表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/116

星の輝き 地の暗澹

 再開を果たした龍吾とその両親は翌朝、朝食を食べ終えて身支度を済ませると、いつもより明るい表情で玄関へと向かった。


「途中まで一緒に行こうか、父さん。二人とも。留守の間はよろしくな」


 雛月は深々と一礼をして見送り、輝夜は「何もないと思うけど気をつけて」と言って見送った。

 家を後にした二人は、用賀の駅まで歩いていると、正樹が龍吾にたどたどしく質問を投げる。


「りょ……龍吾、あの二人はいったい何なんだ? 何で龍吾の所にいるんだ?」


 父である正樹の質問は、必然的なものだった。

 しかし正直に答えたところで、一連の流れを信じられるとは思えず、かといってそれらしい嘘をすぐにつくことはできない龍吾は即興の嘘で返した。


「あー……。その……ちょっと身寄りがない人たちでさ。……バイト中で二人を見つけて……その、少しの間家にいさせることにしたんだ」


「……身寄りがないのに、二億もの借金を返せるのか?」


「それはつい最近、あの二人が実はすっごい金持ちだったことが分かってさ。身寄りがないところを助けてくれた礼っていうことで、返してくれたんだよ」


 龍吾自身も、かなり無理のある嘘を口にしているからか、最後の方では声が小さくなっていった。

 ところが正樹はそれを聞いても、「そうなのか」と言ってあっさりと納得をした。龍吾は予想外の反応に、思わず目を向けると「そういえば」と言いながら龍吾と目を合わせずに話し始める。


「りょ、龍吾が借金が完済したと聞いて、急いで飛んできたものだから、まだ用意とか終わってないんだ。だからこれから先、帰りが遅くなることもあるから、それだけはよろしくな」


