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無能スキル【石】と追放された俺~宝石の力で成り上がる~  作者: 海老沢大地
第3章 鉱山ギルドと魔石狩り

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第55話 魔石喰い

 複合魔石個体が杖を振り上げた瞬間、保管路の鉄粉が生き物のように動いた。


 銀色の線が床から立ち上がり、細い蛇の群れとなってナノたちへ襲いかかる。黒錆粉を含んだ赤黒い線も混じり、触れた石床をざらざらと硬化させながら迫ってきた。


「散れ!」


 グレンの怒号。


 ナノは左へ跳んだ。


 直後、さっきまで立っていた場所から黒い鉄棘が突き出す。あと半歩遅ければ、足首を貫かれていた。


 ロガが小槌で棘を叩き折る。


「こいつ、ゴブリンメイジの鉄呪より速いぞ!」


「複数の魔石を繋いでるからです!」


 ナノは叫びながら、複合魔石個体を見る。


 胸に鉄鋼魔石。


 右肩に黒錆。


 背中に硬殻魔石。


 杖には鉄呪魔石。


 それぞれの力が、無理やり黒い鉱石筋で接続されている。整えられていない。精錬もされていない。ただ力だけを繋ぎ、体へ押し込んでいる。


 魔石を使っているのではない。


 喰われている。


「イシ……モット……」


 複合魔石個体が掠れた声を漏らす。


 青白い片目は、ナノの胸元を見ていた。


 黒脈石の護符。


 魔石狩り班の札。


 そして、ナノの中にある【石】。


「オマエ……イシ……ヨコセ……!」


 複合魔石個体がナノへ向かって突進した。


 長い腕。


 黒錆に覆われた爪。


 ナノの足がすくむ。


 自分を狙っている。


 【石】を欲しがっている。


 その姿は、黒錆魔石へ手を伸ばしかけた自分と重なった。


 欲しい。


 もっと。


 何でも取り込めば強くなれる。


 止まれなければ、自分もああなる。


「ナノ、避けろ!」


 ロガが体当たりするようにナノを押した。


 2人は床へ転がる。


 黒錆の爪がすぐ横の鉄棚を引き裂いた。保管されていた小瓶が落ち、床で砕ける。低級魔石が散らばり、一斉に淡く光った。


 複合魔石個体の胸の筋が、それらへ伸びる。


「吸わせるな!」


 グレンが戦槌を振る。


「白剛震槌!」


 白い衝撃が床を走り、黒い鉱石筋を断ち切った。


 複合魔石個体が絶叫する。


「ギィアアアッ!」


 複数の魔石が同時に明滅した。


 鉄鋼の硬化。


 黒錆の暴力。


 硬殻の防御。


 鉄呪の操作。


 力同士が体内で衝突し、皮膚のあちこちが内側から膨れ上がる。


「ナノ、魔石の繋がりを読めるか!」


 グレンの声。


 ナノは恐怖で喉が詰まった。


 石眼を使えば、強制接続された複数の魔石情報が一気に流れ込む。自分の体が耐えられる保証はない。


 けれど、読まなければ、どこを切れば止まるか分からない。


「読みます!」


 ナノは叫び、石眼を開いた。


 白い光が視界を飲み込む。


 情報が洪水のように押し寄せた。


 ――鉄鋼魔石、胸部。


 ――黒錆魔石、右肩。


 ――硬殻魔石、背部。


 ――鉄呪魔石、杖および喉部。


 ――接続核……腹部中央。


 ――異物。


 ――人工接続痕。


 ――外部術式。


 頭が割れそうに痛む。


「うっ……!」


 膝が落ちる。


 右腕が熱を持つ。


 複合魔石個体の黒錆が、ナノの石紋へ繋がろうとしている。


 欲しい。


 吸え。


 あれを取り込めば、全部の力が手に入る。


 胸の奥から、自分ではない声が湧く。


「ナノ!」


 ロガの声。


 遠い。


「戻ってこい!」


 今度ははっきり聞こえた。


 ナノは歯を食いしばった。


 自分は魔石を狩る。


 見極める。


 無駄にしない。


 だが、欲のまま喰わない。


「腹の中央です!」


 ナノは叫んだ。


「全部を繋いでる核が、腹の中央にある! でも魔石じゃない! 黒い人工石みたいなものです!」


 グレンの目が鋭くなる。


「人工石だと?」


「誰かが……こいつに魔石を繋いでる!」


 複合魔石個体が杖を振り回す。


 鉄粉の刃が飛ぶ。


 ロガがナノの前へ立ち、小槌で1本を弾く。残った刃が肩をかすめ、革鎧が裂けた。


「ロガ!」


「見るな! 核を見ろ!」


 肩から血が滲んでいる。


 それでもロガは退かない。


 ナノは石眼を絞る。


 腹部中央。


 黒い石。


 複数の魔石筋が絡みつき、心臓のように脈打っている。


 だが、核の表面には隙間がない。


 外側の接続を1つずつ切らなければ、核へ届かない。


「最初に杖! 鉄呪の接続を切れば、周りの鉄粉が止まります!」


 セリカが投げ刃を放つ。


 杖先の鉄呪魔石へ命中。


 ひびが入り、浮いていた鉄粉が一斉に床へ落ちる。


