第48話 ダイナソーズ
「まずは民間船イラベロ号の撃墜、並びにファリサスの悲劇を始めとしたそちらの各虐殺事件について、正式に謝罪してもらおう。 全てはそこからだ!」
今、スグルはダイナソーズの外交団と向き合っている。
あの後、グランギガロスとの基本友好条約は滞りなく締結され、人類存続機構とグランギガロス共和国は正式に同盟関係となった。ボリストーン元帥は約束通り、己のコネをフル活用使して政治家達に根回しをしてくれたようだ。
エイアースで開催された人類存続機構最高議会議長エリザベスとグランギガロス共和国全権大使モーリス・ランペルグ氏との調印式は両国全土で放映される歴史的な物となった。
そのグランギガロス共和国の仲介の元、ダイナソーズ。別名、神聖ドラゴンノーツ連邦との会談は始まった。
しかし、彼らの反応はギガロスよりも厳しかった。イラベロ号とは727年前、ファーストコンタクト時に人類が一方的に撃沈した民間旅客船だそうだ。ファリサスの悲劇とは数年前、人類が陥落させた基地に船の故障でたまたま居合わせた民間人を強襲隊が虐殺した事件の事。まさに、ギルダー中尉が参加したあの作戦だった。
その他にも、人類は過去に民間人への襲撃事件を幾つも起こしていた。その事実を知った時、正直頭を抱えてしまった。こんな蛮族相手によくぞまあギガロスは条約を結んでくれたものである。
「軍民関係なく攻撃するくせに、こっちの事は全く調べようとせず、貨幣経済も無いから賠償金も取れず、家族制度はおろか文化らしき文化も全くない。ただただSEXと戦しか頭にない基地外のお前らに会ってやっただけでもありがたいと思え! あのパラサイト共への対処さえ無ければ、とっくの昔に絶滅させていた!」
目の前のダイナソーズの外交団の目は一様に怒り、侮蔑、憎しみ、軽蔑に満ちていて一つとして肯定的な物がなかった。
ああ、やっぱり人類は基地外だと、狂っていると思われていたんだ。遺族からの突き上げもあっただろうに、それ以上に人類と関りあいになりたくなかったのだ。
チンピラやヤクザ相手に、お金を取り戻すよりもこれ以上関わりなくないと泣き寝入りする感覚のように、近づきたいとすら思われていなかったのだ。
「その事に関してですが、誠に申し訳ございませんでした。人類存続機構特任大使アカガネスグルの名において謝罪いたします。」
そう言ってから首を垂れた。ダイナソーズ側のマスコミ達が一斉にシャッターを切る音が聞こえてくる。同時に、驚愕の声も。
実際、これに関しては何ら言い訳が出来ない。100%人類側に非がある。そうである以上、下手な弁明は印象を下げるだけで何のプラスにもならない。
ダイナソーズが、相手に謝罪させること自体を目的とする種族なら別だが、そうでないならこれに関してはひたすら低姿勢を貫くしかない。
しかし、向こうの代表はスグルの謝罪だけでは満足しなかった。
「お前の頭だけで足りるか! 現議長にも謝罪してもらう。慰霊碑の前で献花した上で、跪け!」
…厳しいな。やった事がやった事だけに、謝罪と献花自体は問題ないだろう。だが、土下座を強要されるのであれば確実に人類側のプライドに傷がつく。
「ここまでしなくてはならないのか!」という声が出てくることは確実だ。何せ、過去の民間人襲撃の事例を報告してくれた事務官達は、それの何が問題なのか全く理解していなかった。
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「こいつ…やばいよ。」
「ああ、人以外を撃つのに理由がいるだなんて…頭がいかれてるぜ。」
「どこでどう育ったらこんな思想になるんだ?」
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これが人類のデフォルト。スタンダードな意識なのだから始末に負えない。
この意識を変える事は後々の課題として、土下座を強要されると知れば今の事態を不満に思っている人々の突き上げと反撃がある事は確実だ。そうなったら最悪、せっかく結べたグランギガロスとの同盟、停戦すら白紙化される恐れすらある。そうなったらもう、人類に明日はない。
「献花も謝罪要求も受け入れます。ですが、土下座は無理です。代わりに、鉱物資源の輸出における優遇措置で手を打ってもらえませんか? 我が国には貨幣経済がありません。タダでそちらに資源をお譲りします。その量を僅かばかり、グランギガロス共和国より上乗せいたします。それでご勘弁頂きたい。」
「ふざけるな! 全国民の前で、頭を地べたに擦り付けろ! このイカレ種族が! お前らのせいで、どれだけの民間人が無念にも命を落としたと思っている!」
スグルの提案にも相手は乗ってこなかった。
正直、ここまでの反発は予想外だ。実利よりも感情を優先する種族なのだろうか? 完全なる差別発言まで飛び出すが、向こうの誰もそれを咎めようとしない。それどころか、代表団の大半が頷いている。曲りなりにも国を代表する面々が公衆の面前でこれほどキツイ言葉遣いをするなんて…。想像以上に彼らの人類へのヘイトが高い。
