
「け、けっこうです……」
ローズは真っ赤な顔でうつむいて、その場を離れなかった。
「マーギンっ、私もハンバーグ食べたいっ!」
「アイリスにもらえ。全部食いきれんだろ」
アイリスの前の皿には山程盛りのハンバーグ。アラビンドビンしそうな感じだ。
皿からハンバーグをひょいと取って食べるカタリーナ。アイリスがワンコハンバーグをしたいと言ったので、一口サイズのハンバーグだ。
マーギンは甘辛にする前の唐揚げを食べながら、レモンチューハイを飲む。
「ねぇ、マーギン」
ハンバーグを手づかみで食べたカタリーナは、指をペロっと舐めながらマーギンに話しかける。姫様とは思えない所作だ。
「なんだ? 唐揚げも食いたいのか?」
「それより、何飲んでるの?」
「レモンチューハイだけど?」
「チュー……ハイ?」
「だからそう言っただろ」
「ふーん、チュー……ハイね」
カタリーナはニヤニヤしながら、チューを強調して確認する。
「何を言って……」
そう言いかけたマーギン。カタリーナはローズの方をちらっと見た。
はっ!
マーギンはカタリーナが言わんとすることに気が付いた。
「おっ、お前……」
「はいちゃらばーい」
そんな捨て台詞を言って、カタリーナはローズの元へと戻っていった。
汗をダラダラと流すマーギン。
それを見ていたバネッサは甘辛をポイッと口に入れ、マーギンが飲んでいるチューハイを奪い取って、ごくごくと飲み干した。
「うちらは死ぬ気で戦ってたのによ」
そう呟いたバネッサは、どこかに行ってしまったのであった。