 龍吾は自分の口にした嘘を流しているのか、それとも信じたのか分からないようで、拍子の抜けた顔で聞いていた。

 駅に着き、改札で別れると満面の笑みで正樹に手を振りながら、龍吾は渋谷行きのホームに行った。

 その後ろ姿を正樹はぎこちない笑みを浮かべながら、龍吾が視界から消えるのを見届けると、中央林間行きのホームへと向かった。


 ※


 場は変わって龍吾宅。

 輝夜は朝食の片付けを始め、雛月は朝だというのに一向に目を覚まそうとしない瑞穂を気にかけ、薄い布団をかけて寝ている瑞穂の体を揺すった。


「あの、瑞穂さん。もう朝ですよ? お勤めには行かないのですか?」


 雛月が揺すると、瑞穂は不機嫌そうにうなりながら布団に身をくるませた。

 時間はまもなく九時になろうとしている。オロオロとしながらも雛月は瑞穂を優しく揺すって起こそうとする。

 すると寝ぼけながら瑞穂が体を起こし、「なに?」と不機嫌をあらわに雛月に問いかけた。


「あ……あの。もう九時になりますが……お勤めには……」


 雛月がたどたどしく言うと、瑞穂は大きく息を吐いて横になった。

 訳が分からず雛月は困惑し、瑞穂の名前を呼ぶと布団にくるまりながら、低い声で返した。


「あたしは午後からの出社なの。こんな時間に起こさないでよ」


「……そ、それは……。申し訳ありませんでした……」


 雛月の返しを聞いた瑞穂は横になりながら、またしても大きく息を吐いてそのまま眠ろうとしたが、すぐに起き上がって雛月に不満を吐いた。


「もう、変に起こすから目ぇ覚めちゃったじゃないのよ」


「も、申し訳ありません」


「住まわせてもらっているから、迷惑をかけないとか言って、思いっきりかけてんじゃん。ふざけてんの?」


 瑞穂が悪態をついていると、奥から輝夜が食器を洗うのを止めて二人の元に歩いてきた。

 天井に届くほどの黒い存在が近寄る光景は中々に威圧的なものだから瑞穂はたじろぎながら後ずさる。輝夜はその場に座ると頭を下げて謝罪をした。


「申し訳ありません、お母様。せっかくのお休みを邪魔したこと、雛月に変わってお詫びします」


 瑞穂は意外そうに驚き、雛月は見たことがないような目で輝夜の姿を見ている。


「そ、そこまでやらなくても良いわよ」


 瑞穂はその場を後にすると、ボサボサな髪をいじりながら浴室へと向かっていき、入ったことを確認すると雛月が口を開いた。


「輝夜様、これは私の失態です。本来は私が謝るのが道理です……。ですが私は……不敬ながら……なにか……あの人に頭を下げたくない気持ちが湧いているのです」


「言葉をわきまえなさい雛月。彼女は龍吾の母親。そして私たちは赤の他人なのよ」


「それはそうですが……」


「じゃあもうこの話はおしまい。お母様の布団を片付けなさい」


 雛月はなにか言いたげに輝夜を見送ると、しぶしぶと布団を片付けはじめた。

 風呂から出た瑞穂は、そのままテレビをつけるとスマートフォンを取り出していじり始めている。二人はつけっぱなしのテレビには目もくれず、スマートフォンをひたすらいじくる瑞穂の姿が奇妙に映り、特に雛月は理解できずに手で口元を触っていた。


「ねぇアンタ」


 唐突に瑞穂から声がかけられたが、瑞穂の言う『アンタ』とはどちらの方を言っているのか分からず、雛月は瑞穂と輝夜の両方に目を配らせている。


「アンタよ。そっちの黒い方」


 輝夜が「はい」と応えると、瑞穂はどこか見下したようにも、小馬鹿にしているようにも取れる表情で質問を投げる。


「アンタってさぁ、いったい何者なの? 二億もの借金を一日で返せるんだから、さぞ名のある会社の人なんでしょ? あぁ、それとも社長さん?」


 遠慮も躊躇もない質問に輝夜は少しの間黙ったが、直後に「化粧会社の者です」と嘘をつく。それを聞いた瑞穂は、部屋に響かんばかりの引き笑いをした。


「冗談言わないでよ。たしかにアンタ綺麗だけど、文字通りの色白な肌で、そんな長っがい髪引っさげて、コスプレじみた服みたいなの着てる人がいるかっつーの!」


 瑞穂はゲラゲラと笑いながら、リモコンをヒザに叩いていた。


「会社名は? どこに会社あんの? 資本金は? 従業員は? 社長は誰よ?」


 ゲスな表情で、舐めまわすように見ながら追及する瑞穂に、輝夜は表情を一切乱さない。そんな姿を見て、雛月はとっさに助け船を出して輝夜のフォローをした。


「わ、私たちの会社は……そう、し、渋谷という所にあります。名前は……永華えいかと言います」


 つい最近知った日本の地名に、雛月が知っている、月にある会社の名前を出してその場をごまかそうとするも、瑞穂は疑いの目で二人を見る。

 あからさまな嘘をついた為か、雛月の目線はせわしなく動くが、輝夜は相変わらず一切動じることなく瑞穂を見続けている。

 すると瑞穂は、無言で手に持ったスマートフォンをいじくり、しばらく画面を見ていると、鼻で笑いながら言った。


「そんな会社、ありませんけど? ホームページ出てこないんですけど?」


「……ほ、ほおむ、ぺえじ?」


「何言ってんのアンタ。……あ、もしかしてアンタ達って、詐欺師?」


「な! さ、詐欺師だなんて!」


 憤慨しながら雛月が前に身を起こすと、さえぎるように輝夜が手を出して、雛月を止めた。

 怒りをあらわにする雛月に対して、輝夜は澄ました顔で瑞穂に答えた。


「申し訳ありませんお母様。我が社には、『ほおむぺえじ』というのは無いのです」


「はぁー!? バカじゃない?! 今時ホームページの無い大手の会社があるかっての! やっぱアンタら詐欺師よ! 詐欺!」


「申し訳ありませんが、お教えすることはできません。なにせ我が社は、些細なことでも機密情報扱いなので」


「バカだバカ。本物のバカだ。そんなものないクセに。いい加減吐いちゃえば? 私たちは詐欺師ですって」


「機密情報なので、ご了承ください」


 ヘラヘラ笑いながら二人を蔑視する瑞穂に対して、輝夜の取り乱さない返しと口調で瑞穂は冷めたのか、鼻で笑うとテレビの方に目を移してそれっきり二人には目もくれなくなった。

