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正義の犠牲

 ──時は一度、雛月の手によって龍吾の借金が返済し終えた後、足早に撤退した借金取り達の方へとさかのぼる。

 未だ気絶した仲間を乗せた黒のスーツを着た男が操縦するバンと、二億もの金が乱暴に入れてあるバンと二台に分かれて、夜の道路を追走していた。

 道中、黒スーツの男に叩き起こされ、共に金と他の仲間をバンに入れていた部下は、もういるはずのない輝夜と雛月の存在に怯えていた。


『も、(もり)さん……。あ、アイツら……! アイツら!』


 もりという黒スーツの男。『守弘(もりひろ) 友哉(ゆうや)』に向かって、連絡用に改造されたカーオーディオから部下の震えた声が鮮明に伝わった。


「言わなくたって分かる。いい加減ビビんな! もうアイツらはいないし、俺たちが関わることもない!」


『人間じゃない! バケモノだ! 俺たち殺される!』


「だから、ビビンのをやめろっつってんだ! これ以上言ったら俺が殺すぞ!」


 部下の怯えは尋常ではなく、頭である守弘ががなり声で注意してもオーディオ越しからブツブツと呟いていた。

 用賀を離れ、首都高速に乗った二台はそのまま渋谷の方へと向かった。

 渋谷は夜も更けてきたというのに、まだ始まったばかりと言わんばかりに建物の光が輝き、人々は往来し、雑踏の音は増していくばかり。

 そんな中で二台のバンが止まると、守弘はドライブレコーダーからSDカードを取り出し、胸ポケットに入れた。

 未だに気絶している仲間を二人起こすと、一人を仲間がいるバンに残し、もう一人は守弘と共に二億の金が入ったバンの方へと行きドアを開けた。

 そこには相変わらず身を丸くして怯える部下がいたが、それを無視してもう一台のドライブレコーダーからSDカードを取ると、仲間を一人入れてドアを閉めようとした。


「か、頭……? 何やってんすか?」


「シマの見回りだよ。お前らは先に戻ってろ」


「……え。でも見回りって昨日……」


「アホか。予告なく見回るから、バカやらかす奴を防ぐんだろうが。俺らの所もそうだろ」


 守弘は言い終わるとバンのドアを閉めて二台のバンを後にした。

 発車するのを横目で見届けると、懐からスマートフォンを取り出し、その後に一枚の紙をもう片方の胸ポケットから取り出した。

 紙には、とある会社の電話番号が書かれていて、その下には六桁の数字。

 『SP』の二文字。

 『1〜3』と三文字に『B』の一文字と『343』の三文字という、一見すれば意味不明の文字列が並んでいた。

 しかし守弘は、迷いなく会社の電話番号へダイヤルを回し、ほどなくして機械音声によるガイドが流れはじめた。

 契約、解約、契約内容の更新・確認。その他が案内され、守弘は『その他』である『#』を押した。

 数回のコール音の後、明るくハツラツとした若い男性の声が出迎えた。


『お電話ありがとうございます。ヨツバモバイル。担当は明石(あかし)と申します。今日はどのようなご用件でしょうか?』


 守弘は答えない。


『……もしもし? 聞こえてますでしょうか? お客様?』


「オタクの所に()()をしたい」


『……取材、ですか。恐れ入りますが()()()()などはありますか?』


「150511。272319、343だ」


 守弘が文字列から導き出した『紹介番号』を言うと、電話越しから伝わっていた親しげで明るい声色が途絶え、少しの間沈黙が続くと。


『はい、分かりました。では、今日の二十二時にお越し下さい』


 どこか冷めたような声で許可を出され、そのまま電話は切れてしまった。

 守弘は電話をしまうと腕時計を見た。

 時間は二十一時の三十六分。

 どこか緊張した面持ちで彼は、宮益坂の通りにある喫茶へと足を運んでコーヒーを飲み、時間をつぶした。


 ※


 彼は知っていた。あの紙に書かれていた内容を。

 一見すれば意味不明の文字列に、れっきとした意味が隠されていることも。

 守弘の上司『国松(くにまつ)』は、一週間前に逮捕された。

 原因は傷害罪。