こちらの打てる手は全部打った。GMの攻撃対象から彼らは既に外れている。後は資源輸出くらいしか、こちらの手持ちの交渉カードはない。それを否定されてしまうと打開策が見当たらない。
「少し、いいですかな?」
頭を抱えるスグルの傍で、ボリストーン元帥が口を開いた。今回の協定に当たり、立会人として横に控えてくれていた。
「ヘイシル全権大使殿。貴殿の要求は些か過剰で無礼だと私は思う。」
「なっ、何ですと!??」
ボリストーン元帥の言葉に、ダイナソーズの代表団は一様に驚いた顔になる。まさか、グランギガロスが人類の肩を持つとは露ほどにも思っていなかったのだろう。
「元帥閣下! あなたはご自身が何を言っているのかお分かりなのか! 虐殺側を弁護するなど!」
「大使殿、勘違いしないでいただきたい。私は虐殺を肯定しているわけでもないし、擁護するつもりもない。」
「なら!」
「しかしです。彼はその点でまず謝罪しました。賠償金代わりの資源輸出も提案しました。その上で、そちらからの最高権力者による再度の謝罪と献花要求も受け入れました。その上さらに土下座の強要とは、普段賢明なドラゴンノーツ連邦の態度とは思えませんな。」
顔を真っ赤にして怒鳴るダイナソーズのヘイシル大使に、ボリストーン元帥は冷静に指摘した。
「それはこいつ等が!…」
「彼らの行いは決して許されるものではない。だが、人類の行動パターンは貴国でもとっくの昔に分析済みのはずです。自国民を人類領域から遠ざけて保護する責任は貴国にあるはずだ。現に、我がグランギガロスでは最初の遭遇時を除いて民間人の死傷者は出ていない。ご存知のはずですが。」
ボリストーン元帥の反論に、ヘイシル大使はギリッと歯ぎしりして押し黙った。しかし、スグルにそれを喜ぶ余裕はなかった。
ちょ、ちょっと待って!? 今の元帥の話は、過去に人類がグランギガロスの民間人を殺傷したってこと!? それなのに、その事で責めるでもなく人類と同盟を結んでくれたのか。どれだけ器がデカいんだ彼らは。
「現状、人類がGMの支配権を持っていることに疑いの余地はない。その恩恵に、あなた方ドラゴンノーツも既にあずかっていることも紛れもない事実だ。これ以上何を得ようと言うのです。土下座させれば溜飲は確かに下がるでしょう。だが、それだけだ。その後の両国関係に悪影響を与える事は間違いない。しかも、それは一時で済む話ではなくなるでしょう。我がグランギガロスは長く貴国と友情を育んできた。友人が道を間違えようとしているのに、黙って見過ごすわけにはいかない。ヘイシル大使、はっきり言わせていただく。一時の感情に任せて外交を行うべきではない。それをあなた方は頭では理解しているはずです。どうか、賢明なご判断を。」
「元帥閣下、ありがとうございました。」
スグルは会談後、ボリストーン元帥に深々と頭を下げた。
あの後、協議は順調に進み、ドラゴンノーツ連邦もグランギガロス共和国同様基本友好条約と同盟関係を結ぶことに同意してくれた。正直、何もかも元帥のおかげだ。
「会談場所まで提供して頂き、感謝の言葉もございません。」
「なに、大したことはしていません。会談場所は戦艦を提供しただけですし、仲介人として会談が決裂するような事は避けたかった。ただそれだけの事です。」
「その時点で過分な頂き物です。私達を庇った事により、元帥閣下の御立場が危うくなるような事はございませんか?」
「ガッハッハッ! こんな事で揺らぐほどやわなキャリアではありませんよ。伊達に両国から英雄と呼ばれているわけではありません。私の心配をするよりも、今後の人類の意識を変える事に意識を向けた方が良い。私とて、スグル元帥以外の人類の感覚は、理解しがたいものがあるのですから。」
もし、人類の制圧のために送り込まれた人物がボリストーン元帥ではなかったらどうなっていただろうか。間違いなく今のような展開にはなっていない。人類の歴史は数週間前に途絶えていただろう。
「ありがとうございます。そちらも全力で取り組みます。」
「それと…、本当にやるので?」
「何をです?」
「インセクターズ(バグズ)とマウス(メガラット)。それと、ビーストマン(ビーストアーク)とも本気で交渉を?」
「ああ、その事ですか。一応試しておきたいんです。閣下にはご迷惑をおかけしてしまいますが、何卒。」
「まあ、あえて止めはしませんが…。」
結果は
バグズ&メガラット
「「我々は増えたい。もっともっと増えたい。そのためには土地が必要だ。少しでも多くの惑星が、資源が、食料が必要だ。お前たちは邪魔だ。消えうせろ。」
ビーストアーク
「この宇宙をお創りなさったビースト神が、この宇宙は我らの物とお決めになさったのだ! この宇宙に存在していい生物は我らビーストアークのみ! それ以外の種族は神を冒涜する存在である! 故に悉く焼き尽くす! 例外も慈悲もない! 死ね!冒涜者共!!」
本当に、話にならなかった。