 不意に瑞穂が立ち上がりそのまま玄関の方へと向かい、輝夜が冷静に「どちらへ?」と尋ねるも瑞穂の返しは冷たかった。


「どこだっていいでしょ」


 一言だけ言って瑞穂は家を後にした。

 家に静寂が戻ると雛月は地球に来て初めて声を荒げながら文句を言い始める。


「……なんなんですかあの人!? あれが本当に龍吾様のお母様ですか!? 無礼が甚だしいことこの上ありません!」


「口を慎みなさい、雛月」


「輝夜様もおかしいとは思いませんか!? 私はおかしいと思います。いえ、おかしい以外に言葉が出てきません! あれは別人ですよ!」


「さっきも言った通り、私たちは赤の他人。疑うのも、不信に思うのも必然だし、無礼な態度をとっても、私たちは文句を言える立場ではないわ」


「ですが……!」


 輝夜は横目で「これ以上言わせるな」と言わんばかりに睨みつけ、雛月もそれを感じ取ったか何も言わずに黙りこんだ。

 一方で、外に出た瑞穂はスマートフォンで電話をかけながら、白昼の通りを歩いていた。


「……もしもし? 私よ。……えぇ、まさかって思っていたけど本当だったわ。信じられる? 正直、私はまだ実感が掴めていないわ」


 瑞穂は電話越しの相手からの返しを聞いて、黒味を帯びた笑みを浮かべる。


「……えぇ、なんか化粧会社の人とか言ってたわ。あんなにあからさま過ぎるウソだったから思わず噴いちゃったわよ。……ええ……まぁ、また何かあったら連絡するわ。向こうはまだ気づいていないようだしね」


 通りを歩く瑞穂の後ろ姿を、四つの砲口の付いたぶ厚い鉄で出来ている輪を両手に持った青い髪の女性が見ていて、視界から瑞穂がいなくなると姿を消した。


 ※


『お前たちの成果は、我が軍設立史上、最悪の成果だ。恥を知れ!』


 用賀神社から離れた通り。かつて輝夜と冥たちが最初に戦った場所で、冥、風華、晶濟の三人が宙に浮いた薄いリングから『音声通話』と映された映像越しから、叱責を受けていた。