 とあるレストランで、証券会社の役員との口論が原因で、暴行に及んだ。というのが()()理由。

 国松は一通りの暴行を加えた後店内から脱走したが、レストランという大勢の人がその光景を見て、監視カメラも設置されている場での暴力行為は、しっかりと記録されていた。

 更には国松が触れた食器や、席から指紋や皮脂が採取されたことで、逮捕までに時間はかからなかった。

 連行の当日、警察が来る前に、国松は一枚の紙を渡して言った。


「もし、あの雪下ってヤツの情報(こと)が掴めたら、コレを使え」


「……何ですかコレ? ……この……最初の六桁の数字は、何となく分かります。ウチの帳簿に書く年月日とかの略ですよね。……でもその後のSP? 1〜3? とか意味が分からないですよ」


「……お前は俺の得意なことを知っているか?」


 その言葉を聞いたとき警察が駆けつけ、国松は目の前で逮捕。あっという間に連行された。

 国松の趣味は守弘は知っていた。

 株の取引だ。彼はそれで二代食べていけるほどの財を手に入れた。

 故に『SP』の意味はその日のうちに理解できたが、翌日からは『1〜3』と『B』『343』の意味を解読するのに頭を抱える日々を送った。

 暗号であることはかろうじて分かっても、彼には専門的な知識はもちろんのこと。

 そもそも暗号自体使ったこともなければ、見たこともなく、作ろうと思ったこともなかった。

 休日や仕事の合間をぬって、大手ショッピングサイトや本屋、図書館で暗号に関する本を買っては目を通した。

 分からなければネットを使い、それでも分からなければもう一度本を読み返すか、新しいものを探す日々にふけった。

 そうしてそこから得た知識をつなぎ合わせて、細い糸の先に繋がった答えを慎重にたぐり寄せ、ついにそれらしき答えを導き出せたのは、ほんの数日前の出来事だった。


 電話番号の後に記載された『六桁の数字』は年月日。

『SP』は株価を英訳したときの頭二文字

『1〜3』はその日の全市場で前日比が大きかった会社三社。

『B』はその上位三位の会社から出た、前日比の小数点を切り捨てた数字二桁。


 それが彼の出した答えだったが、最後の『343』は株価はもちろん、数式でもなければ、アルファベットに当てても意味が通らないもので、彼の頭はパンク寸前だった。

 いくつもの予想を張り巡らせても分からず、やがて考えるのも面倒になったとき、ふと『343』は暗号ではなく、何かのコードなのではというのが彼の結論となった。

 無論、それが正解か否かは彼自身もあやふやだったが、暗号を一通り解読したその後は情報の収集に専念する日々だった。

 龍吾の担当だった組員は、取り立て当日に壊滅。

 病院に運ばれ、ベッドに横たわる者は皆意識が無いか、植物人間と化してしまった者ばかりで、情報を語れる者はいなかった。

 災難は更に続き、担当の組員以外で龍吾のことを把握するところは、どこの誰もいないというヤクザな商売をしている者にはあってはならない大失態が待ち構えていた。

 故に情報は守弘の組が、地道に彼の周りから収集していた。

 ところがそうまでしても、肝心なところが掴めない日々が続いた。

 ある者は『見たことのない女が二人いた』と言って、その真意を別の部下に確かめに向かわせると、『現地に行ったまでは覚えているが、その後のことは覚えていない』と言って帰ってきた。

 最初こそは怒鳴り散らしてヤキを入れたが、その後に続く部下たちも記憶が無い者から、おぼろげながら覚えている者までいて、しだいに現場は混乱に至った。

 そしてちょうどその頃、守弘のような人物が関わる金融業社に手痛い法律が施行され、元々警察にマークされていた守弘の組は、このことも加わり情報の収集はより困難になってしまった。

 転機が訪れたのは龍吾の元に行くほんの二日前。

 入院していた組員の一人が意識を取り戻した旨の連絡を受け、守弘は病院へと向かった。

 意識を取り戻した組員は車椅子に座りながら、守弘に当日何が起きたかを伝える事こそ出来たものの「もう一生歩くことはできない」と本人の口から、やるせない感じに打ち明けられたのは、守弘にとっては生涯忘れられない光景だった。

