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無能スキル【石】と追放された俺~宝石の力で成り上がる~  作者: 海老沢大地
第3章 鉱山ギルドと魔石狩り

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第53話 魔石狩り班の証

 最終適合試験から2日後、ナノは坑道ギルドの広間へ呼び出された。


 右手にはまだ薄い包帯が巻かれている。黒錆の赤い線は消えたが、手首の内側には灰色の筋が残っていた。触っても痛くない。それでも見るたび、完全黒錆魔石へ手を伸ばした瞬間を思い出す。


 広間には、普段より多くの者が集まっていた。


 依頼板の前にいた冒険者たちも、酒場で朝から杯を傾けていたドワーフたちも、壁際へ寄って中央を空けている。広間の奥にはラウネ、グレン、ミラ、ダルガ、セリカが並んでいた。


「何が始まるんだろう」


 ナノが小声で言うと、隣のロガは知らない顔をした。


「さぁな」


「ロガ、何か知ってるでしょ」


「知らねぇ」


「目が泳いでる」


「お前に言われたくねぇよ」


 ラウネが記録板を閉じ、広間中央へ出た。


「ナノ。前へ」


「は、はい」


 急に喉が乾いた。


 集まった者たちの間を歩く。以前なら、これほど多くの視線を浴びれば俯いていた。神託塔で笑われた記憶が、足を止めていた。


 今日は胸元の護符を握り、前を見た。


 怖い。


 でも、逃げたくはなかった。


 ダルガが手にしているものが見えた。


 小さな灰黒色の札。


 鉄製の見習い証とは違う。表面には、槌、魔石、3本の採掘線を組み合わせた紋章が刻まれている。


「ナノ」


 ダルガの声が広間へ響く。


「お前はこれまで、硬殻モグラ、鉄鋼ゴブリン、ゴブリンメイジ、石纏い蜥蜴、黒錆化前個体、黒錆粉小鬼の依頼に関わった」


 並べられた名前を聞くたび、場面が浮かんだ。


 湿った坑道。


 魔物の熱。


 ナイフを握る震え。


 欲に引かれた右腕。


 戻ってこいと叫ぶロガの声。


「魔石を壊さず取り出し、状態を記録し、危険な石を欲したことも隠さず報告した」


 ナノの胸が痛んだ。


 褒められることだけではない。


 自分の危うさも、皆の前で語られている。


 けれど、恥じるだけではなかった。


 失敗しかけた。


 飲まれかけた。


 そのたびに戻った。


 ダルガは続けた。


「魔石狩り班は、強い魔物を倒せる者だけを求めてはいない。石を見極め、命を無駄にせず、自分の欲も危険として扱える者を必要とする」


 灰黒色の札が差し出される。


「本日より、ナノを魔石狩り班の準構成員として認める」


 広間が静まり返った。


 ナノは言葉を失った。


「俺が……魔石狩り班に?」


「まだ準構成員だ。単独依頼は禁止。上位魔石への接触にも監督がつく」


 ダルガの目が少し柔らかくなる。


「だが、お前の目と手は、班に必要だ」


 必要。


 その言葉が胸の奥へ沈み、熱になって広がった。


 神託塔では、無能とされた。


 王都では、家族を引きずり落とす存在だった。


 ここでは、自分の目と手が必要だと言われた。


 ナノは札を受け取ろうとした。


 だが、指が震えてうまく掴めない。


「す、すみません……」


「謝るな」


 ダルガが低く言った。


「震えていても、落とさなければいい」


 ナノは両手で札を受け取った。


 冷たい。


 重い。


 見習い証を初めてもらった日より、さらに重く感じた。


「……ありがとうございます」


 声が詰まる。


 目に涙が浮かび、視界が滲んだ。


「俺、まだ弱いです。黒錆にも飲まれかけるし、戦いで止まることもあります。それでも……必要だと言ってもらえたことを、無駄にしません」


 ダルガは頷いた。


「弱いことは知っている」


 広間の何人かが小さく笑う。


 ナノも涙のまま苦笑した。


「でも、折れずに戻ることも知っている」


 その一言で、ナノは俯いた。


 今度は逃げるためではなく、涙を見られたくなかったからだ。


 背後から、ロガの声がした。


「おい、泣きすぎだろ」


「……泣いてない」


「どう見ても泣いてる」


「石眼の反動」


「2日前の反動が残るかよ」


 広間に笑いが広がった。


 馬鹿にする笑いではない。


 温かく、自分をその場へ入れてくれる笑いだった。


 ロガがナノの隣へ並ぶ。


「で、俺の相棒が準構成員になったわけだけど」


「今、普通に相棒って言ったね」


「うるさい。今日はいいんだよ」


「今日だけ?」


「調子に乗るな」


 ラウネが小さく咳払いした。


「ナノ。札を胸元につけて」


 ナノは見習い証の横へ、魔石狩り班の札をつけた。


 鉄と灰黒色、2つの札が並ぶ。


 胸元には黒脈石の護符。


 どれも、自分1人で得たものではない。


 グレン、ミラ、ラウネ、ダルガ、セリカ、そしてロガ。


 多くの声と手に支えられて、ここまで来た証だった。


 広間の奥で槌が1度だけ鳴らされた。


 かん。


 魔石狩り班へ新しい者を迎える、地底の短い祝福だった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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