 若くしてエリートになったであろう男性長官からのヒステリー気味な声は、三人にとって耳障り以外になかった。


『そもそもこの失態の数々は何だ! どうしたらこんな風になる?! 今まで見逃してきていたことに調子づいて我々を侮辱しているのか!』


 失態に対しての叱責ではあるが、溜まっていたストレスをぶつけるような言い方に、冥は不服そうな表情を頭を下げた状態で浮かべていた。


「……申し訳ありません。この大失態。次こそは必ず成し遂げ……」


『次!? 次だと!? 冥……貴様はどこまで我々を愚弄する気だ! お前たちに任務を与えてからどれだけ期限を超えていると思っている!!』


 冥がひたすら耐える姿を気遣ってか、風華がたどたどしく言葉を出した。


「……あ、あの……ひ、一つだけ言わせてくだ」


『黙れ! 子供だからといって、今回の失態はお前にも責任がある。言い訳は無用だ!』


 がなりたてる声は風華の言葉をさえぎり、二の次を言わせなかった。

 半分ベソをかきはじめた風華に変わり、晶濟が変わって口を開いた。


「長官。まずは我々の失態を、今一度謝罪します。誠に申し訳ありませんでした」


『当たり前だ! 立場が立場なら貴様らまとめて処断ものだ!』


「ですが、一つ言わせて下さい。今回、目標としているあの人間の子。……雪下龍吾さん……でしたか。彼の追走中、私たちに第三勢力と思しき者が立ちふさがったのです」


「……そ、そう! なんかウサギの耳飾りをつけて、ニヤニヤ笑っているふざけた女が私たちの前に!」


 冥がここぞとばかりに口をはさむと、あれだけヒステリックに怒り狂っていた長官の声は、ピタリと止まり、少しの間木々のささやく音以外聞こえない静寂が訪れた。

 唐突に声が止まり、冥が「あの」と声をかけると、先ほどの荒ぶった声ではないものの、やや怒りを含んだ口調で長官からの声が返ってきた。


『……それについては今後、二度と。地球そっちにいても気安く口に出すな』


 長官からの返しは、冥の言った事が禁句である事をほのめかす言い方で、それを咎めるものではあったものの、何故なのかという理由は一切言わなかった。

 その理由を問おうとして、冥が口を開いたと同時に画面越しから長官の声が発せられた。


『たった今、本部より指令が下った。目標としている人間。雪下龍吾の親族が確認された。よってお前たちの任務を一旦変更する』


『音声通話』と書かれた画面から、二人の男女。雪下正樹と雪下瑞穂の二人が半々に映された映像へと切り替わった。

 正樹は事情は不明だが、必死の表情でどこかへ連絡をしており、瑞穂の方は夏の陽によって、輝く金色の時計を見ながら歩く姿が、鮮明に映されている。


『この二人。雪下正樹と雪下瑞穂を確保し、命が下り次第、処分しろ』


「……今度はこの二人を捉えよ、と。了解ですが、確認させて下さい。神無の軍の関与もそうですが、私たちに与えられている任務は、詳細に不透明な部分が多すぎます。せめて確保の理由だけでも」


『今のお前らに、我々の方から理由を教えるほどの成果を出しているか? あえて言うなら、契約の存在だけで十分だろう』


 冥は自分の置かれている立場に、何も言うことができず歯噛みしながら、映像を見ていた。


『分かったなら直ちに遂行しろ。それとお前たちでは力不足と判断し、我々の方からもう一人隊員を向かわせた。合流し次第、任務に移れ』


「その隊員は今どこに?」


「……ん? そこか? おお、どうやらお目当ての三人のようだな!」


 快活で、男勝りな声の方へと三人が振り向くと、白髪のショートヘアに、夏の日差しが似合う生き生きとした顔。天月人には珍しく、やや小麦色の肌で、白いチャイナドレスに似た服を着ている。冥ほどではないが豊満な胸と無駄のないスタイルの持ち主が三人の元へと歩み寄った。


「若いの、聞こえるか? 今、冥一行と合流した。これより任務に移る」


『よし。では先に瑞穂の確保にあたれ。目標への座標はこちらが送る。一人でも確保すれば、残りも動くだろう。くれぐれも目標を絶命させるようなことはするな。後、お前たちに今一度言っておく。今回の失態の数は本部の上官達も感心しない事態だ。これで失敗をしてみろ。タダではすまないと思え!』


 語尾を荒げながら言い終わると映像は途切れ、宙に浮いた薄いリングを冥は回収した。

 風華、晶濟。そしてたった今出会った女性には見せないが、鬱憤のたまった顔を陰ながら浮かばせていた。


「生意気な口を叩くのぉ。あの若造は」


 心中を見透かして同情するように女性は冥に言い、それに応じて冥は苛立った顔をすました顔に変えて振り向いた。


「解放軍の中でも名だたる兵。まして自分よりも格上の者の失態ともなれば、立場なぞ関係なく、遠慮なく言いたいことを言えるのだからな」


 女性は言い終わるとニカっと太陽のような眩しい笑顔を浮かべ、冥を励ます。


「だが安ぜよ! このわしがそなたの名誉挽回に、助力するからな!」


 所々で古風な口調の女性は朗らかに笑う。そこに風華が、おどおどしながら女性に「あのぅ」と声をかけた。


「助力はありがたいのですが……。貴女はどちら様ですか? 失礼ですが私と冥様……と晶濟様は、貴女を存じません」


「む? おぉ、そうだったな! すまんすまん。月宮(つきのみや)解放軍(かいほうぐん)もいくつかの部隊に分かれているものだから、わしが知っていてもそなたらが知らんのも無理はない!」


 そう言い終わると、女性は左手を腰に当て、右手で鎖骨の下を小突きながら名乗った。


「わしの名は、八千慧(やちえ)。解放軍第三派の副官よ。優秀な者が集う第一派。その一人である冥と共に仕事ができること。まこと光栄なことよ!」


「……嫌味か?」


「否! 断じて否! 第一派で名高い冥が再三の失敗を犯す。なれば今回の目的たる人間は、只者ではないと考えつくのは当然のこと」


 輝夜とは違った不敵な笑みを浮かべて、失態を笑うこともなく否定も批判もしない情味のある雰囲気に、風華は緊張の解けた表情でそろりと横から口をはさんだ。


「……確かに……あの人は只者ではありません……。私たちがここに来るまでに思い描いていた人間の姿を、根底から覆したほどの人ですから。……それは多分輝夜さんと一緒にいるから。だと思いますが……」