 未だに意識の戻らない組員に、唯一意識が戻った組員に与えられた現実と無念。

 自分の会社をコケにした大罪を償わせるために向かった一行は、しかして輝夜と雛月という人外の存在とその力に尻尾を巻いて逃げ出し、今に至る。


(どう考えたってアレは、例の異世界のヤツだ。あんなヤツと戦ったなら、ウチの下っ端がああなるのは納得だ)


 ※


 刻一刻と、指定された時間が迫ってくる。

 一分一秒経つたびに守弘は忙しなく周囲を見たり、ティースプーンを手で遊ばせたりしてとにかく落ち着かない。

 そうして守弘は、とうとう自身を縛りつける焦りを無くそうと、足早に会計を済ませて目的地へと足を運んだ。

 宮益坂から青山通りに向かっていく道中の大型ビルの一階に、目的地のヨツバモバイルがあり、出入り口には『営業終了』の看板が下げられていたが、守弘はそんなことはお構い無しと扉を開けた。

 そこで守弘はギョッと目を見開いた。

 眼前には会社のスタッフ一同が出入り口の周りで、無表情で立っていたからだ。

 だれもかれも人形のように表情を動かさず、ただジッと守弘だけを見ていた。

 そんな光景に、早くも恐ろしさを覚えたか目線が忙しなく周りを見ている中、囲っているスタッフの中から四十の後半ほどと思われる女性の声が上がった。


「予定より、十分ほど早かったですね。まぁそんな事はどうでも良くて、とりあえず座りなさい」


 スタッフの中から白髪と黒髪が入り混じり、シワと筋肉がやや(たる)みかけた、小太りな四十後半の容姿の女性。

 しかしその目は中年とは思えぬほど冷たく、鋭い。そしてなによりも光がない。

 一瞬のスキさえ見せればたちまちに引き裂かれそうな目で見られながら、守弘は目線を下にして受付の席に座った。

 鍵がかけられる音を最後に、室内は十人以上のスタッフ達がいるにもかかわらず、空調の音も、外の雑踏も、呼吸音さえ聞こえない静寂に包まれた。

 そんな中で守弘の呼吸が少しづつ乱れ始め、しだいに彼の呼吸だけがハッキリと室内に響く。


「ここに」


 静寂が包んでいた室内から唐突に出された言葉に、守弘は大きく肩をすくませ蒼白な顔で女性に目を向けた。


「先の連絡を送ったという事は、我々が探していた情報が得られた。ということですね」


「……あぁ。こ、これだ」


 守弘は胸ポケットから二つのSDカードを取り出し、それを見た女性はかたわらにいた部下を横目で見ると、部下は何も言わずに奥の方へと消えていった。

 ほどなくしてノートパソコンを持ってきた部下が女性のもとに静かにパソコンを置くと、すでに起動しているパソコンに手早くカードを差し込み、記録された映像を再生した。


「……さっきの震度四の地震が起きた時間と、この記録された映像の時間は同じ。となると、あれは……とても信じ難いですが、この黒い女性が自力で起こしたのですね。それで、この青い髪の女性が出した二億は?」


「い、今ごろは事務所(ウチ)の方に、着いてるはずだ」


 女性は「そうですか」と一言返すと、再び無言になった。

 守弘は今にも叫びだしそうなほどに汗をかき、震えていた。

 彼は今日までに、多くの荒くれ者が跋扈(ばっこ)する修羅場を見て、生き抜いてきた。

 罵詈雑言が飛び交う一触即発の場から、組員同士がバカを言い合い笑い合う彼らにとっては柔和な場。

 組頭などの重役が会談する厳格な場。

 一切の感情を殺して目標を仕留める血なまぐさい場。

 世を知らない未熟者から、殺気を常に張り巡らせている者。笑顔の裏にドス黒い悪意を隠している者。歴戦の者だけが出せる威厳に満ちた者。

 あらゆる場所。あらゆる人物に出会い、彼の芯を鍛えあげてきた。

 ところがここは全てが違う。

 殺伐とした空気ではないが、厳粛なわけでもない。

 周りのスタッフは全員若いが、明らかに一般人とは雰囲気が違う。今も感情はまるで無く、一言も口を出さない。

 そんな正体の掴めない存在達が、閉鎖された空間で、守弘に沈黙と黙視が向けられる。

 それだけで彼の震えは加速する。これまでの修羅場が生ぬるく感じるほどに。


「ともあれ、これで我々の求めていた物は手に入りました。どうも、()()()()()()()


