エピローグ
1500ユニーク突破致しました。
ありがとうございます。
「……お父さん」
エリスは、かつて父だった亡骸に寄り添う。
否。
傀儡の魔法が解けた今、やっと彼は、『エリスの父親の亡骸』になれたというべきだろうか。
ただ操られるだけの『人形』から、普通の『亡骸』へと――。
エリスが父との無言の会話を終えるのを待って、三人は奥の通路の先へと向かう。
あの男の言をそのまま信じるとすれば、あの男以外の『人間』は居ないらしい。
残敵掃討、という訳ではない。
そもそも、彼らがここに来た目的は、モラレス村から連れ去られた人々の奪還、ないしは、その遺体の埋葬だったのだから。
通路の奥には、左右に幾つかの部屋があった。
それを、手前から順番に調べていく。
そこは食料貯蔵庫だったり。
そこは書庫だったり。
そこは陣や薬が散らばる実験室だったり。
そこは牢屋だったり。
一言でいえば、凄惨な光景、だ。
男と女と老人と若者の遺体が、二重に三重に、床一面に積み重なっていた。
総計は三〇を少し超えたくらいだろう。
傀儡であった者もいただろうし、その実験の失敗作もいただろうし、それ以前に死んだ者もいただろう。
幸いに、と言って良いものか、獣に荒らされることも無く、また、洞窟の冷気のお蔭で腐ることもなく、一人一人の顔が判別できた。
ほとんどはモラレスの集落のものだったが、中には賊の仲間らしきものもいた。
それから彼らは延べ三日をかけて、洞窟内の探索と遺体の運び出しを行った。
幸いにも雨は上がり、晴れの日が続いたが、一日の大半を洞窟の中で過ごすことになった彼らにとっては、あまり違いが無かったのかもしれない。
探索をして改めて分かったことであるが、そこは隅々まで人の手が入れられており、遺跡と呼んでも差し支えない程であった。
天然自然に出来たとは到底考えられるものでは無く、男が魔法で整備したことは明白だったが、それが一体どのような術式によってなされたものであるかは、もう確認のしようが無い。
ただ、少なくとも、『天才』という括りで縛れるほどの器ではなかったのだろう、とリチャードは結論付けた。
洞窟の入り口近くの森の中に野営をしながら、食料庫にあった台車に遺体を乗せ、地下から地上へと運んでいく。
運搬は、エリスがほぼ一人で行った。
急ではないものの短くない上り坂を、数人分の重量を載せた台車を引き、歩いていく。
それは大変な作業だが、力自慢の彼女向きではあった。
むしろ、横穴入り組む洞窟内の探索の方が、彼女にとって苦痛であっただろう。
生まれた時から、広くも無い集落と、見渡す限りの平原で暮らしてきた彼女にとっては、洞窟の中など、それこそ空想の世界にも等しい場所なのだから。
洞窟内を隈なく調べ、一通りの遺体を運び出した後、唯一心残りだったのは、村の皆を先祖の眠る丘に葬ってやれなかったことだろう。
村まではそこそこの距離がある。行けない訳ではないが、死臭に惹かれオオカミやクマが集まってきたら、と考えると二の足を踏むくらいには。
仕方なく、エリスは洞窟の付近の森を弔いの場と決めた。
一つ一つの墓に祈りを捧げ、最後の別れを告げる。
「済まなかったわね。……最後まで手伝ってくれてありがとう」
懐かしの我が家で机を囲みながら、エリスは感謝の意を向ける。
言葉少なにだが確かな優しさで協力してくれたクロエと、なんだかんだと言いながらもそれに付き合ったリチャードに対して。
「……でも、どうしよっかなー、これから。文字通り、一人きりになっちゃったわけだし」
言葉とは裏腹に、チラチラと何かを伺うように顔を見てくるクロエに対し、
「………………」
無言を貫くリチャード。
「…………一緒に来るか?」
やがて根負けしたように絞り出した彼の言葉に、クロエは一つ頷いた。
「これからヨロシクね」
騒がしい旅の仲間が一人増えるようだ。