「次、背中の硬殻! あれが核を守ってます!」


 ダルガと戦士が左右から挟み、複合魔石個体を前へ押し出す。


 グレンの戦槌が背中へ入った。


 硬殻魔石が砕け、背中の鉱石板が剥がれる。


 複合魔石個体の動きが荒くなる。


「イシ……ワタシノ……!」


 叫びは怒りではなかった。


 恐怖だった。


 魔石を失えば、自分がなくなる。


 そう怯えている。


 ナノの胸が痛んだ。


 この魔物も、最初からこうだったとは限らない。


 誰かに石を埋め込まれ、力を与えられ、欲に縛られた。


 けれど、止めなければ被害が広がる。


「右肩の黒錆は壊さないで! 粉が広がります! 肩と腹の接続線を切ってください!」


 ロガが前へ出た。


「俺がやる!」


「危ない!」


「お前が位置を言え!」


 ロガは複合魔石個体の左側へ滑り込み、小槌を低く構える。


 ナノには接続線が見える。


 右肩から胸を通り、腹部の核へ。


「胸の下! 赤黒い線が細くなる場所!」


「ここか!」


 ロガの小槌が入った。


 鈍い音。


 黒錆の接続線が切れた。


 右肩の赤黒い光が弱まる。


 複合魔石個体が膝をついた。


 腹部の核が露出する。


「グレンさん、今です!」


 グレンが戦槌を両手で握る。


 白剛石が強く光る。


「白剛震槌――穿芯!」


 真っ直ぐな一撃が、腹部の人工核を打ち抜いた。


 黒い石に亀裂が走る。


 複数の魔石筋が一斉に消えた。


 複合魔石個体の体が大きく震える。


 青白い片目が、ナノを見た。


「イシ……イラナイ……」


 掠れた声。


 その言葉を最後に、体から力が抜けた。


 石床へ崩れ落ちる。


 保管路に静寂が戻った。


 散らばった魔石の光が、1つずつ消えていく。


 ナノは石眼を閉じた。


 頭が熱い。


 右腕も重い。


 けれど、黒錆へ手を伸ばしたい欲はなかった。


 目の前の魔石喰いの姿が、欲の行き着く先を見せていた。


 ロガが肩を押さえながら近づいてくる。


「戻ってるか」


 ナノは顔を上げた。


「うん。戻ってる」


「よし」


 それだけ言って、ロガはその場へ座り込んだ。


 ナノも隣へ座る。


 ミラがすぐに2人の治療へ入った。


 グレンは砕けた人工核を拾い上げる。


 表面には、王都の神託塔で見た紋様に似た細い刻印があった。


 グレンの顔が険しくなる。


「これはドワーフの技術ではない」


 ナノは息を呑んだ。


「じゃあ、誰が……」


「調べる必要がある」


 ラウネが人工核を封印箱へ入れた。


 魔石を無理やり繋ぎ、魔物を魔石喰いへ変えた存在。


 その背後には、坑道街だけでは終わらない何かがある。


     *


 数日後、保管路の安全が確認された。


 魔石狩り班は、回収された魔石を1つずつ分類し直した。使えるもの、精錬が必要なもの、封印すべきもの。ナノもその作業へ加わった。


 以前なら、目の前に並ぶ魔石を自分の力として見ていた。


 今は違う。


 この石は治療へ。


 この石は坑道補強へ。


 これは研究へ。


 これは危険だから封印。


 選び、残し、繋いでいく。


 それが魔石狩りの仕事だった。


 作業を終えた夕刻、ダルガがナノへ言った。


「第3章の試練は終わりだ」


「終わり……」


「ああ。お前は魔石を欲するだけの者から、魔石を選べる者になった」


 ナノは胸元の魔石狩り班の札を握った。


 完全黒錆魔石は、まだ吸収していない。


 それでも焦りは以前より薄かった。


「次は何をするんですか」


 グレンが答えた。


「ドワーフ領の外へ出る」


 ナノの目が大きくなる。


「外へ?」


「ああ。人工核の刻印を調べるには、この坑道街だけでは足りん。それに、お前の【石】も、ドワーフの石だけで育て続ける段階を終えつつある」


 ロガが顔をしかめる。


「まさか、こいつ1人で行かせる気じゃないよな」


 グレンはロガを見る。


「誰もそう言っていない」


「なら、俺も行く」


「勝手に決めるな」


「決めた」


 ナノはロガの横顔を見て、少し笑った。


「ありがとう」


「まだ連れていくって決まってねぇ」


「でも来るつもりなんでしょ」


「……相棒だからな」


 今度は照れながらも、否定しなかった。


 ナノは坑道街を見渡した。


 黒鉄炉の火。


 鉱脈灯。


 グレンの工房。


 ミラの治療室。


 ラウネのギルド。


 谷底から辿り着いたこの街は、いつの間にか自分の居場所になっていた。


 ここで無能ではないと証明した。


 石を磨いた。


 魔石を狩った。


 欲に飲まれかけ、何度も戻った。


 そして今、外の世界へ向かう。


 第3章 鉱山ギルドと魔石狩り――完。

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