 女性が言い終わると、守弘は荒い呼吸を必死に整えながらか細い声で言葉を喉奥から出した。


「ち、ちょっと……待って、くれ」


「……何か?」


 守弘は正そうとして余計に乱れている呼吸の中から、必死になって言葉を出し、対する女性は氷の眼差しで守弘を見る。


「……俺は……もうここから帰れない。それは……分かっていたし、承知の上でここに来た。だけど…………俺の。俺の下っ端達は、見逃してくれ! 俺は何をしても構わねぇから!」


 頭を下げながら守弘は女性へ頼み込んだ。

 それを聞いた女性は、しばらく黙って一息吐くと、特に残念そうでも、苦渋の選択の末に選んだ、というわけでもなく「ダメです」とあっさり返した。

 それを聞いた守弘は絶望に満ちた顔をしながら「そんな」と言いつつ顔を上げた。


「頼む……頼むよ! 俺の下っ端は本当にアンタらのことは知らないんだ!」


「それが何ですか? 貴方をここで処理したら、残された下っ端は? 貴方と最後に別れたここら一帯をくまなく探すでしょう。それは我々にとって脅威であり、障害に他ならない。故に、我々の手で彼らもこの後、例外なく処分いたします」


「あ、あぁ……」


「そもそも貴方たちは一般人の目から見れば反社会的な存在。それが一つ二つ無くなっても、周りは誰も気にしないし、覚えていても三日もあれば完全に忘れられます。同業者が調べようとしても、その時にはもう手遅れ。やみくもに首をつっこむところも無いでしょう」


 反社会的存在であるが故のツケが思わぬ形で帰ってくる。

 一般人なら誰も気にかけず、誰も関わろうとしない立場が、これから闇に葬られる守弘の首を締めつける。


「ですがこの重要な情報を持って来た功績は認めます。だから彼らは、痛みなく、恐れさせることなく処分させてもらいます」


「待ってくれ! そんなことをしたら……ウチの上司が黙っちゃ──」


 守弘は言おうとしたことを、最後まで言わなかった。否、気づいてしまったがために言えなかった。


「……気がつかれましたか? でしたら最後なので真実を教えましょう。結論から言うと、貴方の上司はもうこの世にはいません。表向きには拘留中とは銘打っていますがね。本来、この任務は貴方の上司がまっとうすべきものでした。ですが彼は期限を超過して、なお手に入れるべき情報を得られなかった」


 女性は淡々と話し、守弘は彼女の一言一句に、顔を青ざめさていく。


 ※


 ──時は守弘の上司、国松が問題を起こした当日へさかのぼる。

 とあるレストランの一角。そこに大手の証券会社の地位を示すバッジを、胸ポケットに付けた、三十前半の若い男性の役員が二人。対面にスーツを着た四十半ばの男性、国松が一人。


「……どこを泳いでいたのか……それはもう、どうでも良いことです」


 役員が、若鶏の唐揚げを食べながら、守弘の上司を見下す。

 国松は何も言わず、目線を下げて震えていた。


「期限、というのは絶対です。我々のみならず、社会では普通のことを貴方は守れなかった。にもかかわらず貴方はその期限を超えて、あまつさえ成果の一つも出せず終い……。とても見逃せる事ではありません」


「今回の件は、『ペナルティー』をつけざるを得ません。追ってその旨は知らせます」


 役員が言い終えると、フォークで唐揚げを刺して口に入れた。

 その時、国松は口に笑みを浮かべて小さく笑い始めた。


「そうかい……。それなら……俺にだって……切り札はあるぞ?」


「……何でしょうか?」


「オタクらのことさ。俺は()()()()()()()()()! コイツを表沙汰にすれば、お前らだって困るだろう? えぇ?」


 国松はペナルティーを恐れて、後先を考えずに口を滑らせてしまった。

 彼からすれば、目の前にいる存在を揺さぶるには恰好のエサと思っての発言だったのだろうが、二人の役員はまるで動じない。


「そう来るだろうとは思いました。今の発言は、冗談でも言ってはならない事でしたが、それを分かって言ったのなら、大層な勇気でしたね。では私たちからも切り札の一つを出しましょう」