「ふむ。天月人たるそなたが言うなら、それ相応に大した者なのだろう。……ところで話は変わるが、そなたはなんという名だ?」


「えっ……あ、私は風華と言います。冥様の従者にございます」


「ふむ、風華か」


 八千慧は風華の身体を頭の先からつま先までジッと見て、その姿に風華は不思議そうに「どうかしましたか?」と八千慧に尋ねると、八千慧は適当な返しをして話題をそらした。


(最近の子供は、やたらと発育が良いのう……。わしの頃はここまでではなかったぞ?)


「して、そなたが……晶濟とやらか? わしの記憶が正しければ、そなたは第一派でも、わしらの第三派にも見ぬ者だと思うが」


「……そうですねー。私は元々、第二派の所属でしたが、つい最近第一派に異動が決まり、冥さんとつい最近合流しましたのですー」


「なるほど。よろしい! これで互いの自己紹介も済んだ。……では……此度こたびの任を再度確認しようか?」


 朗らかで快活な表情は変わらないが、雰囲気と目の色が瞬時に一転して、仕事のそれへと変わった。

 まだ幼い風華ですら、八千慧の雰囲気が変わったことを感じとり、穏やかになりつつあった表情が、すぐに張り詰めた面持ちになった。


「そう固くならんとも良い。だが切り替えは大事だ。さて、目標は……先の若いのが言っていた……『瑞穂』とやらの確保。だけで良いのか?」


「今は。だがな。本来は雪下龍吾と輝夜を確保するのが、我々に課せられた任務だ」


「……なるほど、承知した。では、誰かここら付近の地理が分かる者は?」


 八千慧の問いに晶濟と風華が控えめに手を上げた。

 先に晶濟が前に出て宙に手をかざすと、細かな水晶が積み上がるように、用賀一帯が型作られた立体地図ができた。

 風華は晶濟の能力にポカンとしていたが、晶濟の呼びかけで我に戻り一帯の説明を始めた。


「今、私たちがいるのは、こちらの用賀神社より離れた、この丁字路のある通りですー」


 晶濟が一度説明を中断し、左手から丸型の水晶が出したと思うと、水晶は幾何学的な形から、十字型へと変形し水晶の地図上で赤、黄、青色の三つに分かれて浮いた。


「そしてこの黄色の十字が、目標の瑞穂が今いる場所です。赤と青は輝夜さんと従者さんがいる場所ですー」


「……ふむ。……離れた所にひらけた場所が二つあるな。ここは公園か?」


「はいー。一つは馬事公苑という所で、もう一方は砧公園という場所ですが、ここでは二度、私たち以外の天月人と輝夜さんたちが戦ったということがあってか、今は警備が強化されています」


「わしら以外? そんな話は聞いていないぞ」


 その言葉を聞いた冥は、疑惑が確信に変わったようにハッと目を見開いた。


「やはりお前も、何も聞かされていないのか。雪下龍吾が以前言っていたが、私たちの他に神無の軍勢も動いているようだ。一体本部は何を隠している?」


 八千慧も冥の言葉に、懸念と惑いが入り混じった複雑な表情を浮かべるも、八千慧はそれを押し殺すように真面目な表情へと戻した。


「今、わしらがそれを問い詰めたところで、あの若造が癇癪を起こすのは火を見るより明らか。ここは大人しくして、功を立ててから問うのが無難だろう。……それで風華とやら? そなたは名の通り風を操ることが出来るのか?」


「えっ……は、はい!」


「それはどの程度まで操れる? 非殺傷から殺傷まで細かな調整が出来るのか? かく乱を起こせるような工作は可能か?」


「まだ完全とは言えませんが、そのくらいの調整は出来ます!」


 それを聞いた八千慧は、悪知恵を思いついたようにニヤリと笑みを浮かべた。


「……良い。とても良いぞ! おまけに情報もある程度揃っているときた。風華、晶濟。知っている限りで構わぬ。もう少しこの一帯の情報を教えてくれぬか?」


 風華と晶濟は知っている限りの情報を八千慧に伝え、かくして八千慧の計画が動き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