 そう言うと、唐揚げを食べていた役員の一人が内ポケットから二枚の写真を出した。

 それを見た国松は、とたんに顔をこわばらせた。


「分かりますね? 貴方の妻子です。既に我々の方で、二人に関することは全て把握しています。住まいはもちろん、会社までの経路。おおよその出勤時間。業務内容。休憩時間。退社時間。帰路。その他全てね。お子様も同じです。二人は我々の手中にあります。そして貴方は今、タブー中のタブーに触れてしまった。よって今この瞬間、この二人を先にペナルティーの対象とします」


 国松はワナワナと震えながら、うわごとのように「やめろ」と言うが、役員は残りの唐揚げを食べながら、写真をしまった。

 国松は片手を懐に伸ばすも、それすら二人には見切られてしまっていた。


「ここで我々を撃ちますか。そんなことをしても結果は変わりませんよ」


 国松は目線を上げて周りを見やると、離れた席から横目で見ている者が一人。会話をしながら見ている者が一人。テーブルを整理しながら、店員がウインドウ越しに鋭い眼差しを国松へと向けていた。

 逃げ場のない状況に国松はしばらく大人しくしていたが、とうとう彼に与えられた現実が理性を崩したか、彼は雄叫びをあげてテーブルをひっくり返し、一人の顔面にグラスをぶつけると写真を出したもう一人の役員を集中的に殴りまくった。

 一通り殴り終えると、彼は逃げるように去って行った。

 だがその後に待っていたのは、彼の妻子が家にいなかった事だった。

 争った形跡はないが、普段ならいるはずの時間にどこにもいない。

 それは国松を絶望の淵に立たせるには十分すぎる事実だった。

 発狂しそうな状況下、国松は残された時間に必死に頭を回らせていると、ふと一枚の紙を取り、そこにある文字列を書きつらねた。

 翌日。国松は例の紙を渡し、守弘の前で逮捕、連行された。

 パトカーに乗せられた彼は、守弘にした事と、この後に待つ結末に耐えられず、とうとう壊れてヘラヘラと笑い始め、最期の瞬間まで涙ながらに笑っていた。


 ※


 ──時と場所は戻り、事の真相と上司が逮捕された()()理由を聞かされた守弘は、愕然としながら立っていた。


「もうお分かりですね。つまり貴方たちは道連れにされたのですよ。彼が余計な一言を言わなければ、貴方たちは『倒産して無職になった一般人』として生きられたのですが、それすらも彼は無下にしてしまった。我々を憎むのは、お門違いも(はなは)だしい。真に憎むは貴方の上司、国松さんなのですよ」


 守弘の呼吸が荒くなる。突きつけられた現実と、変えようのないこの後の結末。

 それでもなお守弘は残された勇気を振り絞り、目の前の女性に土下座をして懇願をし始めた。


「そ、それでも! お願いだ! 俺の、俺の部下には手を出さないでくれ! 後生だ! 頼む……! 頼む……!」


 額を床につけて泣きながら哀願する守弘。

 嗚咽(おえつ)交じりに、「頼む」と連呼する彼に女性が「顔を上げなさい」と言った。

 その言葉を聞いてゆっくりと頭をあげると、照明が逆光となり影が射して冷たさを増した眼差しが、彼を見据えながら女性は一言だけ言った。


「ダメです」


 それを聞いて声を出すより前に、背後から守弘の顔を覆うように、社員の一人がタオルで押さえつけた。

 守弘が一瞬びくりと体を震わせると、両腕が力無く垂れて二度と動くことはなかった。

 ゴム手袋を付けていた社員の一人が、目、鼻、口が赤くにじんだタオルを顔に巻きつけると、店の奥から運搬用の大箱が用意され、守弘は収納された。


「……『フェーズ3』に移行。私はこれより議場に移る。処理は任せますよ」


 女性は静かに店の奥へと戻り、社員達は機械のように現場の後始末を始めた。



 ──三日後、ニュースのキャスターが目下にある原稿を読み上げた。


『暴力団が経営していた金融会社、ウィズライフの全社員が、謎の失踪を遂げました。事務所内に争った形跡は無く、失踪から少なくとも三日ほど経っており、警察は、暴力団同士の抗争に巻き込まれたのでは。と調査を進めています』


 キャスターが淡々と原稿を読み上げ、特に言及することもなく次のニュースを読み上げていき、番組の合間のニュースは終わった。

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